献血のイラスト問題:変わる社会常識についてこれない人たち

[B! 増田] 某献血のイラスト問題について思考停止しないで読んてほしい

 このはてな匿名ダイアリーははてなブックマークのコメント(ブコメ)から読むのがいい。書き手(増田)の意図に反して、ブコメの方に多様な議論が発生しているからだ。

 増田は精一杯の歩み寄りを試みており好感は持てるものの、結局「某献血のイラストは性的消費でありアウト」という思考から抜け出していない。その前提を維持しようと説明を重ねた結果、ブコメからは辻褄の合わない点を指摘されている。思考停止でない、というならば、これら辻褄の合わない点を検証して意見を修正できなくてはならない。

 例えば「宇崎ちゃんはダメだが『ワンピース』はセーフ」という点は私からすると意味がわからない。あれだけ巨乳を強調していて、サンジが繰り返しメロメロになっているワンピースが性的消費でないとするならば、宇崎ちゃんも性的消費ではない。私は両者ともに性的消費だと思う。(ただし規制されるべきとは思わない)。

 増田はどうも「今の世間で受け入れられているのは性的消費ではない」「公的な空間で許されるのは性的消費ではないものだけ」というあやふやな認識を持っているようだが、そもそも世間には性的消費が溢れている。女性誌はセックス特集を組んで本屋に並んでいる。アイドルは男も女もセックスアピールを見せつけている。性的消費がダメならこれら全部ダメなのだ。

 もし本当に「公的な空間で許されるのは性的消費ではないものだけ」ということを社会構成員の大多数が受け入れるのなら、その社会は恐ろしく禁欲的なものになるだろう。宇崎ちゃんダメ、ワンピースもダメ、女性誌のセックス特集はダメ、アイドルは男も女もダメ。

そこの真ん中に線を引いて「宇崎ちゃんはアウト、ワンピースはセーフ」とやるなら、それこそ大多数が納得する明確な、白黒判定可能な基準が必要になる。たいていの規制派が批判されるのは、この「大多数が納得する明確な、白黒判定可能な基準」を引けないからだ。引けないのに規制しようとするから「お前の好みだろ」と言われてしまう。

 発端の弁護士先生にしてからが、この「性的消費の線引き」があやしい。

ロック秘密法★ちがさきさんはTwitterを使っています: 「ドキッ!『特定秘密保護法はもめ事の原因になりますよ 弁護士大田啓子』facebook に公表された、秘密法施行を目前に控えてのメッセージポスターです。あすわかの弁護士さん300人の中の「横浜3名」が登場されています。続編もあるらしい…  / Twitter 

 こんなにフェロモン全開の写真を掲載しておいて「性的消費がダメ」というのは、「世間は性的消費であふれている」という認識の不足である。「自分がセックスアピールをするのはいいが、萌え絵は環境型セクハラ」などという都合のいい話が通ると思っている。

 もう一つ触れておきたいのは、この件にはおそらく世代間のズレといったものが大きく顕れているということだ。弁護士先生も増田も年齢はわからないが、40代以上の世代の「ご立派な方々」は、青春期に「アニメ漫画のオタク文化はキモい」「萌え絵はキモい」ということを執拗にすり込まれている。「キモいので迫害していいもの」「公共の場では許されないもの」と思っている。実際に迫害してきた人ならなおさらだ。

 ところが若者はこうしたアニメ漫画文化を日常として受け入れて育っている。この感覚の違いは若者と長時間接する機会がないと理解できない。私も3年程前に若者と日常的に行動を共にする機会があり、ギャップにびっくりした。自己紹介で普通に好きなアニメや漫画、ゲームのタイトルを紹介するし、カラオケでもアニメソングを何の遠慮もなく歌う。それはまったく普通のこととして受け入れられている。

 だから、宇崎ちゃんだって、彼らは違和感を覚えないだろう。性的消費だとは思うかもしれない(前述のように、性的消費は漫画以外にもたくさんある)が、増田や弁護士先生が感じたような嫌悪感はまったく感じないだろう。そこが、決定的なズレを生む。

 この「萌え絵が若い世代に受け入れられている」ということを理解している赤十字が、宇崎ちゃんをポスターに採用するのは正しい。

 先日見かけたツイートでは「一部のオタクにしかウケない萌え絵をポスターにすることに問題がある」という意見があった。「萌え絵がウケるのは一部のオタクだけ」。この発想こそ、おっさんおばさんの発想だ。今の若い子供は、萌え絵を何の問題もなく受け入れているのだ。そのことがわからないおじさんおばさんは「こんな絵は受け入れられない」と息巻いている。だが、その感覚が通じるのは、40代以上だ(そしてその世代は人口分布的に多いのでまた厄介なのだ)。

 増田や弁護士先生は、萌え絵を憎む気持ちが社会的常識だと思い込んでいるだろうが、実はそれは感覚的なものだし、世代的なものなのだ。オタク文化からも若者世代からも受け入れられない、古い「社会常識」になってしまった。

 だから線引きを求められても線を引くことができない。「社会の常識」だと思い込んでいるからである。

 「常識」は思考停止なのだ。だから、常識を疑え。「萌え絵は公的空間にふさわしくない」はもはや常識ではない。目を開いて見れば、公的空間に萌え絵があふれているのがわかるはずだ。これからどんどん増えてくるだろう。「萌え絵は公的空間にあってなんら問題ない」という若者がどんどん増えてくるからだ。その変化を受け入れられないのなら、「思考停止」「老害」と非難されても仕方がない。

あなたの曾祖父が今に生きていたら、「スカートが短すぎる」「肌をさらすな」とお怒りだろう。時代の流れとはそういうものだ。これからあなたも「萌え絵が多すぎる」と愚痴って過ごすことになるのだ。

自分が嫌悪しているものが公的な空間に増えていくのはさぞかし不愉快だろう。それはただ、あなたが嫌悪してきたものが人気になりつつある、ということに過ぎない。黒人が選挙権を得てムカつく白人とか、女性が市民権を得るのは生意気だと吠えるおっさんを想像するがいい。彼らがどんなに不愉快な世界を生きているか。しかしそれは、彼ら自身のヘイトの照り返しでしかない。

萌え絵やオタクをおとしめ、ヘイトを積み上げてきた報いがこれから降りかかる。他の人たちが受け入れてきたものを受け入れてこなった報いが、これからずっと、増田や弁護士先生の人生に影を落とすのだろう。

​# 以下ブコメ見ながら追記

> 後半はちょっとゴリ押しか諦念かを感じるけど
後半ちょっと話が流れたのは認めるし反省している。

> 論点は萌え絵かどうかじゃなくて、性的かどうか、公共に見せていいかどうかでしょ。
性的である。そして公共に見せていい。「公共に見せるべきでない」とするなら、社会構成員の大半が納得できる大義名分と基準が必要。おっさんおばさんの主観ではなく。成年向け規制には、それなりの大義名分と基準が定められているはず。

> 読んだ限り、若い世代の常識を是とする根拠が分からなかった。
もしあなたがあなたの曾祖父の時代の常識で暮らしているのなら同意する。だが、常識は常に新しくなるものだ。世界がどんどん新しくなるからだ。むろん古い常識と新しい常識はブレンドされて世界を作っているのだが、古い常識の人たちは、新しい常識が存在することにさえ気づいていない場合がある。
PCのアップデートをしない人が「新しいアップデートが正しいとは思わない」と言うのに似ている。たしかに常に正しいわけではない。だが長い目で見れば、アップデートせざるをえない。

> ブックマの表題おかしくない?正しくは「献血のイラスト問題:変わる社会常識についてこれない人たち」でしょ
すまない。これは私がnoteのタイトルを変えたせい。ブックマした後でタイトルを変えたんだけど、noteのキャッシュなのかブックマのキャッシュなのか、古いタイトルで表示されていた。

> ワンピースが性的でないなら宇崎も違うというけど、どのように性的かどうかもまた相対的なので直前の自分の主張と矛盾してるのに気づかない自称論客
ここで言いたいのは、ワンピースと宇崎の対応を分ける根拠がありますか? という話。どちらも相対的なら対応も相対的になるはずで、一方を削除する根拠にはならないはず。自称論客なことは認める。自称論客ではないあなたが書いた素晴らしい論も拝見したい。いずれこちらで拝見できるのだろうか? http://bit.ly/2qtw2vl

> 年寄りからすると、時代につれて公共でのオタクな表現は許容されつつあるが性について搾取的であることは制限されつつある。性的萌え描写は2つの流れのせめぎ合いなので、最終的には性的要素を抜いた萌えに収束かと
納得できる。

> 少なくとも増田は「萌え絵が嫌い」ではなく、女性性の扱われ方の話をしてると思うんだけど。
女性性の扱われ方だけを論じているのなら、宇崎ちゃんとワンピースの扱いが違うことに説明がつかない。イラストのテイストが判断に影響していると思う。

> ワンピースって服じゃなく漫画のワンピースだったのか。今ごろ気づいた。
これまた申し訳ない。本来作品名は『』をつけるべきだったが、そこだけ妙に目立つので割愛させて頂いた。初出時のみ『』を付けたがどうだろうか。

>筆者が言う「新しい日本の常識」が先進国では「古くて異様な常識」であることを知って欲しいですね。
あなたが海外の常識に従ってチップを払い、教会へ行き、断食月を過ごしているのなら同意する。今後、先進国でも萌え絵が増えていく可能性はあるが、そのことはどう思うか。

> 献血何回行ってる人がこういうのを書いているんだろうかと気になるところではある。
 お恥ずかしいことに、ほとんど行ってない。

> 私40代だけどどうとも思ってないからこの言われようはちとムカつくな
申し訳ない。正確には「萌え絵を問題視する40代」だが繰り返すとあまりに冗長なので、ひとくくりにせざるを得なかった。
ごくちなみに、私も40代である。

# 追記2
煩雑なので以後は逐一レスをつけることはしないが。

> 萌え絵論争に寄せるな
以下の内、許容できるものを挙げよ。
1) 宇崎ちゃんが煽っている献血ポスター
2)『ワンピース』の巨乳キャラクターが「うっふーん、献血に来て(ハート)」と誘っている献血ポスター(目がハートのサンジが添えてあってもいい)
3) 弁護士先生がフェロモン全開で献血の大切さを訴える献血ポスター
上記3つすべて「公共の場で女性の性的な特徴を悪用しており、女性の性的消費(性的搾取でもいいが)を助長するので許せない」という立場の人がいれば、それは一つの論点として支持する。しかし上記のどれかが許容できるのであれば、どうしてそれは許容されるのか基準を伺いたい。引用元の増田の意見では1のみ不可とのことだった(と理解している)ので、それは萌え絵の問題だと思われた。元記事の増田が2を許容するかどうかは気になる。

> 「ついていけない」は逆の意味だと思った
「フェミニズムが進行しているのについていけてない宇崎ちゃんポスター」という流れを想像した、ということだろうか。この件について「30年前には宇崎ちゃんオッケーだったけど」という話ではないと思うがどうか。ブコメにもあるが、漫画アニメの普及が進行するのと対照的に性的表現の規制は強まっているので、その交点上にこの事件はあるのかもしれない。

> 自分は20代だが / 自分は40代だが
20代でも許容したくない人がいるし、40代でも許容できる人がいるのは理解している。逐一注釈を入れることはしなかった。申し訳ない。

> 「増田」の使い方に違和感
はてな文化にあまり詳しくないので、おかしな用法になっていたら申し訳ない。

あと議論の流れ上、『ワンピース』を引き合いに出して尾田栄一郎氏、およびファンの方にはもらい事故みたいになっており申し訳ない。50巻あたりまでは読んだし、アラバスタ編が好きでした。麦わらの海賊団の中ではサンジが一番好きだ。

> Catalinaへのアップデート
まだ怖くてできない。特にミュージックまわり。

# 追記3

コメントの中で、非常に厳しい言葉で攻撃的な言い方をしているものがあったので気になった。どうも私をアンチフェミニストだと勘違いしているのではないか。私は規制をしたいのならきちんとした手順を踏め、基準を引けという主張をしているつもりだ。私がフェミニズムになんら悪意がない証拠に、私が納得できる「フェミニズム的な」アプローチをご紹介しておきたい(もしこれでまた逆の側に不機嫌になるコメントが出るようなら恐縮である)。

1. 赤十字は公共性・公益性の高い組織であり、性的消費(性を商品化し、そこから利益を得ること)を助長し、またさらに性差別や性犯罪を助長するようなポスターを作成してはならない
2. そのため、ポスターに性的なキャラクターを使用することは禁止するべきである。
3. 具体的には男性、または女性を感じさせる人物・キャラクター単体のポスターは禁止とする。ポスターは男女同数の集合、文字や幾何図形、無機物および性別を感じさせない動物によって構成されるものでなければならない。
4. これにより献血量の明らかな減少(過去1年の平均値より10%以上の減少)が見られた場合、全フェミニストはこぞって献血を行い、これを補填すると確約する。

このような主張であれば、全面的に賛成はしないが、「性消費・性犯罪を減少するための主張」として納得できるし、ご自由に主張なされば、と思う。これと少なくとも同じレベルの主張をフェミニストから見たことがない。なぜ宇崎ちゃんだけを攻撃するのか、イラストのテイスト以外の要因が思い当たらない。

今のフェミニスト(と言われる方々)が批判をされる所以は「私が嫌だから」とか「嫌になる人がいるから」という主観的で測定しようのない意見で話をするからだ。

議論をするなら「定性定量、数字で話をする」「客観性を保つ」「具体的な対案、補填案を持つ」というのは必須であって、そうした訓練がされていないと、議論の俎上に上がらない。

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もがみたかふみ。ライター、ブロガー、ストーリーテラー。文芸同人誌『有象無象』編集長。文章、写真、デザイン、コーディングまで一通りこなす自走式フルスタックブロガー。 http://74th.net

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