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「朗読劇 私の頭の中の消しゴム 14th Letter」

【脚本・演出】 岡本貴也
【日時】2023年4月29日(土・祝)~5月7日(日)
【出演者】
福澤侑×清水理沙 福山潤×西内まりや 伊東健人×古畑奈和
中尾暢樹×綾凰華 安井謙太郎×佐藤聡美 村井良大×芹澤優 
相葉裕樹×高垣彩陽 塩野瑛久×高月彩良 斉藤壮馬×剛力彩芽(出演日順・登場順)

オリジナルは日本のテレビドラマ「Pure Soul」で、韓国で映画化され大ヒットとなった作品による朗読劇。2010年から朗読劇としての公演が始まり、今回で14回目とのことである。綾凰華(あやな)さんご出演とのことで、チケット入手。

あやなさんはとても素敵だった。育ちが良くてまっすぐ、でも繊細で、周りの人間の気持ちをきちんと理解できる、そんな薫の人物像が、あやなさんの雰囲気に合っていることも良いほうへ作用したのだと思う。変わっていく薫の姿を実に丁寧に描いていた。薫が自分の変化に気づくたび、わずかずつ表情が変わっていくところなど、とても切なくて流石と思う。

浩介役の中尾暢樹氏は表情が細やかで、序盤のぶっきらぼうな口調でも嫌味がない。一途な青年を好演。

朗読劇と言いつつ、狂言回し的なセリフは無く、終始2人がそれぞれの日記を読み上げる形で進む。それゆえ、2人のことばは全てキャラクター自身の声であり、大小の心の動きがそのまま言葉となる。これなら、いっそ本当の芝居に仕立てたほうが見応えがあるのではとも感じる。そういう情動の大きさもあってか、2人とも結構涙していた(朗読劇ってこういう感じなんだろうか。寡聞にして知らず)。でも、当然のようにセリフに全く影響しないところがプロ。

浩介はいつから薫を「きみ」と呼ぶようになったのかが気になった。それも含めて、浩介の薫に対する姿勢は物語の中でかなり大きく変わっていくのだけど、セリフだけだとその変化がやや見えにくい気がする(わたくしが注意して観てなかっただけか)。演者の動きを伴う芝居や映画などならば表情やしぐさでより明示的に表現しやすいのかもしれない。

終盤、周囲の席からはしきりに鼻をすする音が聞こえた。舞台に大きな不満は感じなかったし、とてもいい話だとは思ったのだけど、意外なほど泣けなかった。なぜだろうと考えていて、朗読劇というフォーマットのためではないかと思った。

互いに相手に向けられるセリフはあるのだけれど、基本的にはモノローグだから、演者同士が面と向かってのやりとりがない。おそらく、強い感情を相手に向けて表出し合うような場面や状況に接しないと、自分は心を動かされないのだ。相互的に遷移していく感情の起伏がなければ、こちらの気持ちもあまり動かないということだろう。だが考えてみると、そういう、感情を露わにしたやりとりがわたくしはあまり得意でない。突き詰めれば、気持ちを外側から動かされるのが嫌なのだろうか。……そうなのかもしれない。観終わったとき、なんだかほっとしたように感じたのがその証拠か。ちょっと不思議な気分だった。(2023年5月1日 よみうり大手町ホール)

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