「夢は、世界中の段ボールを拾うこと」 世界で注目されるアーティスト島津冬樹さん
ふだん何気なく利用している段ボール。
捨てても捨てても部屋のすみっこに溜まっていくやっかいな存在。それぐらいの認識しかありませんでした。彼に出会うまでは。
彼とは、アーティストの島津冬樹さん。
夢は、世界中の段ボールを拾うこと。
「不要なものから大切なものへ」をコンセプトに、路上や店先で放置されている段ボールで、財布を作るCartonという活動を展開。
日本のみならず、世界30ヵ国以上をまわり段ボールを集めては、財布を作ったりコレクションしています。
彼にはじめて会う人はおそらく、段ボールについて楽しそうに語る島津さんの様子に、こう思うことでしょう。
「え、ただの段ボールでしょ。この人は、なんでこんなに段ボールでテンションあがっているんだろう」って。
僕もはじめはそう感じました。
でも、島津さんが開催するワークショップに参加して、実際に手を動かして、段ボールでお財布や名刺入れを作ってみると、その印象は変わっていきました。
不思議なんですが、島津さんの語る、段ボールの面白さがちょっとずつ理解できるようになるんです。
島津さんは自分が好きな段ボールを追求しているだけで、あまり意識はしていないと思いますが、誰も価値を見出していなかった段ボールでお財布を作るCartonは「アップサイクル」の可能性を示すものとして、世界中で注目を集めています。
「アップサイクル」というのはあまり聞き慣れない言葉かもしれません。 不要なものやゴミとして捨てられるものを、形質は変えずに元のモノの特徴を生かして、より良いものにつくり変えることで付加価値を高めようとする考え方です。
リサイクルや再利用の次をいく概念として、ファッションやデザイン、プロダクトなどの分野で注目されています。
日本だと、トラックの幌を再利用して作った「FREITAG」などがわかりやすいかもしれません。
トラックの幌なら丈夫だし、なんか使いみちありそうだなっていうのはなんとなくイメージしやすいかなと思うんですが、島津さんの場合は道で拾った、ただの段ボールですから、さらにインパクトがありますよね。
そして単純にプロダクトとして、デザインがポップでカッコいいんですよね。当然ぜんぶ一点ものだし。
そんなわけで島津さんのもとには、世界中からいろんなオファーが殺到しています。
今年の4月には、中国・深圳デザインウィークに日本代表として招聘されて作品展示&トークセッション、上海で行われた「Play! No Waste 展」、米・エースホテル(ピッツバーグ)でのワークショップ、オーストラリアのセレクトシップでの作品販売など、幅広い活動をしています。
メディアにもよく取り上げられています。昨年末からこれまでの半年間に、NTV「next クリエイターズ」、NHK「所さん!大変ですよ」、TBS 「新・情報 7Days ニュースキャスター」、ソトコト、オズマガジンなどで特集されています。
少し紹介が長くなったんですが、このnoteではそんな島津さんの語る段ボールの面白さをワークショップなどのレポートを通じて、紹介できればと思っています。
あ、僕は編集者の頼母木と申します。よろしくおねがいします。
まずは、7月28日にD&Department富山で行われたワークショップの様子をご紹介します。
松川に面した富山の自然をゆったり感じられるD&Department富山。全面ガラス張りで差し込む光が心地よいです。
D&Department富山では、島津さんが富山県内を歩いて、段ボールを通じた「富山らしさ」をテーマに作品展を開催しました。
作品展にあたり、島津さんは下記のようにコメントしています。
富山と言えば、薬やお酒、魚や昆布、日本海と立山連峰。富山中を回りながらどんな段ボールと出会えるのかワクワクしながら段ボール拾いに臨むことがてきました。公設市場に行くと、富山産の白菜やネギで溢れ、昆布の消費量が全国的にも高いためか、昆布を入れていた段ボールと沢山出会うことができました。また日本酒のバリエーションも豊富で、その分だけ段ボールのデザインがありました。そして、富山ならではの、医薬品の段ボールは鍵の掛かった無菌室で保管されるほどの厳しく管理がされているため、なかなか町中では出回っていないという事実は長く段ボールを拾ってきて初めて知った発見の一つでした。富山での段ボール拾いを通じて他県との違いや文化を知ることができ、また快く段ボールを譲ってくださった富山の方々の温かさに触れられたことも今回の旅の収穫でした。「段ボール」と「富山」というちょっと変わった組み合わせを楽しんでいただければと思います。
段ボールを拾う島津さんの写真と、そこから作った作品が合わせて展示されています。
越中反魂丹(はんごんたん)は 富山を代表する和漢薬です。なかなか拾えない貴重な段ボールをゲットして嬉しそうな島津さん
市場で移動販売のおじいちゃんにもらった柿の段ボールと、こんぶ専門店でもらった段ボール。
強烈なインパクトのある「奥さまラーメン」の段ボールからつくったお財布。「奥さまラーメン」は富山にある北山製麺が販売しているインスタントラーメンです。
ケロリンは、富山めぐみ製薬が製造販売する頭痛薬です。銭湯や公衆浴場で使用されている黄色いプラスチック製のケロリン桶で見たことがある人も多いと思います。
ブランドのロゴが切れて一部だけしか見えなくてもなんのブランドの段ボールかわかったりするのもCartonの作品の面白さの一つ。
しろねぎの段ボール
くれはなしの段ボール。「ごばなし」と、島津さんがおもいっきり読み間違えていたのはナイショです。
島津さんが世界30カ国以上をまわって集めたレアな段ボールたち。
これは超激レアな難民キャンプの段ボール。ずっと欲しいと思っていてブルガリアでこれを見つけたそうです。よくわからないですが、夢がかなってよかったですね。
財布、名刺入れ、コインケースなどの作品の販売も行われました。すべて一点ものなので、その中からお気に入りの1点を見つけるのが楽しいんです。
展示会の横のスペースでは10名ほどのお客さんが参加してお財布や名刺入れを作るワークショップが行われました。
お気に入りの段ボールを選びます。
完成品を目の前に置いてイメージを膨らめながら、段ボールのどの部分を切り取るかを考えます。デザインが決まる重要なポイントです。
制作工程を説明する島津さん
富山の名産、しろねぎの段ボール。しろを残すか、はたまた、ねぎを残すか考え中。
水をかけて段ボールをやわらかくしています。
やわらかくなった段ボールを分解しているところです。うまくできると気持ちがいいんです。
濡らした段ボールが乾くまで、スライドを使って段ボールの魅力について語る島津さん。世界各国をまわって段ボールをもらう時のエピソードにみんな笑顔に。
型にそって段ボールを切り抜いていきます。
ここまでくればあともう一息です。
じょじょに財布や名刺入れの形に近づいていきます。
ボンドで接着したところを固定してしています。
最後の仕上げで、開封用の金具をプレスして付けます。
みごとにお財布が完成しました!すいか柄がいい感じですね。
以上、D&Department富山のワークショップのレポートをご紹介しました。
島津冬樹さんの活動を追ったドキュメンタリー映画「旅するダンボール」が公開決定しています!
2018年12月7日(金)
YEBISU GARDEN CINEMA/新宿ピカデリー他
出演:島津冬樹(CARTON)監督:岡島龍介
製作・配給:ピクチャーズデプト
公式サイトはこちら
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