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「環境の日」に寄せて

今日は「環境の日」「世界環境デー」です。

スウェーデンの提唱による国連総会決議に基づき、1972(昭和47)年6月5日から16日まで、ストックホルムで国際会議(国連人間環境会議)が開催されました。
(別名「ストックホルム会議」とも言います)
参加国は、東ドイツの参加をめぐり反発した旧東側諸国がボイコットしたものの、113か国を数えました。

そのスローガンは「Only One Earth(かけがえのない地球)」
そして、この会議では人間環境宣言「環境国際行動計画」が採択されました。

人間環境宣言では、
「人間環境の保全と向上に関し、世界の人々を励まし、導くため共通の見解と原則」を提唱しています。
具体的には

・自然環境と人工的環境の両立が人間にとって不可欠である
・環境保護と改善が全ての政府の義務である

とという原則を提唱した上で、「共通の信念(共通して取り組むべき施策)」として、

・天然資源の保護
・再生可能な資源を生み出す地球の能力の維持と回復・向上
・野生生物とその生息地の保護
・有害物質の排出等の停止
・海洋保全の徹底
・生活条件の向上
・途上国の環境保護支援
・都市計画上の配慮
・環境教育
・環境技術の研究と開発

などを挙げています。
後の1992年、地球サミットで提唱された「持続可能な開発」のもとになる理念と言えます。

同年、これを実行するため、国際連合に環境問題を専門的に扱う国際連合環境計画 (UNEP) が設立されました。
なお、本部はケニアのナイロビ。
結果として、UNEPは第三世界に本部を置いた最初の国連機関となりました。

1、スウェーデンがイニシアチブをとったワケ

ところで、このような会議の開催をスウェーデンが積極的に提唱した理由は何だったのでしょうか。
(どちらかというと、国際政治でイニシアチブをとるタイプの国ではないのですが)

実は、スウェーデンには当時、大きな悩みがありました。
それは「酸性雨」を筆頭とする環境汚染問題。

酸性雨
酸性雨とは、二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOx)などを起源とする酸性物質が雨・雪・霧などに溶け込み、通常より強い酸性を示す現象です。
酸性雨は、河川や湖沼、土壌を酸性化して生態系に悪影響を与えるほか、コンクリートを溶かしたり、金属に錆を発生させたりして建造物や文化財に被害を与えます。

気象庁より引用)

しかもこの原因物質、必ずしもスウェーデンが排出したものではありません。

西ヨーロッパの復興と発展により、工場や都市から排出された酸化物が偏西風に乗ってスウェーデンに到達。
森林の枯死、湖の酸性化が社会問題となっていました。

これは、酸性化した湖を中和するため、飛行機から石灰(アルカリ性)を散布しているところです。


2、国際会議の開催までこぎつけたワケ

スウェーデンは歴史と伝統ある国ですが、国際的な影響力という点では、世界中の国々を一国で動かすには力不足。
しかし、スウェーデンの提言が国連を動かすまでに至ったのは、ある大国の後押しがありました。
それはアメリカ合衆国。

アメリカでは、1960年代以降、2つの動きがありました。
1つは環境意識の高まり。
工業の発展や都市化による環境問題は、アメリカでも意識され始めていました。
その象徴的な著作が、1962年刊行、レイチェル・カーソン女史の

『沈黙の春(Silent Spring)』

でしょう。
DDTなどの化学物質、農薬の危険性について取り上げたこの著作は、大きな反響を呼びました。
また、アースデイ

が制定されるひとつのきっかけとなった著作でもあります。
環境問題に関心がある方は是非お読みください。

そしてもうひとつ、ベトナム戦争です。
1960年代末から、アメリカでは、ベトナム反戦運動が巻き起こっていました(この頃から北ベトナムが優勢に)。
時の大統領リチャード・ニクソン(第37代)

ベトナム戦争から人々の意識を少しでも逸らすため、そしてベトナム戦争で著しく悪化したアメリカの国際的イメージを回復するため、環境問題に積極的に取り組む姿勢をことさらに強調しました。

その結果、アメリカはスウェーデンの提唱を国連で積極的に支援、国際会議の開催にこぎつけたのです。


3、時は移ろい…

当時はまだ認識されていなかった問題ですが、最近のニュースでは非常によく取り上げられるものがあります。

それは「温暖化」「プラスチックごみ問題」のふたつ。

例えば、

こちらのニュース。
アルプスの氷河が消失の危機
氷河融解に関係するニュースはヒマラヤ、グリーンランドなどでも見られます。

氷河融解は、単に景観だけの問題ではありません。
地球上に存在する「淡水」。それが地球上に存在するすべての水の中でどれくらいの割合なのかを見てみます。

これは国土交通省の資料。
淡水は、地球上の水のおよそ2.5%しかありません。
そして、そのおよそ70%は氷河
河川や湖沼(人間がすぐに使える水)は、地球上の水のたった0.01%。淡水の中でも0.3%に過ぎません。
そして、河川の源流を見ると、そこには氷河が存在するケースも多いのです。

特に、雨季と乾季が存在する地域では、河川流量をある程度一定に保つ際、氷河の融解水が重要な役割を担っていることも少なくありませんし、氷河の後退は河川流量の減少につながります。

つまり、氷河の後退、消滅は、河川水の減少=地球規模の水不足を招く可能性がある、ということですね。

さらに言えば、急激な氷河の融解は、極地域の海に大量の淡水が流れ込むことを意味します。
極地域の海水の塩分濃度低下は「熱塩循環の鈍化」を招く可能性があります。
それは、簡単に言うと、「海水の上下動が止まる」もう少しはっきり言ってしまえば「海が死ぬ」ことになります。
このお話は、地理関係の記事でまたいずれ詳しく書きたいと思います。

もちろん、海面上昇による沿岸部の水没

も深刻な問題です。


また、プラスチックごみに関する問題

は、かなりの頻度で取り上げられています。
マイクロプラスチック問題

海洋生物に対する影響

など、ようやくこの問題が認知され、対応が動き出した

な、という印象です。
ただ、今まで排出されたプラスチックごみは、地球上のあらゆる場所

に半永久的に残ることになります。
今後、出さないようにすることも大切ですが、既に出てしまったものをどうするのか、という点も考えていく必要がありそうですね。


環境の日、持続可能な社会を実現するため、今一度、生活のあり方を見直し、次の世代に少しでも良い環境を残すこと、これが今必要なことではないでしょうか。
環境を守ることは、子どもたちを守ることにもつながります。
一人ひとりの小さな積み重ねが、世界を変えるのです。
それは、どのような方向に行くにしても同じこと。地球の未来は私達の選択に委ねられています。
環境は今、「回復不能点」からどちらに向かうのか、その瀬戸際にあると私は考えています。


タイトルの写真はうたびとさんがアフリカ、ザンジバルのビーチで撮影されたもの(お借りしました。ありがとうございます!)。
このような美しいビーチがいつまでも残ってほしい、という願いを込めてタイトル画にさせていただきました。

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