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ポール・トーマス・アンダーソン/トム・ヨーク「アニマ」 Anima

レディオヘッドのフロントマン、トム・ヨークのソロ「アニマ」のリリースに合わせて、同アルバムから三曲ピックアップしたポール・トーマス・アンダーソン監督による短編映画「アニマ」がネットフリックスで公開されたのでさっそく観た。

振付師ダミアン・ジャネットによるコンテンポラリーダンスの作品になっていて、ピナ・バウシュのような身体全体を使った身体的な表現が全編で描かれている。
プラハと思われる地下鉄から無機質な工事現場のような通路を抜けてトラムに乗るだけの簡素な流れの中で、フレアなどをつかった効果的な照明とダンスシーンというシンプルながらも音楽とマッチした世界観が繰り広げられている。
途中、坂道を転がり回ったり登ったりする部分はダミアン・ジャネットの「スキッド」という作品を差し込んでいる(クレジットに明記あり)。

音楽はシームレスに繋がっていて、主張し過ぎず、とはいえBGMに収まるわけでもなく映像作品としては程よいバランスになっていた。
トム・ヨークと絡む女性はデジェイナ・ロンチオーネというイタリア出身の女優で、今のトム・ヨークの恋人である。

アルバム「アニマ」は個人的に近作のレディオヘッドや、トム・ヨークのソロの中でも特に優れた作品だったと思う。今のアメリカのジャズやインディペンデントでのレディオヘッドへの需要は理解しつつも、彼らの近作は楽曲がどこか散漫でかつてあった輝きを感じることが出来なかった。時代に対して尖った表現をしているのは分かるけれど、単純に楽曲のクオリティにしっくり来ないことが多かった。今作「アニマ」については当然現状の音楽を視野に入れつつも、やりたい事をやり遂げている事が感じられた。ギターではなくシンセサイザーがメインに添えられているのは、ポストダブステップ以降の彼のやりたいことだったのではないかと。
マッシヴ・アタックやポーティスヘッドと繋がるアルバムだと言えるし、常々トム・ヨークが抱えていたUKダブ/ブリストルサウンドへのコンプレックスが昇華された作品にも思える。今のアメリカを覆っているチルなリヴァーブと異なる、沈み込むような内省的なダブを感じさせるリヴァーブの感触に彼の視点が見えた。

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