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#13 タトゥーを入れた風俗嬢50人の悲喜劇[後編]

時代が令和に移り変わった今もなお燦然と輝く、昭和・平成の「文化としてのエロ」。
ライターとしてその黄金期を駆け抜けた生き証人が、自らの思い出とともに古き善き時代を懐古する、センチメンタル・ノスタルジー。

先週に引き続き、タトゥー風俗嬢の告白を紹介していく。

〈癒やされたい系〉
左腕に昇り龍のタトゥーを入れた、20歳のヘルス嬢。

「自分を変えたくて、口と眉と耳にたくさんピアスを開けてみたけど、何も変わらなかった」

そんな彼女が、ピアスの次にたどり着いたのがタトゥーだった。

「大工の父親がすごく暴力的な人で、しょっちゅう殴られたり蹴られたりしてました。それが原因なんだろうけど私、他人が異常に怖くて……、それでいて寂しがり屋な性格で」

しかし今は、いつも昇り龍が一緒にいてくれるおかげで、「自分はひとりじゃない」と思えるし、「強くなれた」気がすると言う。
彼女にとってタトゥーは、孤独な自分を癒やしてくれるペットのような役割も果たしているのだ。

「働ける場所はどうしても限定されるし、離れていった友達もいたけど、逆にタトゥー繋がりで知り合いは増えたし、みんなが『かっこいい』って言ってくれるから、自分に自信もつきました。何よりも、あんなに恐かった父親と対等に話ができるようになったことが大きいかな」

彼女は今後も、何か人生の壁にぶつかったときは「自分、がんばれ」の意味で、新しいタトゥーを彫っていきたいと話してくれた。

〈今さら引き返せない系〉
中には、「タトゥーを入れて良かったことなんてひとつもなかった」と言う女の子もいる。
背中一面に「天女」を彫った20歳の性感ヘルス嬢も、その一人だ。

「タトゥーを入れる友達に誘われて、ノリと勢いで彫師さんのところに行ったのがきっかけ。筋彫り(※)の段階から痛くて泣いちゃって、『もう無理』って何度も思ったけど、裸になる仕事をしていて途中でやめたら超格好悪いと思って、最後まで我慢しました」

約50人の女の子を取材して、タトゥーを入れることで「強くなれた」という女の子が大勢を占めるなか、彼女は「逆に気が小さくなった」と正直な気持ちを告白してくれた。

「薄着の季節は普通に道を歩いているだけで変な目でジロジロ見られるから、出歩くことに対してナーバスになった時期もあります」

※筋彫り
単色で、下絵となるラインを引くこと。
痛みには個人差はあるが、「シャーペンでガリガリされている感じ」「切れ味の悪いカッターで切られている感じ」等と比喩されることが多い。
ちなみに筋彫りの後は、立体感や陰影をつける「ぼかし」、そして色を付けていく「塗り」と続いていく。
一般的に痛みの強弱は、『筋彫り<塗り<ぼかし』と言われている。
気になるその痛みだが、
塗り=「日焼けしたところを擦られる痛み」
ぼかし=「やすりで強く擦られている痛み」
などと比喩される。

〈過去との決別系〉
右胸に「薔薇の花」を入れたのは、26歳の女王様。
彼女がタトゥーを入れたのは、OLを辞めてSMクラブで働くと決めた翌日。

「親の敷いたレールを走っていた自分との決別の意味と、もうこれで二度と親には会えないという覚悟で彫りました」

〈婚姻届の代わり系〉
背中一面に「錦鯉と紅葉」をあしらったタトゥーを入れているのは、34歳の性感ヘルス嬢。
その鯉の頭部には、10年以上付き合ってきた「彼の名前」が彫られている。

「鯉の絵柄を選んだのは、彼の背中にも同じ鯉が泳いでいるから」

じつはその彼は既婚者で子供もいる。
略奪愛を望んでいない彼女にとって背中の鯉は、いわば「婚姻届」の代用なのだ。

「一生、彼の女でいる覚悟ができていたから、初めて筋彫りの彼の名前を見たときは涙が出ました」

以上、ほんの一部ではあるが、印象に残った女の子を「動機別」に紹介してみた。
ライターの性だと思うが、ヘビーな話が聞けることを期待して、「大きなタトゥー」や「目立つ派手なタトゥー」を入れている女の子を優先的に取材対象に選んだ。
そのせいもあるだろうが、傾向としては、ファッション感覚で入れている一般の女の子に比べて、その意味づけがとても深いように感じた。
風俗業界に身を置き、心も体もヘビーな毎日だからこそ、彼女たちはあえてヘビーな選択をしてしまうのかもしれない。

50人の女の子に話を聞く前と後で、俺の中で大きくイメージが変わったことがある。
外見からはどうしても「恐い」という印象を受けてしまうのだが、彼女たちの口から出てくることのほとんどは「弱さ」だったのだ。
外見や生い立ちに関するコンプレックス、あるいは自分に対する自信のなさ。
50人中30人以上は、「弱い自分を強くするため」というのがタトゥーを入れた動機だった。「お守り」という言葉も何度も聞いた。

もうひとつ、タトゥーに関してわかった重大なことは、「タトゥーはタトゥーを呼ぶ」という現象だ。
どういう理由で入れたにせよ、ひとつのタトゥーがきかっけとなり、多くの女の子たちはタトゥーコレクターになってしまうのだ。
この取材でも、体中がタトゥーだらけになってしまっている女の子をたくさん見てきた。
コレクターとなった彼女たちの体は、結果どうなったか。
最初から計画的に全体のデザインを考えて増やしていくわけではないので、ひとつひとつには何かしらの意味があるにせよ、図柄の統一感もなければ、途中で彫師が何人も変わったりして、和洋も入り乱れる。
言葉を選ばずに言わせてもらえば、「落書き」状態。
昔の任侠映画で見たような「芸術的な美しさ」も「文化的な価値」も、そこにはない。

そんなタトゥー風俗嬢に共通するのは、否応なしに「タトゥーを入れた人生」を背負っていることだ。
離れていく友達。限られた職場。
そして、まだはじまったばかりの人生。
もちろんある程度の覚悟をしてのことだとは思うが、20歳前後の若い彼女たちが、「消えない刻印」の意味をどこまで知っているのか、そしてその重さに耐えられるのか、無責任な立場ではあるものの、心配せずにはいられなかった。

このタトゥー風俗嬢の連載は、約2年間で終わりを迎えた。
一番の理由は、目立った子はあらかた取材しつくしてしまい、新しく大きなタトゥーを入れている女の子を見つけるのが難しくなったからだ。
もちろんワンポイントのファッションタトゥーを入れている子はいくらでもいたが、覚悟や動機の重さはタトゥーの大きさに比例するようで、読者の興味を引くような面白い話が出てこない。で、このへんが潮時かなと。

しかし、50人の女の子から話を聞いても、俺の「モヤモヤ」は解消されたわけではなかった。
彼女たちが心の中に抱えている、トラウマなり閉塞感なり孤独感といった、生きづらさの理由については知ることができた。
とは言え俺には、「だからタトゥー」という選択は、どうしても飛躍のしすぎに思えてならないのだ。
否定もしないし、認めないわけではないけれど、心から応援する気にはなれない。
そんな感じだろうか。
ただ、彼女たちのいろいろな気持ちを知ることができたのは、俺にとって大きかったと思う。
なぜって、それまでは偏見の対象でしかなかったのだから。

よく知りもせずに否定することと、ちゃんと知った上で自分との違いを確認することは、まったく別のことだ。

そして、なんでもかんでも肯定すればいいってもんでもない
50人の女の子たちから、かなり真剣に話を聞いたけど、結局よくわからなかった、ということがわかった。
いい取材だった。
今振り返ってみて、あらためてそう思っている。


【プロフィール】

50代のライター。
出版業界でエロ仕事を任されたことが転機となり、ヤリチンロードを爆走。
浮気がバレて30代前半でバツイチになるも、返す刀で当時の愛人の一人と結婚。
子宝にも恵まれ、ささやかな幸せを漫喫しつつ、ヤリチン癖は健在。
現在、20代のOLと絶賛不倫中。

ツイッター https://twitter.com/mogajichan

【著書】
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