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プーチン大統領の政治的目的

◉戦争というのは、政治の延長です。これは別に自分が入ってるわけではなく、『戦争論』で有名なクラウゼヴィッツの言葉。戦争とは、政治的目的を達成するための、数ある手段のひとつ。それは外交交渉であったり、あるいは民間での交流による関係構築であったり、情報線によって国際世論を見つけたり。しかし国家は時々、政治的目的を見失ってしまい、手段が目的化することがしばしばあります。プーチン大統領もその状態にハマりつつあるような。

【「ウクライナの状況は非常に厳しい」プーチンは全面侵攻をどう終わらせる? 専門家が見通す“最悪のシナリオ”】文春オンライン

 ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始してから約1週間。刻々と変化する戦況や現地での痛ましい被害が伝えられるなか、未だに見えないのが「プーチン大統領の思惑」だ。プーチンは何を求め、どんなシナリオのもとでこの侵攻を行っているのか。
 そこで、防衛省防衛研究所でロシアの安全保障について研究している山添博史氏(主任研究官)にインタビューを行った。全面侵攻が始まった2月24日、報道番組「news every.」(日本テレビ系)に出演し、「ロシアの嘘を許してはならない」と強く語った山添氏は、現在のウクライナ情勢をどう見ているのか――。(全2回の2回目/前編から続く)

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、メイプル楓さんのイラストです。

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■いまだ帝政のロシア■

帝政ロシアというのは、ヨーロッパの中では辺境にあり、イタリア・フランス・スペイン・イギリスなどのヨーロッパの中心地に比較すると、甲信地域というコンプレックスが強くあった国です。そのコンプレックスが、ロシア文学を生み、ロシア音楽を生み、クラシックバレエなどでも高い評価を受ける面を生み出したところがあります。それを生み出したのが、ロマノフ朝の歴代皇帝の、リーダーシップだったのは疑いないです。

そういう文化ゆえ、独裁者を生み出す側面もあります。ここら辺は、天皇というシンボルをいただきながらも「和を以て貴しとなす」の文化の日本が、早くから合議制を取り入れ、むしろ独断専行する独裁者的なタイプの人間を嫌い、多くが暗殺されているという事実からも、文化の違いを感じます。ロシア人と話していると、反プーチン派でも喋っているうちに、プーチン大統領を褒め出す部分があるとか。

しかしそういう独裁的な国は、やはり民主化を嫌う傾向が顕著です。これは、法定制度の元祖である中国も同じ。中華人民共和国と名乗ってはいても、未だに皇帝制度が受け継がれています。北朝鮮のように、権力を世襲していないだけで。それは韓国にしてもそうで。李氏朝鮮の王族の帰国を認めなかったり李承晩初代大統領は、自分自身が新たな王朝の始祖になろうとして、終身大統領になろうとしました。

■属国にはもう戻れない■

その李承晩の失脚後は、朴正煕大統領による軍事独裁政権が漢江の奇跡をもたらし、でも彼も暗殺。歴代の大統領が、権力の座を離れると逮捕起訴有罪収監を繰り返しているのも、大統領選挙は一種の易姓革命になっているからでしょう。ロシアもまた、プーチン大統領の長期政権によって、プーチン王朝になっている面があるわけで。こうなると、政権の維持自体が自己目的化し、非合理的な判断や行動を繰り返すのは、独裁国家の常。

しかし、曲がりなりにもソビエト連邦の崩壊から30年。連邦から離脱した国は、自由と民主主義の空気を吸い、またインターネットの発達と普通の時期も重なり、自由な言論や情報にふれる状況が生まれたわけで。プーチン大統領の力押しの政策も、昔ならあっさりと首都陥落で、決着がつく可能性もあったでしょうけれど。ウクライナ側には、ロシアに屈しないという政治的目的が形成されていますから。

プーチン大統領としては、かつての帝政ロシアの拡張主義と、西側諸国からの民主化の波の防波堤としてウクライナが欲しい、という側面があるのでしょうけれど。これはある意味で、緩衝地帯としてのウクライナは、要するに体のいい盾。もしもNATO軍などとの戦争になった時、ロシア本土を戦場にせず、ウクライナを戦場にするということですから。そんな状況を、ウクライナ側が認められるはずもなく。

■降伏を勧める人々■

あとは、ゼレンスキー大統領が、どこを落としどころにするかでしょうね。東部の事実上の割譲を認めるのか? それともあくまでもロシアの要求を突っぱね、元の状況に戻すことを要求し、徹底抗戦に舵を切るのか? ロシア軍の士気の低さなどと合わせて、色々な可能性が考えられます。長期化すれば被害者の数は確かに増えますが、ロシア自体が厳しい状況に追い込まれるのもあるわけですから。

再び侵略させないように、ある程度の意地を見せておく必要があるのも、国際政治のリアリズムです。もっと言えばこれからの世代に対して、お父ちゃんたちは勇敢に戦ったという建国神話は、絶対に必要なものです。建国神話などと言うと鼻で笑う人もいるでしょうが、北朝鮮と韓国を比較してみれば、内容は疑わしくても抗日パルチザンと指定の建国神話を持つ北朝鮮に比較して、上海でエロ本を作っていた大韓民国臨時政府の正統性の弱さは明らか。少しこんな意見を言う人が日本国内にはいるわけで。

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この主張、ウクライナを日本に・ロシア系の人たちをアイヌ民族に入れ替えれば、日本にも適用できちゃうんですよね。実際にプーチン大統領は「アイヌ民族をロシアの先住民族に認定する」と、2018年末の人権評議会で発言しているのですから。自民族保護の人権の美名の下、侵略が起きるのはいつものこと。それは沖縄でも同じでしょう。琉球独立派をうまく取り込んで、自衛隊や在日米軍を挑発して、ひと悶着起こせば介入の口実は何とでもつきますから。

■明日は我が身か■

興味深いのは、橋下徹氏と町山智浩氏の発言が、似たり寄ったりになっていることでしょうかね。一方は維新の会の創設者で保守系と目される人物。もう片方はオールドリベラリストで、近年はますますその傾向を強めている革新系の文化人。それが両方とも、ロシアというものを甘く見ている。橋本市は自分とほぼ同年代で、松山市は少し年上ですが。子供の頃を周囲に、満州帰りの人やシベリア抑留を経験した人はいないのでしょうかね?

日本という国は白村江の戦いでの大敗以降、一種のモンロー主義に陥って、大陸の強大な帝国との正式な外交を閉じ、ずっと引きこもって行きました。もちろん日宋貿易や日明貿易などで、交流は盛んにあったのですが。それはあくまでも陪臣が勝手にやっていることで、国王たる天皇家は中華帝国からは距離を置いてきたというのが事実です。聖徳太子の対隋外交の延長線として、天皇号・日本国号・元号を採用し、日本こそが中華であると言う、神話を創ったわけで。

それは東洋の小さな島国が、精一杯背伸びをした滑稽なファンタジーだったかもしれません。ただ、そうやってある種の鎖国を千数百年にわたって敷いたおかげで、日本の独立は保たれたわけで。結果的に、明治維新によって急速に近代化に成功し、日清戦争で白村江の戦いのリベンジに成功したのですから。日本は右も左も実際は反米主義の部分があるのですが、アメリカの占領政策はロシアや中国に比較すればはるかにマシです。それを基準に安易に降伏を勧めるのは、あまりにも無責任ではありませんか?

 これは他人事ではないのです。これを他人事のように見て、ロシアの肩を持つような言説を広げるのは危ないです。中でも一番危険なのは、「ウクライナは早く降伏するべき」といった言説です。ロシアにも理由はあるんだし、ロシアに逆らっても仕方ない、キエフはどうせ落ちるんだから、といったような、早期降伏論が日本で有力になってしまうと、それは日本自身の次の危機に利用されます。

元記事の中で特に重要な部分と思います。

■日本という国のクセ■

日本という国は奇妙なクセがあって、唐王朝と戦ったはくすきのえの戦いに、史上最大の版図誇ったモンゴル帝国との元寇、明王朝と李氏朝鮮の連合軍と戦った朝鮮出兵、幕末になると薩摩藩一国で日の沈まぬ世界帝国であるイギリスと薩英戦争、長州藩は4カ国連合と馬関戦争。明治維新以降も日清戦争に日露戦争、第一次世界大戦第二次世界大戦と、その時々の世界帝国や超大国と戦争を辞さないと言う、妙なクセが。

もちろんそれで、鎌倉幕府は滅びましたし。第二次世界対戦ではアメリカにコテンパンにやられて、日本中を焼け野原にされたあげく原子爆弾を2発も落とされて完敗。もちろんこれは、戦争回避のための十分な手を打っていなかった部分や、デタラメな作戦立案や指揮系統の混乱などなど、反省すべき部分は多々あります。少し同時に、超大国の圧力に屈しなかったという、民族性を千数百年かけて形成している面もあるわけです。

右だ左だと言っても、日本人の心を一尺も掘れば、尊王攘夷が噴き出すと語ったのは、半藤一利さんでしたか。良くも悪くも日本という国は、未だに聖徳太子のドグマに従っている面があるのです。そこを無視しても、説得力はないです。また同時に、日本人のそういう側面を無視して平和論を語っても、齟齬が出るでしょう。自分は保守派ではありますが、言霊思想も含めて日本の危うい部分に関しては、たびたび言及していますが。それは再び大敗しないための、重要な面だからだと思っているのです。

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