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【創作】真冬のその先にact.6

 王都の街のきらびやかな大通りを、豪華な四輪馬車に揺られながら、まふゆ達一行は

『なんでもご相談承ります、お気軽にお尋ね下さい。
オヴェリア弁護士事務所
代表・オヴェリア・ルーシー』
 
と、名刺に記されたビジネス界隈の住所に向かっていた。すこし王宮から離れたその界隈は、淡々とした代わり映えのないオフィスがぎゅうぎゅうと箱にでも収められているような、窮屈感と圧迫感を醸し出していた。その中で一軒、この様な界隈には似合わない、ド派手なヴァイオレットピンクのキラキラを超えて、ギラギラのラメが輝く外装の建物を発見した。
「…げ。何だよこのケバい外装は。あ…主。まさかとは思いますけど、ココじゃないスよね?」
 冷や汗を流しながらディフォが、訊くとまふゆは、
「ん?なんか問題でもあるの?ココだよ」
さらりと答える。
「…え」
 少なからず、まりんも驚きを隠せないようで、ド派手なヴァイオレットピンクの壁を凝視して固まってしまった。
「ふたりとも、見かけだけで判断しちゃ駄目だよ。オヴェリアは、とても聡明で良い女性だから、何も心配しなくて大丈夫」
 そう言ってにっこりスマイルな主人を見ながら、ディフォは小さく溜息をつく。
「…は…はい」
「さあ二人とも行くよ。馬車から降りて。まりん、大丈夫?疲れていない?」
 まふゆが、『ル・ディアナ』を纏うまりんを抱えて、馬車から降りる。
「だ…大丈夫です。ご心配なく」
 だが、未だこわばった表情のまりんを心配するまふゆと、軽く馬車から飛び降り華麗な着地をするディフォが、
「天使ちゃん、いつでも降りていいよ。俺が受け止めるから」 
そう言って、ニヤッと笑うディフォに、まふゆがムッとした視線を向ける。
「君の手を煩わせるほど、困っていないよ。さ、まりん降りるからね」
 丁度その時、馬車が揺れ、まりんは慌ててまふゆの首に両手を回し、ぎゅうとしがみつく。
「あっ…ご、ごめんなさい!」
 まりんが、謝るとまふゆは特別謝る必要もないのになぁ…と、内心思いつつ。
「謝る必要なんて無いよ」
 と、まりんの白銀の髪を梳いて返事をする。
「おーい!お二人さん、早く降りろっての!」
 ディフォが、茶化しながら声を掛けてくる。まふゆは、分かっているよと、心の中で呟き軽い優雅な足取りで、馬車を降りると、御者にチップを渡しカラカラと、馬の蹄鉄を響かせて去っていく四輪馬車を見送り、オヴェリア・ルーシーの事務所の前に3人で並んだ。
 玄関のベルを鳴らすと、扉は開いていて、キィっと小さくきしむ音がして、自然とゆっくり開いた。そして、奥から、声がした。
「ちょっと待ってて〜」
という、メゾソプラノのどこか色気のある声が返ってきた。まりんは、下を向き、ぎゅうと唇を噛み、でも何処か淋しげな表情をしていた。
「…まりん?疲れた?なんだか…さっきからずっと元気がないみたいだけど…」
 まふゆは、何処か意気消沈しているまりんを、見つめ察する。
「だ、大丈夫です!た…ただ…。まふゆさんには色々な女性の方とお知り合いなんだって…思ってしまいまして。驚きというか…」
 そこにディフォが割入って、ニマニマ笑う。
「それ。ヤキモチだろ、天使ちゃん。でも、このくらいで驚いてちゃ、この先自分の心が保たないぜ。なんたって、主の女関係は…んっ!グググッゥ…ゴ…ゴホッ!っ…ひでー主!何すんスか…ケホケホ」
 ディフォが、咳き込みながらまふゆを睨む。
「ちょ〜っと、ウチの玄関先でうるさいわよ!余所でやって頂戴…ん…?あらぁ〜ちょっとぉ、ふゆちゃん!アタシず〜っと待ってたのよ。連絡もらってから、もう指を数える如くアナタが来てくれるの待ってたの」
 そう独特の喋り方をしながらオヴェリアは、まふゆに片目をつむると、ディフォと、まりんに視線を配る。
「相変わらずね〜坊やの、元気だけが取り柄のディフォちゃん。でもって、はは〜ん。アナタが『まりんちゃん』ね。ふゆクンから話は聞いてるけど…まさか、こんなお姫だとは思わなかったわ。それに、このドレス…めちゃくちゃイカしているじゃな〜い。こ〜ゆう、可憐で美しいドレスが似合う女、なかなか居ないものね〜」
 もともと、身長が高いため、オヴェリアは腰に手を当て、ン〜?とまりんを、観察する。
「白銀のサラサラの髪に、思慮深気な青の眸。細い首筋に…少し広いデコルテ。ドレスのデザイン上かしら、薄い胸板に、お胸はちょっと小ぶ…」
「ストップ!なに、天使ちゃんの髪や身体触って、堂々とレポしてんだよ!このカマ男!」
 ディフォの言葉に、まりんが息を呑む。
「…だ…男性の方なのですか?」
 おずおずと訊ねるまりんに、オヴェリアはにっこり笑って。
「身体以外は、どこもかしこもみ〜んな、お・ん・なよぉ〜。勿論、ココロだって」
 同性だからと、髪も身体も触られて違和感がなかったが、一度『男』として認識してしまうと、まりんは、カアアアと赤面し、まふゆの背中に隠れてしまう。
「ほらほら、オヴェリア。あまり、まりんをいじめないで下さい。彼女はとても繊細な心の持ち主なんです」
「ふゆクンが惚れるのも分かるわ〜今じゃ天然記念物者の無垢で純真な美少女だもの〜。アタシが男だったら、食べちゃいたいくらい」
 先程からのオヴェリア発言に眸を閉じて、ふるふると痙攣させていたディフォが、
「だから…テメーはいっちょ前の男だってんだよ!女なのはそのケバい化粧とドレスだろ!」
「…んだとぉ!?さっきから、キャンキャン子犬みたいに喚いてんじゃ…ん。こほこほ。もうっ、ディフォちゃんったら。そんな言い方、傷つくわぁ〜」
「あーあー。好きなだけ傷つけよ、カマ男」
 ボソッと呟くディフォに、額に青筋を浮かべながらオヴェリアは手を玄関の奥にスッと伸ばし、
うるさい野良犬は放っておいて、さあ、まりんちゃんとふゆクン、奥の応接間にどうぞ」
 満面の笑みをたたえてオヴェリアは、先頭に立って応接間まで案内する。




 真冬のその先にact.7へ続く


はじめましての方、
あらためましての方、
こんにちは。
ふありの書斎です。
遂に、大物カマ男弁護士、オヴェリアの登場です。ふありの書斎は、どうしても物語にユーモアを入れたがる癖があります。読者様がクスッと小さく笑って下さると、もうそれで十分です。嬉しいです。
はぁ〜幸せだ。

アメリカの作家。
レイモンド・チャンドラーの作品に、『さらば、愛しき人よ』ではありませんが、ふありの書斎は、この度、持病の治療に専念するため、1ヶ月という不定期的な投稿に進路を変えていきます。
 その為、断筆をしようかとも考えましたが、やはり、残りの創作2篇を完成させるべく、不定期に投稿するつもりです。

ふありの書斎に、少しでも関わってくださったクリエーターの皆様。尊敬と感謝の気持を込めて、今迄有難うございました。そして、フォローさせて頂いている方々には引き続きフォローさせて頂きたいと思っております。
全くnoteから離れるのではなく、すこし離れたところから、皆さまを応援していきます。先程の重複になりますが、クリエーターを辞めるつもりはありません。
ただ、今の生活から病気の治療に専念するため、今迄の投稿のペースが遅くなるということです。
どうか皆さま、ご理解をお願いします。

そして、『真冬のその先に』で、美麗なイラストを貸して頂いた月猫ゆめや様、
『ふわふわ』
で、イラストをお借りしているどんむ様。
お時間は掛かりますが、必ず、完結させますので、今後とも宜しくお願いします。

それでは、皆さま、『しばしのお別れ』です。
わたしを応援して下さった方、見守って下さった方、フォローを差し上げたいのに、やむを得ず出来なかった方々、お詫びと感謝を捧げます。

2024.2
ふありの書斎

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