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夫はイリュージョニスト

事件発生

10年ほど前のことになるでしょうか。

突然、家の2階から「ゴ、ゴ、ガタガタゴトン!!」と音が聞こえました。

けっこう大きな音だったので、驚いてすぐさま2階へかけあがり、音がした部屋のドアを開けて様子をうかがおうとしました。

ドアがビクとも動きません。

一瞬のうちに頭の中で原因を探ったところ、心当たりがひとつ。

当時、部屋の壁と壁の間に、服をかけるための長い突っ張り棒を設置していました。

服の量が増え、この棒で大丈夫かな…と思っていた矢先のことでした。

なぜこうなる前に気づかなかったんだ…。

突っ張り棒を設置していたのは、この部屋のドアの真上でした。

ドアは内開きでした。

突っ張り棒が、ちょうどこの部屋のドアの強力なつっかい棒となってしまったのです。

焦る

焦りました。
どうしようどうしよう。

ドアがびくともしないので、無理やりこじあけることもできません。

窓から入るにも、ここは2階です。
しかも今日に限って、窓を開けていません。

何か使える工具は…ない。
買ってこようにも…車の鍵も免許証もこのドアの向こう側にある。

追い詰められた。

そんな時、めげない夫が、ドアノブを激しくガタガタいわせ、5cmほどの隙間を開けることに成功しました。

ちょっと開いた!

でも、ちょっと開いたからといって、状況は大して変わりません。

突然幕はあがった

呆然とする私を尻目に、諦めない夫は隙間に手をかけ、ドアを破壊する勢いでこじ開けようとしました。

そしてなぜか、隙間から腕を差し入れました。

私:え?5cmだよ?

肩まで押し込もうとしています。

私:え??ちょ…、ムリだって!!

そう思った瞬間の出来事でした。

ゴ、ゴ、ゴ、ゴゴゴゴゴゴ…

夫は、5cmの隙間に吸い込まれていきました。

私:えーーーーーーーっっっ!!!!!

たった今目の前で目撃したイリュージョンに、私は言葉を失いました。

目の前には、ほんの数秒前にはいたはずの夫の姿はなく、相変わらず閉まったままのドアがあるだけ。

ドアの向こうから、夫の「やったーーー!!!」の声。

ドアが開きました。

夫:はい、開いたよ。

私:どういうこと!?

夫:空間と目が合ったから。

私:そういうもん!?

夫:うん。

私:ま、まあ…そういうとこあるよね。


私が目撃した、ウソのようなホントの話です。

人は、5cmの隙間さえあれば、脱出できます。

もし監禁などされることがあったら、この話を思い出し、希望を持っていただけたらと思います。

みなさんは、突っ張り棒の設置場所にはくれぐれもお気をつけて。

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