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前科あります(16)

逮捕されてから、78日目、判決の言い渡しの日がやってきました。
誰もが執行猶予と思っているみたいだけど、本当にどうなるかはやっぱり不安でした。

なんせ判決は裁判官の考え方次第なのです。
なんかの気まぐれで実刑にならないとも、さすがにそうなったら控訴するかもね。

運動で話す仲間の一人が、執行猶予がつかず実刑判決を喰らいました。
本人は絶対大丈夫と思っていたみたいだけど、周囲はよくて五分五分じゃないかと思ってました。

もちろん私もそう思ってました。初犯とはいえ、覚せい剤売りさばいたら無理じゃないかと。

本人は、控訴したそうです。
ここに高裁はないので拘置所は変わることになります。

でも担当さん曰く「これからまた裁判まで拘置所暮らしなら、とっとと刑務所行って、仮釈貰った方が早く出られるよ」

そうだよなあ、高裁でも実刑だったらどうするのさ、最高裁まで?
そもそも執行猶予といったって有罪には違いないんだから、はやい社会復帰を望むなら、とっとと刑務所の方がいいんじゃないの。

ということもあって、自分が実刑食らったらどうしようかな、数日考えていました。

担当さんが呼びに来て、またおっぱいとパンティ見られて手錠されて、腰縄打たれて、護送車に。

今日は誰も見に来ていませんでした。
被害も弁済してあるし、もう誰も興味がないのかも、まあ、そんなもんだよね。

裁判官が入廷して、一同、礼。
証言台に立つよう促されました。

「判決を言い渡します。被告を懲役一年五月に処す。ただし刑の執行を三年間猶予する。裁判費用は被告の負担とする。わかりましたか」

やった、執行猶予だ、私はもちろん「はい」と答えたけど、裁判費用ってなんだ。
「それではこれで閉廷します」

一同起立、礼。
検察官が、私を連れてきた刑務官を呼んで、一枚の紙を渡した。

たぶん釈放命令書。
弁護士さんがそばに来て、肩をトントンとたたいた。
「釈放されたら事務所に来て、費用の話、説明するから、あ、心配ないと思うよ」

そういうと、さっさと法廷から出て行った。
「拘置所まで送っていくから、護送車に乗って」

もう手錠も腰縄もなしです。
拘置所の正面玄関、最初に連れられてきたときに入ったドアから中へ。

と思ったら、事務室の前で待つように言われました。
もうそこから先には進めません、扉の向こうには立ち入ることができないのです。

担当者はすぐ私の荷物をもって戻ってきました。
私を送り出してすぐ用意していたのじゃないか、というぐらいの速さです。

物品を書類で確認して、受け取ったらおしまい。

弁護士事務所の場所を教えてもらって、それじゃと拘置所を後にしました。
あ、出廷したままだから、ノーブラだ。中にいる時は気にならなかったけど、弁護士事務所へ行くのには、ま、いいか。

弁護士事務所は、拘置所から歩いて五分ぐらいのところにありました。
受付で来訪を告げると、相談室に案内してくれました。

弁護士が来るまで、五分ぐらい。出してもらったお茶を飲みながら、ちょっともの想い。

「裁判費用って何ですか」
「あ、僕の弁護費用、でも心配しないで。お金ないでしょ、懲戒免職になったんだし。その旨裁判所に申告したら免除になるはずだから、帰りにまず申告していくこと」

なるほどそういうことか、と納得していたら、弁護士さんびっくりすることを言った。

「クラブのママさんに話しておいたから、今日から店に来てくれって」
目が点になりました。そんなことまでやっておいてくれたんだ。

思わず立ち上がってお礼を言いました。
「ほら、いとこさんのところまで行くより、ここで仕事した方が気が楽でしょ。それに向こうに行ったら、破産の手続きするのにまた弁護士探さなければならなくなるし」

「それって、先生が受けてくださるってことですか」
「あなたさえよければ」
「お願いします」

ということで、次回から破産の話と結婚までの話が始まります。



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