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商業カメラマンが育たない出版業界

◉出版業界は、ある意味で斜陽産業です。ここ数年は、電子書籍によってだいぶ盛り返していますが、1995年から2020年まで、ずっと右肩下がりでしたから。その結果、デザイナーとかカメラマンとか、数値化しづらい技術やセンスを持っているプロが、経費節減の名で削られてきたわけで。そのツケが、景気が良くなっても人材がいない、という状況です。不景気でも、継続して人材を育てないと、こういう事になってしまうのは、どんな産業でも常識なのですが……。これって、好況なのに倒産する企業の、よくあるパターンですね。

【「商業カメラマンが育っていないんです」ベテラン雑誌編集者が嘆く、出版業界の構造的な問題点】Real Sound

■素人フォトグラファーに仕事を発注?

 イツバネットの代表取締役・河戸弘太氏が、小・中学校の入学式を撮影するフォトグラファーをあろうことかXで募集したとして、炎上した。同氏はXを更新、謝罪に追い込まれてしまったニュースが話題となった。撮影は中止することに決めたという。

https://realsound.jp/book/2024/03/post-1592564.html

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、カメラレンズの写真です。

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■右肩下がりの四半世紀■

詳しくは、上記リンク先の全文を、ぜひお読みいただくとして。確かに、出版業界はほぼ四半世紀も、右肩下がりでしたから。新卒で入社した人間が、25年も経てば47歳で、もうあと干支が一巡りしたら定年退職前年か……というレベル。それでは、長期ビジョンなんて、立てようがない部分はあります。バブル崩壊から考えれば、ほぼ30年間の不況ですからね。いつか盛り返すと言っても、そのいつかが見えない。当然、長くても3年とか5年で結果を求められる編集長は、目先の利益に走る。仕方がないですよね。

でも、出版業界側にも問題がありました。それは、電子書籍の波が10年以上前にやってきていたのに、出版社・取次会社・書店の旧来の流通形態を守りたくて、電子書籍に冷淡……というか、否定的な出版業界人が多数いました。実際、音羽グループの講談社は経営者の野間一族の若旦那が、役員の反対を押し切って電子書籍に力を入れ、見事に巣ごもり景気で力を発揮。でも、一ツ橋グループの小学館は、対応が遅れて各編集部ごとに電子書籍化がバラバラという体たらく。本当は10年前に、出版不況の底を打てるはずでした。

つまり、失われた25年を、15年で食い止められたのに。繰り返し書いていますが、電子書籍と印刷書籍は対立するものではないですし、むしろ出版文化の多様性を、より広げるものです。取次会社の株主でもある大手出版社は、ある意味で自分たちの売りたい本を、取次会社を通して読者にゴリ押しすることができました。でも、それは読者の欲しい本と乖離したからこその、出版低迷でもあった面もあります。再販制度での価格維持も、ある面で限界が見えてきましたし。令和の世となり、出版社も変わるべき時期になったということでしょう。

■数値化できない価値?■

さて、自分はいちおう、デジタル一眼レフカメラを所有していて、ムック本の簡単な風景写真ぐらいなら、カメラマンを使わずに自分で撮影します。それは、経費が潤沢ではない出版社での、苦肉の策でもありました。もちろん、最初は漫画家のための資料集め用として、写真は必須だったからです。でも、グラビアページもプレゼントページも担当したからこそ、プロのカメラマンの高い技術と知識は、よく理解しています。特に、光沢があって映り込みがある商品の撮影とか、もうプロカメラマンの技術って、ほんといろんな対応策を持っていますから。

「若いカメラマンの写真を見ると、ポートフォリオの段階で首をかしげるクオリティのものが少なくない。アイドルの写真集などを見ると、一昔前では考えられなかった写真が多く掲載されており、唖然とすることがあります。確かに、ポートレート、風景など、特定のジャンルに特化して写真を撮れる人は健在です。ただ、商業カメラマンに求められる、なんでも撮影できるスキルを持つ人材が育っていません」

カメラマン=グラビア、みたいなイメージがありますが。実際は、プレゼント用の商品撮影に、技術が問われます。ある意味で、カメラはライティングなんですよね。この明るさでどんな絞りにして、どのシャッター速度で撮影したら良いか、それはスポーツカメラマンとかだと、もっと変わりますし。でもカメラのレンズは性能も値段もピンキリで、それこ数万円から数百万円まで、膨大な量がありますから。プロカメラマンだと、レンズに車1台分ぐらい、普通にかけますからね。でも、出版社はそこを無用と、削ってしまう。

だって、グラニアアイドルの写真集、同じアイドルを二人のカメラマンに撮影させて、競作でもしない限りは、カメラマンの腕が売上にどれだけ関係あるか、数値化できないんですよね? 数値化できないものは、簡単に削ってしまう。これはデザイナーも同じで、AのデザイナーとBのデザイナーで、売上にどれだけ貢献するか、そんなのほとんど数値化できませんから。実際、編集者でキャリアがあったり、ある程度のデザインセンスが有ると、そこそこのデザインができてしまうんですよね。デザイナーになった編集者もいます。

■そこそこを超えるプロ■

それはカメラもそうで、高性能のカメラとレンズがあれば、そこそこの写真が撮れてしまう。でもそれは、そこそこでしかないんですよね。昨日も、初の単行本が出るという教え子と、カバーデザインをどうするか、という話になりました。良いデザインと普通のデザイン・良くないと無難なデザインの差を、あれこれ話したのですが。それを評価するには編集者の直感だけでなく、ロジカルに良いデザインと悪いデザインを見抜く必要性があります。そのためには、必要な技術や知識って膨大ですから。大手出版社のデザイナーは流石だと思う反面、大手でも疑問符がつくデザインが、けっこうあって……。

業界自体が、デザインの良し悪しを判定する目が失われつつあるな、という思いを強くします。そういう意味では、この本はカメラやデザインの基本となる、構図の意味がよく解説されていますと、自画自賛しておきましょう。

新聞・テレビ・ラジオ・雑誌の旧メディアは、これからインターネットの大海原の中で、島になっていくしかないでしょう。島が沈むか、屋久島のように存在感を示すかは、経営者次第かと。浜松の小さな工場を、世界のHONDAにした立役者である藤沢武夫氏は、「経営者とは、一歩先を照らし、二歩先を語り、三歩先を見つめるものだ。」との言葉を残しています。それは未来を読む力と、セットです。書店はさらに減り、本はほとんどが電子書籍で読む時代が来る。そこを出版社の役員レベルは認めたうえで、印刷書籍の生き残りを賭けないと、どっちも駄目になるでしょう。


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