クリエイター育成支援事業、終わりました

一年間お世話になった、文化庁のメディア芸術クリエーター育成支援事業が無事に終了した。

私が制作したのは「デジタルシャーマン・プロジェクト」という作品。Pepperの身体を利用して、亡くなる前の方の顔や身体のしぐさ、生活音、メッセージといった身体の痕跡をロボットに宿らせ、死後49日一緒にいることができるというもの。

メディア芸術クリエイター育成支援事業は、これまで文化庁メディア芸術祭において、受賞作品もしくは審査委員会推薦作品に選ばれた若手クリエイターを対象に新しい作品の企画を募って、制作費の支援をはじめ専門家 からのアドバイスや技術提供・成果発表の機会の提供など、様々な形で選出された企画の具体化を支援する文化庁の事業。

そもそも応募のハードルが高めだが、昔から面白そうだなと思っていて、第18回のメディア芸術祭で審査委員会推薦作品に滑り込んだのをきっかけに存在を意識しはじめた。過去の採択者は真鍋大度さんやスプツニ子さん、ぬQさんなど豪華な顔ぶれが並んでいて、まさか自分が採択されるとは思っていなかったが。。

応募したきっかけ

数年前からやりたかった、あたためてきたテーマ(宗教とテクノロジーの接続)をやりたくて応募した。腰をすえて新作を作りたかったのと、美術教育を受けてみたかったので、大学院に行くことも検討していたが、

わざわざ学生に戻るより、同世代の最前線を走る同期と切磋琢磨し合えたほうがいいのでは!?と思ってクリエイター育成支援事業に応募した。

企画にはまったく着手していない状態だった。GWに友達と「こんなのやりたいね」と話していたプランを、締め切り当日にダメ元で企画書にまとめて(スケジュールが個展の時期とかぶっていて、なかなか着手できなかった)、それが全てだった。

支援を受けてみて

これまで会社員をやりながら、思いつくままor依頼をいただくままに短期的な制作プロジェクトを無計画にやっている状況が数年続いていたので

半年の計画を立て、締め切りに向けてある程度集中して制作しなければならないこの事業に腰をすえて取り組めたのは本当によかった。

思考の深度も深くなったし、予算が使えることで作品制作のアプローチもいろんなやり方が試せて、引き出しが増えた。これまである種「サラリーマンの余暇の遊び」的なノリで制作をやっていたが、事業をきっかけに「逃げ」や「甘え」がなくなり作家としての覚悟も決まった。もしやっていなかったら、と思うとゾッとする。

じっくりと新しいテーマについてリサーチをすることができたおかげで、これまでになかったタイプの仕事依頼も入るようになった(アドバイザーのお二人も仰っていたように私はこれまで『お笑い、ギャグっぽい、ネタっぽい』アウトプットが多かったのだが、今回の作品をきっかけに哲学や生命倫理に関わるような考察型のアウトプットを外部から期待されることが増えた)

自分がこれまで苦手だと思っていた作業領域(塑像造形や塗装、3Dキャプチャ、デジタルファブリケーションなど)もトライできて、意外とこういうの好きかも、と気付けた。予算があるので色々やれて、制作手段の食わず嫌いが減った。

スケジュールについて

実質半年でプロジェクトをある程度完成させる&予算を消化する必要があったので、ちょっと短いな、と思った。会社員の仕事との両立に苦労した。

私の場合は、作品のテーマ的にも技術的にも、これまでの延長ではなくゼロからスタートするプロジェクトだったので、まずはいろんな分野についてリサーチする必要があり、その手探りの期間はなかなか外部に形として見せられるものがなく、もどかしかった。自分のペース配分がOKなのか遅れてるのかわからなかった。

私は性格的にプレッシャーを感じやすいタイプだったのと、一人での採択だったので、初めのほうと、年明け~成果発表会前は不安でしょうがなかった(完成させられるのか不安で、朝起きる前にうなされていたりした気がする)

ただ、年明け〜成果発表会の間の期間は、自分でも驚くほどの推進力とエネルギーが湧いて(まだ未決定事項も多いけど、とにかく進めるしかない!!!!と尻に火がついた)

一気に追い込みして制作進行できたので、成果発表会というかたちで締め切り効果をいただけるのはありがたかった。

アドバイザーとの面談

私のアドバイザーを担当してくださったのは、ICC主任学芸員の畠中実さんとクリエイティブ・ディレクターの伊藤ガビンさんという豪華な顔ぶれ。ふわっとした企画を、ふわっとしている状態からうまい具合に具体化するための的確なコメントをいただけるアドバイザーのお二人で、ありがたかった。

私はちょいちょい制作の方向性がブレることがあったが、面談のおかげで最初のやりたかったことに立ち戻り、軌道修正することができた(『目指していたのはサービスと違うものだったのではないでしょうか』『でき上がったものが結果的に汎用されればいいのです』というコメントなど)。

私はアートの文脈のことがよくわからないので、畠中さんからアート文脈のアドバイスをいただき、ガビンさんからもう少しユーザー体験/エンタメ寄りのコメントをいただける、という良いコンビだった。

「市原さんの作品は面白いけど、お笑いになりやすい」と初回面談で言われたのを、今回の克服課題として強く意識して制作した(それまでほぼ無意識に笑いに走っていたし、むしろ絶対に笑わせなきゃいけないんだと思い込んでいた)アドバイザーのお二人との共同制作という感じがしていた。

毎回の面談は面談レポートとして公開されるのだが、それも個人的にとてもよかった。始まりたての企画だと、コンセプトがまとまった文章やリリースも書きづらいので、中間時点での試行錯誤をシェアできる面談レポートはかなり有効だった。誰かに協力を募る際に、面談レポートを送って企画説明をした。まだ制作途中なのに、メディアに取り上げられるという出来事も多かった。

費用について

こんなに費用を使い切れるのか、と初めのほうこそ不安だったが、最終的にはむしろ使いすぎて自己資金に食い込み始めたので、人は慣れるものだなと思った。簡単な精算ルールが最初のうちは理解できず「こんな項目に使っていいのかな?怒られないかな?」とこわごわ使っていた気がする。利用規則自体は非常にシンプルだったので、要点を最初にざっくり教えてもらえるとよかった。(12月ぐらいにやっと理解した)

成果プレゼンテーション

一年の成果発表として計画されている成果プレゼンテーションも、とても楽しかった。はじめて同期クリエーターの作品を観ることができ、こういうことをやっていたのか!!とびっくりした。姫田さんのプレゼンテーションが最高すぎて、緊張がふっとんだ。

もうちょっと関係各所に告知をすればよかったな(知り合いのメディア呼ぶとか)と思ったが、自分含め、うまくいくか/完成しているかわからない新作なので、質を保証できず、それを恐れてあまり大々的に告知をできないふしもあった。当日までブラックボックス・・・。今思えばもったいなかった。

展示ありだったのは大変だったけど、個人的にはよかった。当日撮影した写真が後から役立ったりもしたし(テレビ出演時とか)、追い込みで制作の勢いがついているうちに、展示セット一式をこしらえることができた(後から別の出展で使いまわせた)。お客さんとのコミュニケーションをとれたのも良かった。3331は家族連れとかいろんなタイプのお客さんがいたので。見に来てくれた知人友人や取材メディアとも、時間にゆとりがあるのでゆっくり話せた。プレゼンだけのプログラムだとこうは行かなかったと思う。

今後の作品発表について

元旦に朝日新聞で取り上げられたのをきっかけに、テレビの取材依頼がいろいろ来ているため、まずはメディア対応を水面下で進めている。直近だと、フジテレビの「アーホ!」で過去出演作家の新作として紹介していただきました。

事業を終えて

プレッシャーはかかるけど、自分にプレッシャーを与えてちゃんと新作を作りたい!!という方にはすごくおすすめの事業でした。運営のみなさんもすごく親切。

これまでのメディア芸術祭で何かにお名前が入っている方は、ぜひ応募を検討してみてください!相談とかもお気軽にどうぞ。

(本文は、事業運営のためのアンケート回答を元に再編集しています)

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