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Moi日記

11月22日

4年前の11月15日のツイートです。

そして、思いがけず特別な見学会へのお誘いをいただいたのが、そのちょうど4年後の11月15日深夜のこと。これはもう〝奇蹟〟といってよいのでは?

ついに念願叶って、先日その「旧赤星鉄馬邸」を見学してきました。

吉祥寺の成蹊大学のすぐ近く、三千坪の敷地にいまも建つ「旧赤星鉄馬邸」は、1934(昭和9)年に実業家の赤星鉄馬の自邸としてアントニン・レーモンドが手がけた建物です。

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アントニン・レーモンドといえば、銀座の教文館・聖書館ビル、カトリック聖パウロ軽井沢教会や、西荻窪の東京女子大学礼拝堂、また戦後のものとしては高崎市の音楽センターなど比較的大規模なものは残っていますが、一方戦前の住宅建築はほぼ現存していないので、その意味でこの「旧赤星鉄馬邸」はとても貴重な建築といえます。

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戦後、長らくナミュール・ノートルダム修道女会東京修道院として使われていましたが、最近になって売却の話が持ち上がり、それに伴い地元の有志の方々が中心となり保存運動が始まっています。今回の見学会は、実際にその建物を見ていただくことで保存運動の趣旨を近隣の方々に理解してもらい、運動の輪を広げようという目的でナミュール・ノートルダム修道女会の全面的な協力の下、開催されたものです。

当日はあいにくの土砂降りにもかかわらず、ご近所さんを中心に200人を超える人たちが押しかけ関心の高さを物語っていました。今回は、自分だけで見るのはもったいないと思い、北欧建築についても造詣が深い、東京建築アクセスポイント代表の和田菜穂子さんにもお声がけしてご同行いただいたのですが、こちらは文化史的な見方はできても建築についてはずぶの素人なので大変ありがたかったです。

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師匠のフランク・ロイド・ライトを思い出す幾何学形を組み合わせた玄関

見学に先立って、ナミュール・ノートルダム修道女会の渡辺愛子シスターやレーモンド設計事務所のOB、また赤星家の方による挨拶などもありました。

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美しいらせん階段。

建物は、離れの増築やコンクリート打ちっ放しの外壁にモルタルを吹き付けるなどの改変はあるものの、室内の調度品を含め竣工当時の姿が十分残されており、ナミュール・ノートルダム修道女会のみなさんが大切に住まわれてきたことが手に取るようにわかり感銘を受けました。特に、レーモンド夫人のノエミが手がけた家具や調度品の類がいまもそのまま使われているのは驚きです。実際、それらはスペースの無駄を排した考え抜かれたデザインなのです。

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家具はビルトイン式でとてもモダン。ちょっとした引き出しの取っ手などもかわいく、吉祥寺の「moi」の内装を思い出した。そして、和風の中庭がまさかこのコンクリートのモダン住宅に隠されていようとは。

たとえば、あらためて竣工当時の様子を再現する方向で修繕すれば、白金の庭園美術館や品川の原美術館と共に貴重な戦前のモダニズム住宅のひとつとして高く評価されるのではないかでしょうか。また、建物同様、武蔵野の面影を残す広大な庭もある意味「武蔵野市民の財産」というべき素晴らしいものです。

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庭から本館を臨む。85年前の建物とは思えないモダンデザイン。

最近刊行された与那原恵『赤星鉄馬 消えた富豪』(中央公論新社)によれば、鉄馬の弟である赤星四郎、六郎兄弟は日本のプロゴルファーの草分けとして海外遠征で活躍するほどの腕前の持ち主であり、また鉄馬自身も趣味のレベルをはるかに超えていたそうで、この庭には練習用のグリーンやバンカーもつくられていたとあります。ゴルフの素振りでも使われそうな広い屋上など含め、施主である「赤星鉄馬」の人となりを伝えてくれます。その意味でも、建物と庭をひとつのものとして保存するのでなければ意味がないと強く思いました。

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ここで鉄馬はゴルフの腕を磨いたという。武蔵野の自然が生きている。

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タイルが美しい水飲み場(上)。テラスの藤棚と庭の巨木(下)。

ところで、この売却の噂は10月のはじめの時点でお客様から伺っていたのですが、この見学のお誘いはまったく別のルートから頂戴しました。

陣内大蔵(じんのうち・たいぞう)さんです。おそらく僕と近い世代のひとであれば、シンガーソングライターとしてメディアを賑わせていたのを記憶されている方も多いのでは。「メントス」のCMとか。

いま、その陣内大蔵さんは吉祥寺にある日本キリスト教団東美教会で牧師をされながら、音楽活動も続けていらっしゃいます。実は、カフェをやっている時にはちゃんとご挨拶させていただいたことはなかったのですが、先のツイートを思い出してお声がけいただいたのでした。

しかも、なんと! 音楽活動を休止して一時フィンランドに「逃亡」していた時期があったそうで、ヘルシンキ、トゥルク、ユヴァスキュラ、ロヴァニエミなどで過ごし、国民的音楽ユニットのヴァルッティナにハマっていたこともあると聞き本当に驚いてしまいました。嬉しいです。

これもフィンランドがつないだ奇蹟。

陣内さん、またお忙しい中やりとりをして下さった事務局の竹内様、中島様、本当に貴重な機会をありがとうございました。

すでに署名などはしましたが、保存に向けて何かお役に立てることがあればお手伝いさせていただきたいと思います。規模も大きいのでそう易々とは保存の話が進展するとも思えませんが、よい方向で話し合いが進むことを祈っています。

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