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綾凰華ディナーショー PAUTAS

出演 綾凰華
音楽監督 竹内一宏
出演・振付 森優貴
主催 株式会社阪急宝塚ホテルズ


はじめに

綾凰華(あやな)さん初のディナーショー。実は当方も人生初のディナーショー参加である。服装、持ち物など、直前に大慌てで検索しまくるも、女性の装いについては詳細なQ&Aが提供される一方、おぢ(い)さんの装束に関しては何の情報も得られず。やむなく夏用フォーマルを取り出して出動。

Pautas

タイトルのPAUTASはスペイン語で「指針」の意味とのこと。そのわけは、終盤のMCで明かされた。卒業後一年、この間、あやなさんは朗読劇2本、音楽ライブ、刀剣乱舞、クリスティ戯曲作品による舞台、ダンス・ライブと、さまざまな活動を展開してきた。その中で、10年余にわたって生きてきた男役とどう折り合いをつけるかが本人にとって大切な課題だった模様。いわく、…卒業して「みてくれ」は変わったけれど、では中身が変わったかというと、実は変わっていない。個人としての綾凰華がいて、その中に男役も生きている。いいえ、男役だった時にもその中に個人としての綾凰華はすでに存在していた、そのことに自分で気づくことができた。…そんなことを語っていらした。今回のタイトルは、こうした発見を「指針」として進んでいきたいという表明かと思う。歌に耳を傾けていて、1月のCotton Clubよりもさらに歌が進化しているのがはっきり感じられた。それだけでなく、男役の歌いぶりが、本来のたおやかな歌にちょうどいいバランスで加わり、馴染みつつあると感じられたのである。歌は心境の変化を直接に映し出す。おもしろいし、怖いところでもあると思う。アンコールとして披露された、あやなさんの作詞第二作「PAUTAS」(竹内一宏先生作曲)には、今のあやなさんの想いが一杯に詰まっていた。

少々自分語り

わたくし自身があやなさんに出会ったのはそれほど昔のことではない。家人が加入しているスカイステージで朗読劇「名作 ことばの泉#32 『虞美人』」(2019年)をたまたま観たのがきっかけだった。その時の記憶が鮮明に残っている。実に清々しく凛々しい、しかし、なんと優しげな人なのだろうという印象。単純にものを知らなかっただけなのだけれど、宝塚男役は"俺についてこい"的なキャラクターのかたが多いのだろうと決めつけていた。しかし、あやなさんは全く違っていた(もちろん、内には強靭な意思があることを後に知るのだけれど)。アクの強さが微塵も感じられない。どこまでも透き通っていて、優しい。あやなさんの姿が心の中に静かに入ってきて、消えなくなった。

その時以来、あやなさんの印象は自分の中で全く変わっていない。多分、本人のお人柄の中に、すでに男役要素が定着し、静かに均衡していたのだと思う。もしかしたら、こういうことは、傍から見ていたほうがわかるのかもしれない。そして、本人にとってすとんと腑に落ちるには随分時間がかかるのかもしれない。宝塚男役を離れて一年余り、本人の中でようやくすとんと落ちたのではなかろうか。

ショーについて

歌もダンスもお話も、ふんだんに盛り込んだ充実のショー。

宝塚メドレーでは、「スカーレット・ピンパーネル」の「炎の中へ」が歌われて、嬉しかった。船出だ!そして何より、卒業公演となった「センセーショナル」風神の場のソロが印象的だった。自身の研究科生活を振り返る自作の歌詞を切々と歌い上げる姿を、食い入るように見つめた日々が思い出される。公演中、観るたびに歌がどんどん安定していく様子に心を動かされた。当然なのだけど、今回、歌が格段に上手くなっていて、余分な力が抜けていて聴くものの胸に染み込む。

緑黄色社会「たとえたとえ」、Official髭男dism「Stand By You」と、J-popも聴かせたし、My Love, My Life の可憐な歌唱も良かった。竹内先生率いるバンドの盤石かつ温かなサポートを得て、歌がどんどん自由になっていった。高音はまだ詰めていく余地があるけれど、きっと更なる進化を見せてくれるはず。ラスト・ナンバーの「マイ・ウェイ」は実に伸びやかな歌で、気持ちが温かくなった。

サンサーンス「白鳥」で登場した森先生の、信じられないほどしなやかな動きにため息。ダンス・パート(Feeling Good)は、お二人の動きが、ピシピシッと小気味良い音が聞こえそうなくらい綺麗にシンクロしていた。あやなさんの細い腕の、しかし力強い動きに見惚れる。

おわりに

いわゆる客席降りが2回、わあ、こんなに近くまで来てくださるのだ、と素直に喜んだ。

これからが楽しみな人がいるというのは、本当に幸せなことだとしみじみ感じている。ありがたいありがたい。次も必ずうかがいます。(2023年7月16日 第一ホテル東京 ラ・ローズ)

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