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【創作】真冬のその先にact.3



「…ん」
 まふゆが目覚めると、ベッドの横の出窓から、オレンジの夕焼けが眩しく、その輝きが差し込んでいた。
 暫くボーッと夕焼けの光を浴びていると、光が強いのか隣で小さな寝息を立てるまりんが、規則正しい呼吸で眠っていたが、「んん…」と声を漏らし、目覚めた。
「ん…ん…。まふ…ゆさん?」
 焦点がなかなか合わず、まりんは眸をパチパチさせながら右手を伸ばす。その細い腕を掴み、自分の頬に当てにっこり微笑むまふゆに、
「…あ…お、おはようございます。まふゆさん」
 まりんは照れ隠しに微苦笑を浮かべた。
「ん。おはよう、まりん」
 …綺麗、とまりんは、夕陽を背にして微笑むまふゆのことを、頬を赤らめながら思った。
 金糸の肩まで伸びたウェーブはキラキラ光り、碧眼も憑き物が取れたかのように輝いている。金の刺繍の入った黒シャツの姿は、どこかしら高貴な雰囲気が滲み、過去一番の美しさを放っていた。
「どこも辛くない?疲れはとれた?」
「…はい。平気です」
「良かった…」
 そう言って、まふゆの白のシルクシャツを着たまりんの額に口づけると、身体を起こして背後で背もたれになるかたちでまりんを支える。
「お腹…減らない?もう少しで夕食の時間だよ」
「…お腹…減ります?」
 オウム返しのようにまりんが訊くと、まふゆは苦笑しながら、
「うん。お腹の虫が鳴くぐらいね」
 そう言って、腹部を擦りながら返事する、まふゆ。
 美麗な容姿と相反して、もとの性格は王子でも、貴公子でもなく、レディ・ファーストを心掛ける、所作の美しい、どこにでも居るような青年だった。
 素のまふゆを感じれて、まりんはクスクス笑い出す。
「ん?どうかしたの?」
 首を傾げ、何故そんなにも楽しげに笑えるのか訊く。
「…だって…ふふ…まふゆさん…可愛いなと思ってしまって…。あ、別に馬鹿にしているわけではありませんよ!」
「…女の子から可愛いなんて言われたのは…うん、初めてだね。勿論、馬鹿にされたなんて思ってもいないよ。今までは、綺麗とか、美人とか、麗しいとか、何だか仰々しい褒め言葉ばかりだったから…可愛いは…やっぱり新鮮」
「お…怒っていませんか?」
 おずおずと尋ねるまりんが、まふゆの表情を伺う。
「なんで怒る必要があるの?まだ…感情が芽生えたばかりだから、怒る…ってことが良く分からないんだ…」
「…そう…ですか…」
 まりんが淋しそうに呟くので、まふゆはハーッと息を漏らす。
「…お腹減った」
まふゆが呟くと、同時に元気な少年が勢いよく扉を開けて、部屋に入ってきた。
「あーるじ、主。そろそろ夕飯ですよー…ん?」
 ウルフカットの艷やかさを保った黒髪と、深いグレーの眸をした、口は悪いがなかなかの美少年が黒のロングコートに身を包み、思わず熱くないのか?と突っ込みを入れたくなる深紅のマントを首に巻いている。少年は、両手をコートのポケットに突っ込み、遠慮無しに喋ったが、二人の姿を、特にまりんの存在に衝撃を受けた。
「う…わ…天使かよ…」
 少年の言葉と存在に怯えたまりんは、ガシッとまふゆの脇腹に抱きつく。
「大丈夫だよ、まりん。彼は僕の…なんというか…家政夫で、家事とか掃除とか任せているんだ」
「通り名は、ディフォ。本名はヒ・ミ・ツ。よろしく、天使ちゃん。あんた、磨けば光るタイプだね〜それもかなりの美人にね。俺の眸に狂いはないからさ。保証するよ」
「わ…わたし、天使ではありません。ディフォ様」
 まふゆの背中から、顔を出してまりんが訂正すると、ディフォは、おお!と叫び、
「ディフォ様、言った?マジ?様呼ばわりされれたの初めてだ!超嬉しい!歓喜の歌を捧げたいくらいだ」
 そう、早口で熱弁するディフォに、イライラを募らせたまふゆが耐えかねず一喝する。
「ディフォ、いい加減にするんだ!まりんへの歓喜の歌も必要ないし…お前、超がつく程の音痴だからな」
 ディフォはまふゆの冷めた態度に眸をバチバチさせる。
「お…おおー!主、すごいじゃん!初めてですよ、主が怒ったの。いつも、ニコニコ顔が主のトレードマークだったのに…すげぇ、もしかして、天使ちゃんとなんか関係ある?」
「…そんな詮索は必要なし。それより、ディフォ、言いたいことがあるんだけど…」
 まふゆが、ディフォの眸を真っ直ぐ射るように見返して、真剣な口調で言う。

「お腹減ったんだけど…」
 
 まふゆから、どんな言葉が降ってくるのか、ディフォは身構えると、予想外の言葉にウルフカットの家政夫、ディフォ・アーヴンは言葉を失い、
「はい、ただいま作ってお持ちします」
と、肩を落としてズンズンと台所まで向かっていった。
「大丈夫、ディフォは根は悪い奴じゃないからさ。ちょっと人一倍リアクションが、大きいだけで…。だから怯えないで」
 まりんの白銀のストレートヘアに手櫛を入れながら、まふゆはまりんを気遣う。
「はい。まふゆさんが仰っしゃるのなら…信じます」
まふゆは、まりんの頭を支えながら口づけると、表情を和らげうっとりと夢めみ心地になる。だが、それと同時に、ディフォが勢いよく扉を開けたので、二人はびっくりするし、ディフォもタイミング外した…と真っ赤になる。
「…あ…主、夕飯は海老ドリアでも構いませんか?あ…それから、俺…何も見ていないッスから…アハハ」
「ディフォ、君なんで僕の部屋にノック無用で入って来るかなー?施錠した方がプライバシーを守れるかな」
「そ、そうですね。俺、猪突猛進な性格だから、歯止めの効く鍵が有っ方が…良いかもしれませんね」
ウルフカットの後頭部を掻きながら、どこか淋しげな表情を浮かべる、ディフォ。
「夕飯、海老ドリアで構わないよ。君の作るご飯は一流だからね」
 すると、沈んだ表情のディフォが、パァァァと笑顔になる。
「かしこまりました、主!」
 そう言って、扉も閉めずに猛ダッシュで部屋を出ていった。
 まふゆとまりんは、ディフォの、コロコロ変わる表情に、クスッと笑うと、額を重ねる。
「少し時間もかかるし、もう少し眠っていて構わいよ。僕は散らかった仕事部屋の片づけをしてくるから」
金糸の刺繍が施された黒のシャツに白のジャケットを羽織り、まふゆは寝室を出ていこうとするが、まりんが、
「待って!」
と叫ぶ。
「もし叶うなら、もう少しまふゆさんの側にいたい。…いえ、わたし…少しでもまふゆさんを見ていたいです。安心するから…」
 まふゆは、内心舞い上がるような幸福感に襲われていたが、敢えて口にはせず、いつも通り冷静沈着な普段のまふゆに戻った。
「分かったよ、片づけは後回しにする。僕も、本当は君と1秒でも長く一緒にいたいんだ」
 そう言って、まふゆはベッドから降りるのを止めて、まりんを背後から抱きしめるように幾つものピローが重なり合ったところに身体を預け、天井を見つめる。
 …どうしたら、まりんを独り占め出来るのだろう。
 束縛は、嫌だ。自由に気の向くまま羽ばたいて欲しい。
その姿を、僕にだけ見せて欲しい…。惚れた弱みか、まふゆはまりんの白銀のストレートヘアを再び手櫛で梳きながら、悶々と考えていた。
まりん…僕の大事な女の子。

真冬のその先にact.4に続く 


はじめましての方、
改めましての方、
こんにちは。
ふありの書斎です。
今回は、まふゆとまりんの恋愛モノになっております。
少女小説です。
一つ前の作品に、某クリエーター様が、官能小説と表現されていたので、慌てて前書きに追記を足しました。
すいません…わたしに官能小説は無理、書けません。
 文学作品の中に、多少の性的描写も入れるのが主という言葉が、少しばかり曖昧に記憶に残っています。ですが、わたしは文芸ではなく、あくまでも少女小説のカテゴリを貫きたいのです。
この先の、まふゆとまりんを、あたたかく見守って頂けると幸いです。
まふゆは、見た目こそ美麗な容姿、所作を持っていますが…結構面白い人、お茶目な人だったりします。そこら辺に、まふゆの人間味を表現出来たらと、思う次第です。どうか、今後も宜しくお願いします。

そして、今作も引き続き美麗なまふゆのモデル絵をお貸し下さった月猫ゆめや様、感謝の気持でいっぱいです。いつも、美麗イラストを眺めながら、月猫様のイラストに恥じない作品を書くのだと奮起しております。有難うございます。

それでは皆さま、寒さも一段と厳しくなって来ましたので、あたたかくお過ごし下さい、そして、ご自愛下さいませ。

2024.2
ふありの書斎


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