お嬢は紺色のワンボックスカーを見つけると、さっと助手席に乗り込んだ。

 お嬢は紺色のワンボックスカーを見つけると、さっと助手席に乗り込んだ。

「えっ? えっ?」

 わけもわからないまま、私は後を追って後部座席に乗り込んだ。運転席に座ったジャンパーを羽織った若い男が「お待ちしていました」とお嬢に軽く頭を下げ、車は動き出す。

「いつもお迎えに来てるお爺さんは? 黒塗りのリムジンじゃないの?」
「あれは皆様へのサービスですわ」
「サービス?」
「お金持ちが黒塗りのリムジンで、お爺さんに送迎される……というのが皆様のお望みでしょう? 現実的にいって、黒塗りのリムジンなんて目立つ車に乗る意味、ありませんわ。小回りが利きませんもの。ドライバーも若い方の方が反射神経がいい。ね、マサキ」
「ありがとうございます」

マサキと呼ばれたドライバーは、しかし決して車道から視線を動かさない。

「そのためだけに、2台も車を持ってるの?」
「違いますわ」

 お嬢はチッチッチッと指を振った。

「私の使える車は5台ありますの。ドライバーは7人です。この車とマサキの組み合わせは、後をつけるのに最適な組み合わせです。マサキは隠密行動のスペシャリストですの」

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