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フットボールを生きる街 #16 ヒーロー

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“Tu zurda nos regaló un sueño que cambió nuestras vidas, comenzando desde entonces una de las etapas más gloriosas de nuestro club.”
- De toda tu afición

「きみの左足が見せてくれた夢が、僕たちの人生を変えてしまった。あの日から、僕たちのクラブの栄光の時代が始まった。」
- きみの全てのサポーターより

クラブ創立からちょうど100周年にあたる 2006年、4月27日。セビージャの街は、色とりどりの華やかなトラヘを身にまといフェリアへと向かう者と、赤と白の世界一特別なシャツを着てスタジアムへと出かける者とで浮き足立っていた。しかし、この日はありきたりなフェリアの夜ではなかった。

セビージャFCはFCシャルケ 04 をホームに迎えてUEFAカップの準決勝を戦っていた。

拮抗した展開に、スタジアムには緊張の糸が張り詰めていた。呼吸をするのも苦しいような、目を背けたくなってしまうような、それでもずっとこの試合が終わらなければいいと願ってしまうような、特別な空気がこの日のサンチェス・ピスフアンを包んでいた。

互いに得点を許さず試合は延長戦に突入した。試合開始から 100 分が経過したとき、背番号 16 が魔法の左足を振り抜いた。

誰もが瞬きを忘れ、呼吸を失い、時が止まった。

クラブの軌跡をひとつずつ辿っていたスタジアムが、ようやく 100 を数えた。

一瞬の沈黙ののち、45,000 の喜びの叫びと涙でスタジアムが震えた。

この日はありきたりなフェリアの夜ではなかった。勝利の歌が、スタジアムに丸く切り取られた空に響いて止むことはなかった。この年、セビージャFCはアンダルシアのクラブとして初めてUEFAカップ優勝を成し遂げた。

準決勝のあのゴールは、「我々の人生を変えたゴール」として、10 年以上たった今もセビジスタたちの記憶に、大切に、鮮明に遺されている。今でも毎試合、前半 16 分になると、セビジスタたちはあの日と同じチャントを、あの日と同じように、空を見上げて歌う。街も、クラブも、サポーターも、決して彼を忘れない。

彼の名はアントニオ・プエルタ。UEFAカップ初優勝の翌年のリーガ開幕戦の試合中に倒れ、懸命の祈りも届かず 22 歳の若さで還らぬ人となった。

プエルタが導いてくれた栄光を、彼らは決して途切れさせないだろう。プエルタはその軌跡を、これからも見守り続けるだろう。

奇しくも、プエルタという単語はスペイン語で「扉」の意を持つ。サンチェス・ピスフアンの 16 番ゲートには、彼の肖像とともにクラブの決意が刻まれている。

“PUERTA HACIA LA GROLIA” 「栄光へ続く扉 / プエルタ、栄光まで共に」。

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モエ

1994年うまれ / 東京外国語大学⇒アライドアーキテクツ株式会社 / ソーシャルメディアプランナー / ガンバ大阪とセビージャFCが好き / スポーツ×ソーシャルメディア×まちづくりがしたい / 日本語と、英語と、スペイン語をはなします

フットボールを生きる街

セビージャの街と人々をつなぐ16の物語
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