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綾凰華 「New Year & Birthday Live」

MEMBER
綾凰華 (vo)
矢吹卓 (p)
武藤良明 (g)
立川智也 (b)
濵﨑大地 (ds)
三國茉莉 (vln)

1月生まれの綾凰華(あやな)さんの、歌によるライブということで、ステージが始まるまでは正直ー大変失礼ながらー、どうなるのだろうという気持ちがあった。在団中はインタビューなどでも歌が課題とご本人が語っていた。雪組公演においても、観るたびに歌が少しずつ磨かれていくのははっきり感じられていたものの、どうしても気掛かりが拭えなかったのである。

が、一曲目「Night & Day」の歌い始めのひとふしで、そんな不安は払拭された。囁く声から、アップテンポの力強い歌唱まで、実に表情の幅が広く豊かである。ステージの中央にいたのは、「ダンスの人」ではなく、紛れもなく「歌の人」のあやなさんであった。

声量を抑えた部分の歌唱や、比較的高い声域がとても魅力的で(このあたり、男役時代はいわば封印していた領域なのではないかと想像する)、今後さらに展開が期待できる。一方、曲のクライマックスなど声を張る部分はやや表情のバリエーションが少なく、一本調子になりがちなのが残念。だが、そこはきっと「伸び代」に違いない。

朗読劇「阿国」の一節は、客席で観た記憶がありありと蘇った。阿国と三十郎の台詞の切り替えが見事。ただ、尺の関係もあったと思われるけれど、もう少しゆったり時間をとっても良かったか。シャンソン「黒い鷲」では雰囲気がかっちりと切り替わるさまに唸る。

最も印象的だったのは「ひとかけらの勇気」。同期の真彩希帆によるミュージックサロン『La Voile(ラ ヴォアル)』(2020年、配信のみ)でこの歌を披露した際は、潔い歌いぶりは好ましいものの、力みが目立ち、楽しんで聴くという境地には遠かった。しかし、今夜は力みが一切なく、それでいて豊かな情感を湛えた歌唱をじっくり味わうことができた。聴き応えのある、いつまでも聴いていたい歌だった。

手練の楽士たちの好サポートのもと、今日はー贔屓の引き倒しでは決してなくー歌姫の生誕に立ち会った気がする。可能性を秘めた歌声と律儀過ぎるMCとのギャップも楽しい。これからもどんどん新しいあやなさんに出会いたい。(2023年1月21日(土) COTTON CLUB)

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