白い吐息の先に,宇宙を泳ぐ魚の群れをみた.

珈琲を片手にザッザッと
足を引きずりながらぼくは歩く.

身をブルッと震わせる.
白い息が暗闇を舞い,空に吸われる.

黒と白の軽自動車に挟まれた5×2.5(m)の四角形.

ぽつりと空いたスペースの隅には
ボケーと座り込むのに最適な段差が用意されている.

居場所である.

気分転換にぼくはこの場所をよく使う.

この時間だけは脳の回転数を亀の歩み並に落とし,
何をするわけでもなくただホッと一息つく.

とりわけこの日は,ひどく落ち込んでいたこともあり
珈琲の苦みが心に沁みた.

もうすぐ日が変わるかという頃であった.

今日もオリオン座が輝いている.

ひんやりとした空気が尿意を煽る.
どうやらぼくを速く部屋に帰したいらしい.

重い腰をゆっくりと上げ「仕方ないな」とつぶやき,
オリオン座に名残惜しくもおやすみを告げる.

一段と輝くオリオン座がぼくの傷んだ心に
おやすみの挨拶を返してくれると,

ぼくはひとりぽっちの寝床へとまたザッザッと
足をひきずり歩き出す.

いつもは後ろを振り返らない.
ぼくは前しか向かず,ただ進み続ける人間である.

だけど,この時に限ってなんだかまるで家の鍵を
閉め忘れたか気が気でならない時のような不安感じ,

3歩進んだ足を止め,もう一度オリオン座に目を向けた.

ぼくは目を疑った.

ぎゅっと目を瞑り,ゆっくりと開いた.

見間違いなんかじゃない.

ベテルギウスから少し離れたところを
鰯の群れがキラキラと輝きながら泳いでいたのだ.

その輝きはベテルギウスよりも遙かにまばゆくて,
あまりの美しさにぼくはまばたきすら忘れていた.

彼らは,他の何より輝いていた.

胸が躍り,体温が上昇していくのが分かった.

各界の著名人達が宇宙に恋い焦がれる理由が
少し分かった気がする.

この地球には,まだまだぼくの見たことない
世界が広がっている.

しかし,その上を見上げて欲しい.

ぼくらを,地球を包み込む大空の先には
まだ,誰も見たことのない世界が広がっている.

そう確信した.

希望を抱いた.

そして,夢を抱いた.

どれだけぼくにとって大きな失敗も悩みも
そうであるようにぼくが選択しただけであり,

その多くは,些細な事なのである.
まさしく死ぬこと以外かすり傷である.

地球は広い.もっともっと楽しくてワクワクする
ことがぼくを待っている.

さらにその先の宇宙には予想もできないような
未知の世界がぼくら人間にほほえみかけている.

悩んでいる場合じゃない.

立ち止まっている場合じゃない.

身に起こる事象の全ては糧である.
経験となりぼくの血肉に変わるのだ.

冒険しよう.

歩きだそう.

最も恐ろしいことは,立ち止まる事である.








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