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「英雄の書」 宮部みゆき

読了日:2012/8/2

平凡な小学五年生友理子には、成績優秀・運動神経抜群、周囲からの人望も熱い中学2年生の兄がいた。
ある日、先生からすぐに帰宅するよう言われた友理子は、母から「兄が同級生を切りつけ失踪した」と告げられる。理由がわからない両親は、失踪した兄の帰還を待ちわび、悲嘆にくれている。
兄の行動が信じられない友理子は、兄の部屋でおかしな本に話しかけられる。本は友理子に「兄は英雄に憑かれてしまった。だから事件を起こしてしまった」と教えられる。
友理子は兄を探し、兄を助けるため、不思議な本と謎の僧と共に旅をする。

宮部みゆきのファンタジーもの。

宮部作品はほぼ読んでるし、大好きな作家さんなんですが、あまり入り込めなかった。

ファンタジーもので、ざっくり言うと友理子は不思議な世界に旅立って兄を探すんだけど、その世界設定が抽象的。
良くいうと斬新なんだけど、世界観を理解するのに時間がかかる。
「英雄」の定義も、巷にあふれる「英雄」とはちょっと違う。

同じようなファンタジーものの「ブレイブストーリー」はフツウに楽しめたけど、今回のは世界観が難しかった。
映像化したら小説よりはすんなり楽しめるような気もする。

親から見ても出来る兄で、フツウの家庭の嫌味の無い程度の自慢の息子。
そんな息子が大事件を起こしてしまう。
もし、自分の息子がこんな事件を起こしたら私は親としてどうするだろう。
考えてしまった。

「正しいこと・正義」についてすごく考えさせられた。
「正しいこと・正義」は目立ちすぎると鼻につく。
ネットなどの顔が見えない世界では、極論と言えるほどの正義が振りかざされている。
でも実際の世界で、清廉潔白に生きている人間ってものすごくすくない。みんなどこかしら後ろぐらいものを抱えてる。

正しいことを貫く勇気は必要だろうし、
正しいことは正しくあるべきだし、
正しいことは正しいと認められることが最良だろうけど、
人は清濁あわせ持つからこそ人間なのだ。
キレイな言葉だけ聞かされても、キレイなだけではない多くの人間たちは、ちょっと鬱陶しく思ってしまう。
それもきっと事実。

正しい気持ちも正しくない気持ちも両方があってよくて、
そういういろんな感情や思いのなかで、自分なりの正義を見つける、というのが大切なんだと思う。

毎度、なにかしら考えさせられる宮部作品。
さすがです。
この根底に流れる説教臭が私は大好き。

ワタクシ的名セリフ

「そうした嘘がなかりせば、人間は生きられぬ。人の世は成り立ちませぬ。物語は人間に必要とされる、人間を人間たらしめる必須の嘘なのでございます。しかし、嘘は嘘。嘘は罪にございます」
幸せは、なんと脆いものだろう。喜びは、何と容易く奪いされれるものだろう。
当たり前のように享受しているうちは、わからないけれど。
そして―――邪悪は、何と巧みに人の心の隙に付け入るものなのだろうか。
嫉妬。怒り。罪悪感。取り返しのつかないことへの後悔。悲嘆。哀れみ。すべて、それ単体では害のないものだ。人が誰でも心に抱くものだ。むしろ、それを全く抱くことがない心は、心として死んでいるとさえ言っていい。
が、ひとたびそこに邪悪が棲みつくと、すべてが変貌してしまう。邪悪は嫉妬に、怒りに、罪悪感に後悔に悲嘆に哀れみに、形を与える。それを表出するエネルギーを与える。
エネルギーは常に「敵」を求める。「的」を欲する。
「”輪”のどこかで幼子一人、己の意に染まぬ者を消し去ろうと武器をとるならばそれはいずれ”輪”を滅ぼす戦へとつながる。”輪”のなかに孤立した事象はない」
朝に一人の子供が子供を殺す世界は、夕べに万の軍勢が殺戮に奔る世界と等しい。

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