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「めんどくさい」とMoiがそこから始めようとすること。(前編)

わざわざ日本にまで来てハードロックカフェに入るアメリカ人。

誰がどこに行こうと勝手だが、ずっと疑問ではあった。じゃあ、これはどうか。

わざわざフィンランドにまで来てスタバやマックに入る日本人。

思い当たる人もいるにちがいない。その国でしか買えないタンブラーが欲しいとか、ライ麦パンを使ったハンバーガーが食べてみたかったとか、ハードロックカフェにしても限定のピンバッジが欲しいとかそういった理由がないとはいえない。

また、安心感というのも大きそうだ。異国で、しかもひとり旅だったりすればなおさら、メニューも値段もオーダーの仕方もよくわからない現地の店に飛び込みで入るにはそれなりの勇気を必要とする。言葉がおぼつかないとくれば、よりいっそうそうなるだろう。その点、スタバやマックなら間違いない。

とはいえ、1ヶ月滞在するとかならまだしも、わずか1週間程度の滞在にもかかわらず3食のうち1食がマックでチーズバーガーというのもずいぶん味気ない。それでもやはり、見慣れたもの、安心感のあるもの、決して最高とは言えないけれどハズレもなさそうなものに落ち着いてしまうこの心境は、はたしてどこから生じるのだろう。

そこで思い出したのは、

食べるのめんどくさい

というのが口癖のある知り合いの女性のことだ。よく、3食錠剤飲んで済ませられるならそれでも全然いいと彼女は言っていた。全然よくねーよ! と何を言っているのか意味がわからない僕がツッコんでいつもその話は終了していたので深く考えることもなかったが、思えばそこにすべての謎を解くカギがあったのである。そう、それは、

めんどくさい。

ときに、めんどくさいはすべてを凌駕する。ゆえに、めんどくさいは虚無である。異国で、その国でしか味わえないもの、そこにしかない店を選ぶかわりに想像のつく味覚や見慣れた看板をつい選んでしまう心理、そこに横たわっているのは「めんどくさい」という虚無なのではないか。

いや、それも分かる。確かに、知らない国で知らない店に入り知らない店員を相手に知らないものを注文する

超メンドクセーーー

しかし、バックパッカーならずとも、あえてその「めんどくさい」を体験してみることこそ旅の醍醐味ではなかったか。ことわざに「旅の恥はかき捨て」とあるように、そこそこの失敗であればすべて最終的には笑い話に変換できるのが旅のよいところでもある。

ただ、「食べるのめんどくさい」彼女がそうであるように、ここで言われる「めんどくさい」はもっと原初的な感覚に起来するもののように思われる。つまり、彼女は未知のお店に入るのがめんどくさいとか、ましてや「食べる」動作がめんどくさいとか言っているのではない。

何を食べようかと考えることからしてすでにめんどくさい

のである。

なるほど、そういうことか! 主婦の方なら膝を叩くかもしれない。あるいは、「晩ごはん何にする?」と訊かれ、うっかり「なんでもいい」と返したがためにパートナーの逆鱗に触れた経験をもつ人なら分かるだろう。ごはんを作るよりも、献立を考える方がずっとめんどくさいというアレである。

もしも「寿司屋」と「カレー屋」しか存在しない世界に生きていたなら、おそらく外食に関して「めんどくさい」が入り込む余地はない。

寿司かカレーか、もしくはどっちもイヤだから食べない

の三択で済む。しかし、この世界にはさまざまな食べ物が存在し、無数の飲食店が存在する。本来、情報が多いのはよいことだ。だが、その反面、情報はあり過ぎると、まず選択するだけでかなりのエネルギーが費やされるのだ。それでもまだ、食べることに執着のある人ならいい。その「めんどくさい」がむしろ快楽になることだってあるかもしれない。だが、そこまで執着のない人にとってはそれはたんなる無益な悩み、苦痛、つまり「あ〜、めんどくさい」ということになる。

そういえば、アップルコンピューターの創業者スティーブ・ジョブスの服装がつねに黒いセーターにジーンズというワンパターンであったことはよく知られているが、彼にかぎらず多くの成功者たちは大なり小なりそのような傾向があるという記事を読んだことがある。

それによると、人間の判断力はたとえどんなに小さなことでも決断を繰り返すことによって疲弊してゆくのだという。したがって、より大きな、重要な決断をつねに強いられる人びとほど、無意識のうちに小さな決断--何を着よう?何を食べよう?といったーーを回避する方法を身につけることで「決断疲れ」を退け、つねに最高の判断力を発揮できる状態をキープしているのだそうだ。

たしかに、「食べるのめんどくさい」彼女はよく頭の切れる仕事のできる女性だったので、いまにして思えばそういうことだったのかもしれない。ちなみに、その彼女からランチに誘われてどこで何を食べるか決めるのはいつも僕の役割だったのだが……。(後編に続く)

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