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恋人がエイリアン

恋人ができた。
24歳だということで「年下彼氏だ!」とちょっとお姉さんぶって付き合っていたのに、6回目のデートで突然「実は31歳なんだけど」「実は独立していて自分で会社をやっていて…」と、こいつ頭がイカれたか?と思うような告白をされたけど、とにかく恋人ができた。
 
7歳サバをよんでいたのは効率よく理想の相手と付き合うため。
そんなわたしだったら考えもしない行動をするような人で、最初のデートをしてからいままで一貫して彼といる時間の感想は「好き♡」とか「ずっと一緒にいたいな♡」では、決してない。
 
「人間って、面白いなァ」である。
 
 

 
 
特殊な働き方をしているのと、前の恋愛でずいぶんと痛い目をみていたことがきっかけで、完全にわたしは恋愛に対して臆病になっていた。
彼と付き合ったのは、そんながちがちに固まってしまった自分を変えたくて、海に飛び込むような気分だった。
 
ただ、飛び込むまでは良かったが、うまく泳げないのは相変わらずで。
とにかく不安だった。ここからどうしていいのか、自分はどこに向かいたくて飛び込んだのか。ひとりになるとそんなことばかり考えてしまう。
 
 
だからなるべく傷つかないように、「やっぱり慣れないことはしないほうがよかった」と後で後悔してしまわぬように、なるべくこの関係は人に黙っていようと思った。
誰かにいわなければ、それは事実と夢の境目にいつづけるようなそんな気さえしたから。
 
 

 
 
恋人ができたことを公にしたのは(なんていうと大げさだけど、)彼があまりにあっけらかんと「え?でも平社員だと思ってたのが社長だったんだから、良くない?」と、こともなげに言ってのけて、面白くって笑いが止まらなかったからだ。
(ちなみに、隣の部屋の人から壁ドンされた)(それでも笑いはなかなか止まってはくれなかった)
 
ああ、この人はエイリアンだ。確信した。
効率よくいい人と出会いたい、なんてわたしは絶対思わない。(偶然の出会いを奇跡と名付けたい)付き合うために最初はうそをついたっていい、なんてわたしは絶対思わない。(後から無理がたたって別れたくなると分かっている)そのあと、もううそはつかないから大丈夫だよ、なんてわたしは絶対に言えない。(相手に申し訳なくて泣いて謝りそう)人類は永久の命を手に入れた方が幸せだ、なんてわたしは絶対に思わない!(ともだちのなかで一番最初に死にたい!)
 
その人はあまりに違いすぎていた。
話すこと全部が新鮮で、どきどきというよりもわくわくが勝るような人だった。
 
付き合うと、この先、意見の食い違いも起きると思う。まあ、でも、エイリアンなんだから、100%理解し合えるはずないって寛容になれる。
付き合うと、この先、別れだってあると思う。まあ、でも、エイリアンなんだから、いつかは母星に帰ることもあるだろう。そのときは笑って手を振ってやりたい。地球はなかなか楽しかっただろう?って。
 

 
 
「この人と別れても、たぶん、わたし笑っていられるな」
24歳の青年が、31歳のおじさんに突然変化したとき、そう思った。夢を事実に変えることが怖くなくなった。
 
正直、彼とずっと一緒にいれると、思ってない。生活を共にするには、違いすぎる気がする。半年後別れていても、なんら不思議ではない。なんなら、1カ月後さえどうなっているか不明だ。そのときはこの文章を黒歴史と呼ぼう。
 
すこし前のわたしは、もうとにかく別れの痛みに怯えていた。もう二度とあんな辛い思いしたくない、あのときの自分に戻りたくない、と、恋愛のおわりばかり見て、ぶるぶる震えていた。そんなわたしが、「この人となら別れてもいい!」と思えた。
 
 
海に飛び込んだからこそ分かった。服が水を吸って、さらに重く息苦しくなるんじゃないかと恐れていたけど、案外、わたしは身軽だったらしい。

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