円居さんと僕

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 今日は純然たるエッセイである。円居挽さんとの交流は10年ほどになるかと思うが、その思い出を綴る。

 円居さんと僕は、同郷(奈良生まれ)で、学年が二つ違い(僕が上)で、同じ時代を京都盆地で大学生として過ごした。当時は面識がなかったが、おそらくどこかですれ違っていただろう。

 僕と円居さんが初めて面識を得たのは、彼のデビュー担当であるK氏が毎年京都で開いていた、忘年会でのことであった。K氏は仁木英之さんも担当しており、「担当かぶり」という縁で僕にも声がかかったのだと記憶している。

 名刺を交換したのかしなかったのか、そのあたりはよく覚えていないが、学生時代の話で盛り上がった。互いに「あの時代のあの空気」みたいなものを共有できる相手であったからである。なお、これは余談でありのちに知ることになるが、僕も円居さんも、京都時代はムーンライダーズの旧譜を一生懸命聴いていて、同時代のバンドにかなり履修漏れがある。

 初対面時に一番印象に残っているのは、僕がやっていたはてなダイアリーを円居さんが読んでいたことである。
 円居さん「あの頃ははてなが盛り上がってましたよね」
 僕「ですよね〜、僕もはてダやってましたよ」
 円居さん「もしかして○○さんですか?」
 僕「えっ、なんでわかったんですか」
といったやりとりがあったことが記憶に焼き付いている(本当になんでわかったんだろう)。
 その出会いから、一種円居さんは僕にとって特別な人となった。

 翌年か翌々年のことである。
 デビュー当時から交流があり、奈良系作家(?)のある種の精神的支柱であるところの仁木英之さんが、大スランプに陥った。
 われわれは、大和八木駅近くの焼肉屋・たつ屋(御堂達也とは関係がない)に集まった。
 「同人誌やったら書けるかもしれん」と言ったのが仁木さんだったのか、それとも他の誰かだったのかは記憶がおぼろげだが、とにかく仁木さんの息抜きになるならやってみよう……ということになり、そこから5年間、箕崎准さんのサークルスペースに間借りして、われわれは夏コミで『NR』というアンソロジーを頒布していくことになる。

 『NR』はベスト盤を含めて計6冊刊行され、僕に結構な赤字(印刷費や委託売掛金不払など)をもたらしたが、仁木さんは見事にスランプから脱出し、鬼才・前野ひろみちを発掘、ふみふみこさんには表紙を描いてもらえたし、円居さんは「DRDR」という傑作をものにした。

 なお、ばるぼらさんがこの本で取り上げてくれたのはとても嬉しかったことも付言しておく(既に『NR』の委託販売は終了しているが、僕から手売りで買うことはできるので、コネのある人は言ってください)。

 先述の通り、『NR』は2011年から2015年まで、毎年夏コミで頒布していた。最初の年は、6月末に〆切を設定していて、それなりに遵守されていたと記憶している。
 しかし、2年目から雲行きが怪しくなってくる。まず、箕崎准氏が忙しすぎて、「無理!」などと言い出す。そして、円居さんと僕(僕も書いていた)が、遅筆オブザイヤーの地位を巡って苛烈なデッドヒートを繰り広げるようになっていく。

 メンバーは、年に2回ほどたつ屋に集まって肉を喰らう。「次はこういうのを書く!」(たいてい書かない)とか、「今きつい……」とか、「肉がうまい」とか他愛のない話をするのだが、「今年も緑萌さんと円居さんは遅かったな!」と言われるのがお約束になっていった。〆切破りマンとしての紐帯がここに発生する。

 なお、円居さんが2年目に書いた「DRDR」は、メンバーの誰もが認める傑作であった。3年目から5年目まで、メンバーの多くが「DRDR」の高みを目指していたと言っても過言ではない(そして翌年、「ランボー怒りの改新」という快作が登場することになる)。

 「DRDR」の原稿を受け取って一読したとき、僕は密かに「この一編は、何年かかっても、必ず自分の手で商業流通に乗せる」と決意した。
 それから7年が経過した。「DRDR」は、来月出版される『さよならよ、こんにちは』の冒頭に収録されている。知己を得て約10年、最初に原稿をもらってからは8年になる。
 売れるかどうかはわからない。それは読者の皆さんが判断することだ。けれど、僕にとって感慨深い「特別な一冊」が世に出る。

 円居さんと僕の、ただの友人関係よ、さようなら。作家として、編集者としての青春時代ともこれでおさらばだ。

 円居さんと僕は、プロの作家と編集者として、本作であらためて「こんにちは」を果たした。

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平林緑萌

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平林緑萌

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