朗読舞踊劇 Tales of Love「阿国-かぶく恋、夢の果て-」

上演台本:与田想  演出:中屋敷法仁

◾️出演
〈W & スイッチ〉瀬戸かずや 綾凰華

〈日替わり出演〉竹内栄治(9/28) 土屋神葉(9/29) 石谷春貴(9/30) 高木渉(10/1, 10/2)

〈アンサンブル〉寺内淳史 蓮井佑麻

◾️舞踊
花柳幸舞音 藤間涼太朗

■演奏 KOHKI    大河内淳矢 飯野和英

歌舞伎の始祖とされる出雲阿国の物語。朗読劇に、舞踏と生演奏が加わる贅沢な舞台である。綾凰華さん(あやなさん)の、宝塚退団後初めての本格的舞台出演となる。

三十郎という役は、これまであやなさんが演じてこられた諸々の役の延長線上にあると感じた。瀬戸かずやさんの阿国を相手に、師匠を心から慕う、健気で潔い少年像が、ごく自然にたちあらわれる。こちらを先に観て、正直、阿国のほうはどうなるんだろうと思いつつ役代わりの回へと赴いた。

ところが、舞台にあらわれたのは、まさしく身も心も芸に捧げる一人の美しい女性である。ひとふしだけ歌われる歌は上品な色気がほろほろと溢れる。歌にも芝居にも、力みが感じられず、のびのびと演じていると感じた。宝塚でのあやなさんの男役はもちろんとても魅力的だった。凛とした佇まいと、静かな気品は数多のジェンヌさんたちの中にあっても群を抜いていた。しかし、阿国を演じるあやなさんの姿を観ていると、男役のあやなさんを観る際には、絶えずきつい枷が嵌められているような感覚を覚えていたことがわかる。上から強い圧をかけて抑えつける発声、一つひとつの所作、自身の中に生来備わっているのではない(と社会的には規定されてしまう)属性を演ずることの労苦を改めて思った。

三十郎はセリフは関西言葉、狂言回しの部分は共通語と使い分けがあり、阿国はセリフのみなので関西言葉で話す。いずれの場合も、あやなさんの母方言が兵庫の言葉(宝塚方言?)であることも、たおやかな言葉つきにつながっていたと推測する。しかし、阿国と三十郎の生き生きとした人物造形は言うまでもなくあやなさんの確実な芝居によるものである。あやなさんの演じる力もまた、宝塚の(男役の)「枷/枠」によって徹底的に鍛えられたものにほかならない。この「枷/枠」と、あやなさんは全力で向き合っているにちがいない。今後の展開を追いかけていきたい。

山三のセリフに、阿国の踊りを観る者は「誰でもない」存在になっていく、という趣旨の一節がある。磨き抜かれた芸が、観聴きする者を導いていってくれる、究極の境地であろう。こういった、さながら芸談としても通用する内容を、嘘臭くなく、しかもおもしろく観せられるのは、芸のことを、舞台に立つということの意味を日々厳しく追求してきた人ならではであろう。今回観ることができた二公演では、登場した全員がそれだけの深い思考を重ねている人々であり、だからこそ実現した幸せな時間だったのだと感じた。(2022年9月28日(水)〜10月2日(日)池袋•サンシャイン劇場 10/1, 10/2観劇)

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