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女王陛下のお気に入り The Favorite

ヨルゴス・ランティモス監督の女王陛下のお気に入りをやっと観た。平日昼の回という事で年齢層も高めだったためか、あまり笑い声も上がらなかった。

ランティモスはロブスターしか観ていないのだけれど、やはりどこか共通した独特の雰囲気がある。端々から滲み出るグロテスクな(けれどライトな)描写や雰囲気や、肉感的過ぎないものの、どこかグサリと刺さる痛みの描写が印象に残る。平手打ちや、鞭打ち、糞の溜まり場に落とされたり(二度も!)、空砲をぶっ放されるシーンなど、音響効果も重なり結構エグい。主軸になる3人の女優の表情や演技がとにかく素晴らしく、アン女王の病気に悩まされながらも感情の起伏が読めない存在感や、サラの気丈でゴシックな佇まい(インテリアもゴシックでカッコいい)、清楚なふりして酸いも甘いも経験してきたアビゲイルの虎視眈々とした表情など、とにかく観ているだけで引き込まれる。とにかく衣装が凄い。基本モノクロで統一されたカラーリングでキャラクターが住み分けされていて、誰が何に所属しているのか一目で分かる。とにかくキャラクターごとの存在が分かりやすく配置されているので、混同する事がない。

個人的に時代劇は苦手なジャンルではあるものの、あまり時代を感じさせない作りになっていて、現代でこの時代のコスプレをして演技しているようにも見えなくはない。イギリスとフランスの戦時中とはいえ、戦争シーンは皆無だし政治的なやりとりはあくまでも3者の覇権争いの中のひとつであって、大奥的なやりとりを見せる事で無駄のない愛憎劇へと昇華していた。

笑ってしまったのがアン女王がアビゲイルに対して「彼女はちゃんと舌でしてくれる」というフレーズ。ただカントやヴァギナといった言葉は直訳されていなかったので、そういった罵詈雑言は翻訳ではあまり感じ取ることが出来なかったのは少し残念だった。まあ致し方ないか…。

撮影法では自然光やロウソクの灯りのみで、照明を使わない手法はやはりキューブリックのバリーリンドンを下地にしている。

音楽もかなり凝っていて、弦楽が淡々とひとつの音を奏でながら不穏な緊張感を煽る。音も演技もどこか空間が空いている印象があって、隙間を生かした演出が良かった。クラシックの楽曲に被さるようにノイズが散りばめられていたりとやはり映画館で観るべき映画だと感じる。

グロテスクさといえば、ハーリー(マッドマックスのニコラス・ホルト)らのニューロマみたいな化粧や衣装も印象的で、女優陣がほぼすっぴんなのに対して、異様な雰囲気を醸し出している。

極力衣装や建物を眺めようとしたものの、台詞が多く字幕を追うので精一杯なので、取りこぼしてしまったものも多かったのかなと感じてしまった。

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