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前科あります(19)

「今日はおひとりなんですか」
この前に彼が来たときは、どちらかというと、もう一人の高森という人の方がよく話したので、氏家が一人できたのが少しばかり意外だった。

「うん、高森が一緒の方がよかったかい」
「いいえ、ただ氏家さん私のことあまり」
あまり話さなかったように思えて、好かれていないのかと思っていたのだ。

「まさか、可愛すぎて照れてたんだ。それより、名前を憶えていたくれたんだね」

そういえばそうだ、なぜ一回で名前を覚えたのだろう。
その時は不思議だった、が、つまるところ、そうなる人とはそうゆうもんなのだ。

「おれさ、君とあったことあるんだよね」
生ビールのジョッキを飲み干して、氏家は一瞬ためらった後に口にした。

一瞬で、心が冷えた。え、どういうこと。
「え、またぁ。それが氏家さんの手ですか?」

おどけていったが言葉が震えている、わたしのことを知っている。
それはつまり。

昔これの大会で。
彼はそういうと、人差し指で引き金を引く仕草をした。

「三年前の大会で見かけて、かわいい子だなって思った」
普段なら、『可愛い』に反応したはずだが、この時はできなかった。

「あなたは」
自分でも声が震えているのがわかる、この人は私の過去を知っている、それを私に知らせて、どうするのか。

私を脅す、私に金なんかない、ならばのぞみは、私の身体か。
唇をかんだ、今すぐ席を立ちたい、だけどそれもできない。
今ここを出たら私に行くとこはない。

「警務隊の隊長、三佐です」
警務隊、自衛隊の? 

「心配しなくても、誰にも話さないし、それでどうこうしようというつもりもない」

氏家は私の目をまっすぐ見ていった。まあ口ではなんとでもいえるけど、一瞬そう思ったが、何となく氏家の言葉は信じられた。

「あの時、自動拳銃を撃たせてくれた隊長さん。制服じゃないから、分からなかった」
「それはあなたもです、制服も素敵だったけど、今の服も」

地区センターファイヤーピストル国体予選、それが氏家の言った大会だ。
国体の予選ではあるけれど、大体は警察の特錬生が勝つ、撃つ弾数が違うからだ。

結果のわかっている大会だから、実質は捜査機関の懇親会ということになる。

いい加減、自分のことを話してもいいかもしれない。
私は、ある捜査機関の出先の係長をしていた。たぶんまあ、一応エリートの端くれだった。

それがくそ生意気な後輩を困らしてやりたくて、彼女が管理していた仲間内の懇親会費を転勤間際に、かすめ取って遊びにつかったのだ。

私は当時何を考えていたのか今もわからない、ま、とにかく当たり前というかあっさりばれて、逮捕され、懲戒免職になった。

ばかだよね、その過去を氏家は知っているのだ。
「はい、この話おしまい、飲もう、あ、知っているの俺だけだから」

氏家は、本当にそれっきりこの話をしなかった。
でも、私はその夜、彼をラストまで引き留めると、強引に彼をホテルに誘った。

すっごい美人でもスタイルがいいわけでも、ましてやエッチがうまいわけでもない。

でも拒否はされないだろうとは思っていた、そしてその通りになった。
氏家もうまいという訳じゃないけど、私は三年ぶりのエッチだった。

まあ、よかった、とだけ言っておこう。
そして私は氏家と付き合い始めた、年齢差三〇歳、なんだけど。



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