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中世と近世と近代と法治主義と人治主義

発端はこちらの記事。これを読んで、連続ツイートした内容を、加筆修正して、noteにまとめ直しました。

韓国最高裁 29日に朴前大統領やサムスントップらに判決聯合ニュース

【ソウル聯合ニュース】韓国大法院(最高裁)は22日、金命洙(キム・ミョンス)大法院長(最高裁長官)と大法院判事全員による会議を開き、前大統領の朴槿恵(パク・クネ)被告、朴被告の友人の崔順実(チェ・スンシル)被告、サムスングループトップの李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長らがかかわった国政介入事件に対する判決を29日に宣告することを決めた。

そして、この件に対するbuveryさんのツイート。禁錮25年、つまり1952年生まれで御年67歳の朴槿恵前大統領に、92歳まで刑務所に入っているか刑務所の中で死ね、という判決なんですが。しかし、そんな重い求刑その収賄額はというと……。

buveryさんのご指摘どおり、無茶苦茶な話です。韓国を必死で民主主義国家だそれに比べて日本は……と持ち上げようとする左派の人もいますが、保守派だろうが革新系であろうが、こういう復讐を前政権に加えるのは、韓国が未だに前近代的な人治国家ゆえ。ロウソク革命? ただの権力闘争です(キッパリ)。今回は、法治主義と人治主義についての、大雑把なお話です。


■法治主義と人治主義■

朴槿恵大統領の友人の崔順実被告に、グループトップの李在鎔サムスン電子副会長らが金を贈ったという、崔順実ゲートなんですが。朝鮮日報は国政介入事件とか大仰に書いていますが、朴槿恵前大統領の収賄額はゼロ。その証拠発見の経緯や、捜査方法など、保守派から疑問が呈される、強引な手法でした。

さて、「中世の魔女狩り」などと言われますが、実際の魔女狩りは近世に入ってから。 つまり裁判制度が整いはじめ、個人が告発できるようになったら、まだ教育や知識が十分でなく、精神は中世のままの大衆が、新しい制度を悪用して気に入らない人間を魔女だと告発し、合法的に葬ったのが魔女裁判。

韓国の場合は、大統領退任後に不正蓄財や過去の違法行為で裁判にかけられ、死刑判決を含む有罪判決を食らうことは日常茶飯事です。金大中大統領も、在野時代に政敵の朴正煕大統領から軟禁され、全斗煥大統領時代に光州事件で死刑判決を受けています。裁判制度が復讐に使われる、つまり韓国は未だ近代初期の状態です。

■中世と近世の区分■

ちなみに日本での近世は安土桃山・江戸時代を指し、西洋では16〜18世紀を、中国では明末〜辛亥革命(1911年)までを近世と呼びます。それ以後が近代。 韓国の近世は日韓併合の1910年で終わり、近代が始まったと考えられます。日清戦争の結果、下関条約で清朝の冊封体制から離脱し、大韓帝国を名乗った1897年でも、期間的にはほぼ同じですが。

ヨーロッパでは14〜16世紀のルネサンスがあり、そこから16〜18世紀の近世に魔女裁判の混乱や、試行錯誤を経て、近代法を備えた国家という概念が生まれるまで、成熟期間が必要だったわけです。してみると、 李承晩初代大統領以降繰り返される歴代韓国大統領の悲惨な末期は、韓国が未だ近世の魔女裁判の時期にあることを、暗示しています。

日本の近世も、時代区分的には諸説ありますが、最長でも1568年から1868年までが近世ですから、西欧より100年近く近世が長かったのですけれど。もともと惣村では多くが合議制で運用されており、そういうベースがあったので明治維新以降の西洋の議会制民主主義をスムーズに受け入れた素地になっています。また、当時の西欧より高い識字率や民間の学問熱など、部分的に西洋よりも成熟していた側面もあります。

■東アジア専制君主制国家の法概念■

東洋の封建的伝統では「法は貴人に及ばず」という考え方があります。貴人、つまり偉い立場の人間は、法を破っても罪に問われないという考えかたですね。法よりも立場や人間関係などが上位概念という、人治主義の根幹を成す部分。それ故に、田中角栄がロッキード事件で逮捕されたとき、中国政府の人々はそれを失脚と捉えたとか。

田中は政争に敗れたのだな、だから有罪判決を受けたのだな……と理解したわけです。ところが、ロッキード事件の一審で有罪判決を受けたにもかかわらず、田中角栄は目白の闇将軍としてキングメーカーで在り続ける姿に、中国政府は混乱してしまった。近代法による法治主義を理解しない文化(儒家や法家思想的な文脈での理解に留まる)ゆえに、そう思い込んでしまった、と。

中華文明の強い影響を受けた韓国でも、この文化は未だ根強くあります。裁判が公正に行われず、政敵への復讐裁判と化す由縁です。金大中氏は死刑判決を受け、全斗煥元大統領も死刑判決を受け、盧武鉉元大統領は追い詰められて自殺したように、貴人から滑り落ちると、罪に問われるのは近代以前の社会だからです。


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