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ゴリラと私 ~グリップ君誕生秘話~

■不審なメルアポ

きっかけは1年と少し前、サイトを通じて送られてきた1通のメッセージだった。
朝7時半にメールの通知音が鳴り、確認すると「クソ物件オブザイヤ―」というイベントの運営を名乗る人物からのメッセージが届いていた。

私は趣味で某イラスト等を売買できるサイトに登録しており、リクエストを受け無料でアイコン等を作り遊んでいたが、近々引越しを控えていた為、受付終了していた。
…つもりだった。

それがなぜか有料で開放されていて、申し込みがきた。

メッセージの内容は
・不動産業界の人たちがTwitterで1年を振り返るイベントを行っており今年で4年目。
・団体マークとキャラクターを溶け込ませたTwitterアイコンを作りたい。
・スーツを着たゴリラを、私らしい絵柄でかわいく描いてほしい。

私らしいゴリラとは一体何なのか。

どうやら不動産屋のきつい営業マンを、業界でゴリラという慣習があるらしく、擬人化ならぬ動物化したいという事らしい。

メッセージにはリンクが添えられており、不動産営業マンが1Rマンションを恫喝で押し売りしている動画があった。
(興味ある方は、凶暴化する"家を売る男たち" で検索してみて下さい)

なんだこれ。めちゃくちゃ怖い。
私はよく分からないものを見せられて混乱していた。

これを可愛くしようというのか。
試しにゴリラのイメージをネットで画像検索するが可愛いとは逆ベクトルのものばかり出てきた。

普段ゆるめの絵柄で、きままに動物や女の子の絵を描いていた私はゴリラを描いたことも、「仕事」として有料で絵を描いたことも皆無だった。

なぜイベントの公式アイコンを実績のない、素人の自分に任せようと思ったのか。
膨大なアカウント数の中どこから探してきたのか。
この人は一体何者なのか。
疑問符が頭の中でぐるぐる回っていた。

Twitterに疎く、不動産業界は何も分からない。
でもなんだか、面白そうだなと思った。

不安や時間と天秤にかけて、未知の世界への好奇心が勝った。
やってみよう。アイコン1枚だけならなんとかなるだろう。と

こうして、全宅ツイ主催「クソ物件オブザイヤ―」のマスコットキャラクターを描く事になった。

■ゴリラの誕生

依頼を受ける旨の返事を出して一番最初に描いた、原型ゴリラ

画像1

だいぶ丸い。

不動産屋さんのイメージ画像として送ってもらったものを参考にスーツは薄いグレーにする事に。

(イメージ画像として送られてきたサイト)

背景色は 「クソ物件」だから若干ダークな雰囲気を出そうと思い、黒く。
ネクタイは背景色とスーツの色に映えるよう、赤と茶色。
それとイベントをどういう層が見るのかも少し考えた。

不動産関係だから男性が多そうな気がしたが、もちろん女性もいるだろう。年齢や男女関係なく受け入れられるような見た目にしたいと思った。
悪そうな顔、でもちょっと憎めない感じに。

運営の人からのツーブロック感も出してほしいという要望でツーブロックの要素も入れた。
何度も修正を加えようやく完成。

画像2

「ウホッ!」

ゴリラ君には「グリップ君」という名前がついたようだ。
Twitterでウホッ!という語尾のキャラ付けがされ、運用が始まっていた。

ゴリラの激詰め

アイコンの納品が終わってほっとしていたら、イベントに使うイラストを追加で数枚発注したいとメッセージがきた。
かなり忙しい時期に差し掛かっていたため迷ったが、いけるんじゃないかなーという軽い気持ちで承諾した。

クソ物件オブザイヤ―のイベント本番が開始しTwitterがかなりの勢いで盛り上がっていた。
私は残業して帰ってきて引越しの準備を進めつつ、納期に追われながらゴリラを少しずつ描いて、といった生活をしていた。

引越しが終わり、ダンボールが積まれた新居で、どうにか追加のイラストも終りが見えてきた。

あと残りは、ラストに使用するトロフィーの絵のみだし、まだ日にち余裕あるなー、引っ越しの片づけに入れそう、と外で日向ぼっこしていると

メッセージが届いた。

「LINEスタンプ作りませんか?!」と

しかも納期がめちゃくちゃ短い。
一番盛り上がるタイミングでスタンプをリリースしたいらしい。

スタンプは最低8個作る必要がある。
今までの5枚の絵に追加で3枚で、合計8枚。

既存のイラストの修正も含めると、さすがに間に合わないのでは。
経験ないことを早急にやれる自信は無い。
部屋に荷物入ったダンボール山積みだし。

さすがに断ろうかと思ったが、受けてくれるなら スタンプの販売権は私が貰っていいとの事。

マジカヨ。
まんまと乗せられてスタンプを作成する事になった。

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画像3

依頼内容のメモ

当時は、画像処理に関して完全にど素人で、透過して納品して欲しいという要望に対してトウカってどうやるんだろう。というレベルだった。

LINEスタンプを作るにあたって、文字入れなど加工のためにPhotoshopCCを取り入れてみたが、使い方が分からない。

ひとつひとつの作業をネットで検索しながらの為、時間がかかる。
思った以上に作業は難航した。

日中メッセージで画像データのやり取りをしていると運営の人が突然、ラグビーしてきますといなくなることがあった。
ラグビー? 何かの例えかと思ったがそのままの意味らしい。

この人がグリップ君なのかな・・・?
作業遅いと「まだできないの?なぁあ!!!」ってしてくるし。

部屋の真ん中に積まれたダンボール達。
開梱する暇も与えられず、ゴリラを描くのに没頭した。

食事と睡眠の時間を犠牲にしてやっと完成。
無事LINE社に承認された。

やったあ!

ゴリラの活躍

その後すぐにLINEスタンプを8個 120円で販売開始した。
1個 120円で販売したとして
LINE社から50%手数料として引かれ
AppleやGoogleから30% 

作者には、スタンプ1個の売り上げにつき、ビッグカツ が1個買えるぐらいのお金が入る。

あまり荷物をもたず引っ越した為、当初部屋には家具・家電がほとんど無く、パソコンと寝るだけのスペースしかなかった。最低限の生活を営める環境が揃っていなかったのだ。

スタンプの売り上げ目標金額を定める際、暖かいご飯が食べたいなあ、と思い炊飯器を買うことを目指すことにした。

画像4

グリップ君のスタンプPR。

画像5

勢いで描いた なぁあ!!!が 結構好評で嬉しかった。

ちなみに、私のスタンプ販売した頃のついーと。

画像6

ちゃんと宣伝しろ。

グリップ君の健全なPR活動の甲斐あってか、炊飯器が買えるくらいの金額が集まった為、通販で購入した。
ご飯たくぞ!!!

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画像7


話によると、クソ物件オブザイヤ―は不動産クラスタ定番のお祭りだったのが、バズった事で一気に一般の人にも広がったらしい。

各メディアに取り上げられ、週間ダイヤモンドで全宅ツイが特集されたり、日刊SPA!にクソ物件オブザイヤーの記事が掲載された。

グリップ君の絵が掲載されているのを、こんなメジャーなとこに載ってる…。と、感動するような、遠い世界の話のような不思議な気分で眺めていた。

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色んな偶然が重なり、グリップ君を描く事になって、よく分からないままゴリラの腕力に振り回され続けた1ヶ月半だった。

大変だったけど、大きなお祭りに関わることができたおかげで、できる事が増えて自分の世界が広がった気がする。
とても楽しかった。

イベントはすごい盛り上がりの中、幕を閉じていった。

有難い事に、この事がきっかけでその後、少しずつ絵の依頼がくるようになった。

■私のこれから

あっという間に1年が過ぎて、またお祭りの季節がやってきた。

今年は公式キャラが2キャラになり、パワーアップして帰ってきたグリップ君(主に体型的な意味で)と、新キャラのストゼロちゃんを描いた。
仕事量は倍に増えたが、慣れなのか去年よりはスムーズにこなせるようになっていた。

グリップ君は初めての仕事という事もあり、とても思い入れのあるキャラクターだ。息子のようでかわいい。
今後も、もっと活躍して欲しいと思う。

私もたくさん絵を描いて、できる事をふやしていきたい。

そしてできれば、グリップ君が押し込みにくるぐらい稼げるようになりたいな。
お金超大好き!


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こんかいは、ごはんたべる時間ちゃんとくれたので、とてもうれしかったです。

タナカはつぶあん派