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2019年3月31日 LINEのトーク履歴が全部消えた。

携帯代金とWi-Fiルーターの契約料金が毎月1万円を超えていて、新サービスに敏感な友人にその話をするたびに鼻で笑われ続けても、重い腰がなかなかあがらなかったのは、iPhone6sとともに過ごした3年ちょっとの時間にしがみつきたかったからだと思う。

「格安SIMっていろいろあってわかんないんだもーん」というのも本音であったが、それよりなにより、万が一、いまの携帯電話に残った思い出の残骸たちが消えてしまったらどうしよう、という恐怖のほうが大きかった。

携帯電話は半年くらい前から調子がずっと悪くて、時には写真が保存されなかったり、通話はイヤホンなしではできなかったり、アプリのアイコンが非表示になってしまったり……まさに満身創痍だった。
正直、とてもいら立っていたし、早く変えたいと思ってそのときのために中古の(けれど今より型が新しい)iPhoneも購入済だった。

ライフスタイルに合わせてプランの見直しを行って、やはり乗り換えようと決めた。

消えちゃわないように。

めちゃくちゃ念入りのバックアップをとった。写真はすべてGoogleフォトに移動したし、iCloudでも1日置きにバックアップをとった。万全に状態で臨んだはずだった。

けど、LINEのトーク履歴が、全部消えた。LINEを使うようになってからの分だから、おそらく7年分のオンライン上でのコミュニケーションの足跡がこの世界から消えてしまったことになると思う。

仕方ない、とは分かっているし、ちゃんとした手順を踏んでいてもこういうのは起こりえることだ。まあ、どうせとっていても意味のない部分だって多かった、残っていたから見返すわけでもないし、7年分のことばたちがわたしの日々になにか影響を及ぼしているわけでもない。

そう、なんだけど。

失ったものなんて最初からなかったに等しいのに、涙が出た。なんで泣いているかも分からなかった。トークが残っていたからって消えるものは消えるし、トークが消えたからって残るものは残る。きっとそうだ。そうなんだけど、自分の愚かさやどんくささや器のちいささによって消したくないのに消してしまったものがあるかもしれない、それがいつか自分のもとに戻ってくることの手助けになってくれるかもしれなかったのに。


なくなったものを探すように、なくしたくなかったトーク画面を検索で開くけれど、にくったらしいくらいの青空が画面いっぱいに広がるだけだった。ちくしょう、ちゃんとバックアップとったのにさ、なんだよ、あの手間を返せよ。

たくさんいろんな言葉をもらっていたと思うし、たくさんいろんな言葉を届けてきた。目を背けたくて3日間放置した「心配です、連絡ください」だとか、人のこころのうつろいを感じた「あなたといる時間は楽しかったです」だとか、胸ぐらをつかみたくなった「連絡先を削除してほしい」だとか、何度も何度も削除してから送った「会いたい」だとか、情けなくて消えたくなった「その話は止めておこう」だとか、半年間喉に刺さった小骨みたいにちくちく痛んで吐き出せずにいた「死にたくてたまらなかった」だとか、いまもずっと苦しくさせる「お誕生日おめでとう」だとか、届かなかった「一緒にお墓参りに行きませんか」だとか、なにが正解か分からなくなった「別れたくない」だとか、

明日、4月1日、新年度を迎えるこの日、新しい元号が発表されて、ひっそりと平成の死がはじまるらしい。そんなタイミングで、無理やりにでも、平成と一緒に重ねてきた想いに踏ん切りをつけさせるつもりなのかもしれない。

本当は「わたしはここが居心地がいいから、ここに残るよ」と言いたかったけれどそういうわけにもいかないね。

またゼロからはじめなきゃ。今度は少しでも、前よりも、素直に、すぐに、いろんなことが伝えられるようになれたらいいな。


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