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エクストラバージンオイルと人生の偶然

初めてトスカーナの「クレタ・セネーゼ」(直訳するとシエナ地方の粘土)を訪れた時、茶からグレーに無限に変化する土色の穏やかな岡の連なり、そんな中、まるで正確に測ったように並ぶオリーブ畑、そして大きなカーブを描きながらレンガ色の農家に続く糸杉、そんな風景に胸が痛むような大きな感動を受け、それ以来私はこの土地に通い詰めています。


何百年もの間、人の物語が作り上げた素晴らしい風景です。

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クレタ・セネーゼに初めて行った時に宿泊した、古い城を改装したホテルの夕食で出されたオリーブオイルの味にビックリしたのが、私のエクストラバージンオリーブオイルとの出会いです。

ホテルの人にどこでこのオリーブオイルを購入できるか聞くと、Trequanda(トレクワンダ)と言われ、早速買いに行きました。大きな街を想像していたのですが、Trequandaは20分もあれば中心部を歩けてしまいそうな小さい街でした。


その時以来、10年以上、新しいオリーブオイルのできる11月になると自宅まで5リットル缶を2つほど送ってもらっていました。


人生の色々な時期を通過しながら、Trequandaのオイルを送ってもらうことも無くなっていた最近、本当に偶然にTrequandaのオリーブオイル生産者の農家の目の前のPetroio(ペトロイオ)と言う村に、来年の初夏まで家を借りることになりました。

毎朝、目を覚まして窓を開けると、オリーブオイル生産者の農家が見えるのです。(写真は、窓を開けると見える生産者の農家と、少し左奥に見えるのはアンソニー・ミンゲラ監督の「イングリッシュ・ペイシェント」の舞台となったMonastero di Sant'Anna in Camprenaーサンタ・アンナ・イン・カンプレナ修道院)


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歳をとる面白さって、こんな偶然を楽しめる事ですね。

この辺は見渡す限りオリーブ畑。借りた家の近所を散歩しながらオリーブの実が大きくなる様子を見てウキウキとし、もう時期かと収穫前に生産者のもとに行ってしまい「あと一週間したらおいで」と笑われてしまったのですが、オリーブの収穫が始まったのを見て、早速新しいオイルを買いに行きました。

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まずは試飲させてくれて、その香りに思わず「Che profumo!」(素晴らしい香り)と声をあげると、3代目の若いバルディ君はちょっと誇りに満ちた笑顔をうかべて、目の前で瓶詰めしてくれました。

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エキストラバージンオイルと呼ぶためには、酸度が0.8%以下でなければならず、酸度はオイルの品質を評価するための基本的なパラメータの一つです。
私の家の目の前のバルディさんのオイルは、なんと平均酸度が0.12という驚きの品質です。

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トスカーナ産らしく、青草の香りが非常に強く、ツンと鼻にくるような辛味、苦味の効いたオイルです。
私の好きなタイプのオイルで、オイルソムリエでもなくうまく味を表現できない私は、いつも「緑の味のするオイル」と言っています。
搾りたてのこのバルディさんのエクストラバージンオイルは、まさに「緑を食べている」ようです。


新しいエクストラバージンオイルを購入すると、まずすることはBruschetta(ブルスケッタ)。
カリカリにトーストしたトスカーナ地方特有の塩気のないパンに、ニンニク1片を擦り込みます。

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今回は、なんとAglione(アリオーネ)が見つかりました! 
Aglioneとは、直訳すると「大きなニンニク」と言う意味で、この地域で収穫できるしつこい匂いの全くない高級ニンニクです。なかなか見つけるのが難しいニンニクです。
(写真の左が大きめの普通のニンニク。右側がAglione)

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最後に、塩を軽く振って、上からエクストラバージンオイルをたっぷりかけます。

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えっ、それだけ?
はい、それだけなんです。


オリーブオイルの香りが、品の良いニンニクの香りとパンの味に混じって口の中に広がります。
素材だけが勝負の、シンプルで最高に美味のAntipasto(前菜)です。


エクストラバージンオイルの生産は、天候や自然現象にとても左右され、良いものを作り続けるためには確固とした意思が必要です。イタリアには、素晴らしい生産者さんが多く、本当に頭が下がります。


私の仕事、Hands on Design やMemories of Italyも、ものを通して人の物語を伝えることを信念にしていますが、食べ物を通して人の物語を伝え続けている素晴らしい生産者がたくさんいるイタリアに住める幸運に感謝してます。


注: オリーブオイルを購入して家に戻り、駆け込むようにキッチンでBruschettaを作ったので、綺麗な写真を撮る余裕もなく、まな板の上で失礼します。

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