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ヘレディタリー/継承 Hereditary 不穏な家族ドラマ

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A24製作によるホラー、アリ・アスター監督ヘレディタリー/継承を観てきた。この映画はA24の中でも最大のヒット作ということ。

驚かせるような演出は無く、じわりじわりとイヤーな雰囲気が少しずつ画面に入り込んでくる。俳優の演技、特に母親がどんどん狂っていく様はキューブリックのシャイニングを想起させた。何かが家の中にいるという気配が終始感じられ、湿り気のないジャパニーズホラーといった感じもあった。顔芸と言ってしまえるほど、各俳優の極端に寄ったカットは家族に忍び寄る恐怖を巧く演出している。舌を鳴らす音の演出などは見えないものがそこにいる気配をかんじさせる。

妹役のミリー・シャピロ演じるチャーリーは適役で、ちょっと足りない子なの?ん?という何かしでかしかねない行動を表情だけで演じ切っていて、いなくなった後も終始尾を引いている。

観ていて違和感があったのだけれど、妹の壮絶な事故後に兄のピーターが塞ぎ込みながらも、事故について大きく振れる事なく話が進む様が異様だった。ここについてはその後母親アニーの感情が振り切れる場面で、この家族がもつ違和感を吐露しているので最初の違和感は薄らぐものの、自分の過失で殺してしまったという感情とともにより恐怖へと振り切れる様がじわりじわりと忍び寄ってきている。

全体的な話を簡単にまとめると妹のチャーリーを兄のピーターの男の体に憑依させるのが、地獄の王ペイトンを降臨させるのがこのカルト集団の目的だったのがこの映画のストーリーだった。

家族間の軋轢や、家系がもつ不吉な遺伝子、母親の異様なミニチュア、家がもつ不気味さ。ピーターの部屋から映る、外にある離れの小屋が怪しく光る(母親が付けた暖房の灯り)様は悪魔の棲む家のようで禍々しさがあった。

ラストの降臨のシーンは祝祭感があり、音楽含め妙な高揚感があったのが面白い。それにしても不思議な映画だ。

…という事で、正直怖いかというと少し拍子抜けした。全体的に既視感に溢れていたのと、後半母親の狂い方が極限にまで振り切れた瞬間ツッコミどころ満載で、屋根裏に隠れたピーターを追う母親が天井にへばりついて頭を打ち付けるシーンなどちょっと笑ってしまった。

意味深なシーンがいくつかあり、部屋番号の202や、差し出された紅茶に紛れてた小さい物質を口から出すシーンなど意味ありげなものがいくつかあったのだけれどよくわからない。

アーティーに仕上がれば評価されるの?という穿った見方をしてしまうのだけれど、そこまで凄い映画かなぁというのが個人的な感想です。

アメリカのホラーの中では新しいかもしれないけど、ちょっとねえ…。いやあ観てられない!くらいの演出は欲しかった。苦しさが伝わってこないんだよな。

ネットをみていて、たまたま目に入ったから比較するけれども、デヴィッド・フィンチャーのゴーン・ガールのような映画の方が恐怖が日常化してどうにも出来ない怖さがあったので、オカルティックなものよりもそう言ったものの方が怖いなあというのが正直なところ。

とはいえこういった映画をリリースするA24はすごいなと思わせる映画だったのは間違いない。



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