ちゃんと欲しがる女ほど

ちゃんと欲しがる女ほど、欲しがられる女になる。

尾形真理子『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う』

コピーライターである作者が、自身による新宿ルミネの広告を元に作った物語が5つ。タイトルと末尾に広告コピーが使われている。

「悪い女ほど、清楚な服がよく似合う」の主人公クミは、21の時から11年間、妻子ある男永瀬とつきあっている。9年前「娘がハタチになるまで待ってほしい」と言われ、若さを保つことに心を砕いて待ってきたが、ある晩、奥さんは2年前から離婚に合意しているが「娘が結婚するまで」という条件をつけた、と聞かされた。クミ曰く「延長戦」である。

「永瀬が出て行った部屋で、クミの中に怒りがふつふつと沸いてきた。自分勝手だと永瀬に怒り、狡猾だと奥さんに怒り、甘ったれるなと娘に怒った。そして誰より、自分のふがいなさに怒った。わたしの主導権なんて、どこにもないじゃないか。」

(同上)

クミはその夜白いパンツにワインをこぼしてしまい、翌日服を買いに行った。店員の何気ない言葉で、自分が「白いパンツが似合うわたし」に、要は若さに固執して無理をしていたことに気づき、素直に年を重ねていきたい、と思う。そして、「お正月やお盆や大型休暇を一緒に過ごす」のが延長戦の条件だと告げることを決意するのである。

「「わたしにも、「耐える」と「身をひく」以外の選択肢があってもいい」。

(同上)

相手を疲れさせるようなわがままを言うのではなく、やみくもにガマンするのでもなく、「ちゃんと」欲しがるのは難しい。だからこそ、「ちゃんと欲しがる女ほど・・」ということになるのだろう。それにしてもかっこいい表現だ。 (2016.11)

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