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京アニ放火殺人事件:犯人の浅はかさ

◉いちおう出版社に10年ちょっと勤め、漫画賞の担当も長くやっていましたし。今は、作話を教える立場ですから、自分の作品を盗作されたと主張する投稿者やクレーマーや電波の受信者は、けっこうな数、見てきました。でも、ここまでレベルが低い盗作主張は、なかなかないですね。呆れます。こんな馬鹿野郎様によって、間違いなく稀有な才能があったアニメーターが36人も、命を奪われたかと思うと、ほんと悔しいです。

【スーパーで割引商品買う場面、青葉被告が「盗用」と主張…公判で京アニ作品上映】読売新聞

 36人が犠牲になった2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などで起訴された青葉真司被告(45)の第2回公判が6日、京都地裁(増田啓祐裁判長)で開かれた。検察側は証拠調べで、青葉被告が「盗用」と主張している京アニ作品の該当シーンを法廷で上映した。類似性がなく、京アニ側の盗用がなかったことを立証する目的とみられる。

 検察側は、青葉被告が盗用と主張している京アニの「ツルネ」「Free!」「けいおん!」の3作品の一場面を法廷で上映。対比させる形で、青葉被告の小説の記述内容を説明した。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20230906-OYT1T50315/

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、メイプル楓さんのイラストです。

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■垂れ幕が盗作?■

まず、学校の垂れ幕。垂れ幕ネタなら、小林まこと先生の『柔道部物語』にて、柔道部が全国大会出場を決めて 垂れ幕が岬商業高校に掲げられるのですが。柔道部と昔から仲が悪い野球部が、意地になって夏の甲子園出場を決め、柔道部よりも何倍も大きな垂れ幕を掲げられ、柔道部の話題がすっかり忘れ去られたというギャグシーンがあります。『Free!』の垂れ幕シーンとか、柔道部絡みで、むしろ『柔道部物語』からインスパイアされた可能性も。

もちろんインスパイアはインスパイア、そんなものが、盗作に該当するはずもなく。単に犯人が物語作りの基本の基本も知らない、ただの素人 だということを、雄弁に物語っていますね。というか、漫画や小説好きの小学生だってこんなもの、盗作なんて言いませんよ。そんなものは過去の漫画やアニメで膨大な数が描写され、ただの状況説明のありふれたシーン。作品の本質的な部分に、何の関係もありませんから。バカジャネーノとしか。

■惣菜が盗作?■

次に『ツルネ』の割引の惣菜を買い漁るシーンなんて、なんぼでもありますね。それこそ、『のだめカンタービレ』にも『OL進化論』にも、数 限りなくあります。レディース漫画の嫁姑問題モノだったら、割引の惣菜の是非について嫁と姑が言い争うなんてシーンは、腐るほどありますね。自分も編集を辞めるラスト1年半は、レディースの編集部に在籍しましたんで。こんなの盗作とか言い出したら、料理漫画やグルメ漫画 は書けなくなりますね。

前々から、この犯人の死刑はよほどのことがないと逃れないので、彼にはこんな凶行を実行する馬鹿野郎の思考パターンを、できるだけ数多く残すことによって、「おまえの言ってることって、京都アニメーション放火殺人事件の犯人の言い分とそっくり同じだな」と、釘を刺すための役割を果たすことだといった意味のことを、繰り返し書いてきましたが。その意味では、期待通りなのかもしれません。

ただ、あまりの思考の飛躍で、ひどすぎる部分も。自分が編集者時代や講師になってから出逢った、盗作された妄想を持っている人間はもうちょっと、理論的な思考ができていましたよ? ここまでのバカは、ちょっと記憶にないですね。

■留年が盗作?■

『けいおん』の留年云々も、もう単語を使ってたら、盗作だとイチャモンを言っているレベルです。それこそ、登場人物が留年するような物語なんて、いわゆるヤンキー漫画ならいくらでもあります。『BE-BOPハイスクール』なんて、主人公2人が留年するシーンは、大爆笑のネタに仕上がっていましたから。あれにインスパイアされて、留年ネタなんていくらでも描かれていますからね。

だいたい『女子高生の無駄づかい』や『ぼっち・ざ・ろっく!』でも、留年するかもネタなんて、定番ですし。ガールズバンドもののボザロとか、それこそジャンル もかぶっていますが、かきふらい先生や京都アニメーションが盗作だとか言うようなレベルでもなく。そもそも登場人物が自分から後輩に言うのと、担任教師から言われるのと、シチュエーションも何もかも違いすぎますね。ほんと、作話の基礎もできていない。

個人的に希望するのは、この犯人が死刑になったら、是非ともその投稿した小説を、全文公開して欲しいもんですね。物語作りの基本の基本もできていない人間が、いったいどんな愚作珍作凡作を書くか、自意識過剰な犯罪者予備軍に対する、良き指標になるでしょう。そういう、100人に書かせたら90人ぐらいが思いつくような凡庸な作品って、一時審査でバンバン落とされるので、多くの人は駄作のレベルを知らないんです。

■凡作の再生産■

昔ある投稿者と話をしていたら、死神がオッドアイの二級天使に雨の日に出会う、という投稿作を持ってきて。なぜその作品を投稿しようと思ったのか聞くと、その 漫画賞の最終選考に残った作品に似たものが1本もなかったので、オリジナリティがある作品だと思った……と話していて。でも、自分が展開や セリフを次々と予想して当てると、ぎょっとした顔をしていました。

別に自分に超能力があるわけでもなく。少女誌や少年誌の投稿作で、そのパターンは何十回も見たからです。たぶん、京都アニメーション放火殺人事件の犯人の作品も、このシーンはあの作品のパクリで、あのシーンはあの作品の盗作でと、好事家が検証すれば先行する作品の盗作のオンパレードの可能性が高いですね。自分の個人的な経験ですが、盗作している人間ほど、自分は盗作されただの、言い募りますね。

ちなみに、自分もあからさまな盗作、やられたことありますけどね。でも、例えば推理小説のトリックやギャグには著作権がありません。そういうのは、著作権で保護されないと言いますか。なので、不愉快でしたが、スルーしました。自分も全くの 0 からの創作ではなく、歴史資料を元にしたアイデアでしたからね。

■天道是か非か■

逆に非常に凡庸な、話の筋に関係ないシーンでも、セリフに使われている文字の一致のほうが、盗作の認定はされやすいですね。例えば『十三人の刺客』や『四十七人の刺客』の脚本で知られる池宮彰一郎氏も、尊敬すると公言していた司馬遼太郎作品との、類似が指摘され。司馬遼太郎はもう亡くなっていましたし、遺族や財団から訴えられることもなかったのですが。自分から2作品を絶版にし、本人もその後、仕事は激減しましたね。

たぶん、京都アニメーション放火殺人犯の投稿した小説が、全文公開されたらむしろ、犯人の方が盗作魔として 糾弾される可能性が、高いでしょう。犯人としてはありもしない才能を信じて、人生の一発逆転を夢見て投稿したのでしょうけれど。この程度の類似性(というか単語の一致レベル)をもって盗作と逆恨みするような人間が書いた小説は、小説の新人賞に何十本も送られてくるパクリとも言えない稚拙な作品である可能性が、98%でしょう。

おそらくは周囲に認められることが、ほとんどなかった人生において、逆に言えば自分は 京都アニメーションに到着されるような人間だというのが、彼にとっては一つの希望だったのかもしれません。結果的に騒ぎを起こすことによって、それを周囲にアピールしたかったのでしょうけれど。それによって奪われた才能はあまりにも大きく。奪った側の才能はたぶんゴミ同然。天道是か非か、と問いかけたくなります。悔しいです。

どっとはらい……。


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