「北海道胆振東部地震」被災地の3次元モデルデータをVRChatに公開した経緯と意図とは?

2018年9月6日、観測史上初となる震度7を記録した未曾有の大地震が、北海道を襲った。この地震は「平成30年北海道胆振東部地震」と名付けられ、土砂災害や強い揺れで多くの被害を出し、現在も復興作業が続いている。(同年10月14日現在)今回取材させていただいたVRChatの「Iburi-toubu EarthQuake」ワールドは、震源に近く、甚大な被害にあった胆振東部地震のがけ崩れ現場を、フォトグラメトリワールドとして再構成したワールドである。VRChatのワールドは、ユーザー同士の遊び場として作られることの多い中で、被災地のモデルデータ扱った経緯と意図を、共同制作のお二人に伺った。

ワールド名「Iburi-toubu EarthQuake」

~人物紹介~
・でちでち(@takaoyome3)さん(下画像左)
原案・3次元モデルデータ制作
主に北海道十勝地方南部でドローン+xR+観光に関しての模索を行っている。BIM&3次元照度解析が大好物。

・番匠カンナ(@Banjo_Kanna)さん(下画像右)
ワールドデザイン・制作協力
VTuber。「未来の空間」を探すために生まれたアーキテクトイド。
VRアカデミア建築学科長/xRArchi委員長
YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCfS1uAmV0NHD-SGpOmZG7QA

――このワールドを制作された意図を教えてください。

でちでち:
メディアのフィルターが掛かっていない、生の現場を届けるために制作しました。TVやネットニュースなどで得られる情報は、センセーショナルな演出に乗せて伝えられることがほとんどです。土砂崩れで埋もれた家や、被災者のインタビューなどで悲惨な状況を分かりやすく伝えています。勿論メディアの報道の在り方を否定しているわけではないです。ただ既存のメディアの伝え方だと、どうしても取りこぼしてしまう情報があります。土砂で埋もれた家の正面には何があったのか、何メートル離れていれば土砂崩れから免れたのか、までは分かりません。自分の見たいところを見ることが出来る一種の資料として、ありのままの現場を届けたい。TVなどの映像を見るよりも、この空間を見てもらった方がわかりやすいはずだと、そう考えて制作しました。

――でちでちさんは北海道在住で、大規模停電や余震の中かなり早い段階でワールドを公開されていますよね。

でちでち:
3次元モデルデータは、地震がおこってから三日後には手を付けていました。その日にはほぼ完成していたと思います。なるべく早く公開したかったのですが、停電と通信ネットワークが遮断されてしまっていたので、3次元モデルの入手先である国土地理院WEBページアクセス出来ず、何も出来ない状態が続きました。復旧してすぐに制作に取り掛かったという状況ですね。

(画像は、本モデルを作成する際に使用したRecap photo(AutodeskのSfM)の画面。青い三角錐が航空写真の撮影位置となる)

――停電などが無ければ、地震があったその日にでも公開出来そうなスピードですね。2次災害などが懸念される中で、何故すぐさまワールド制作に取り掛かれたのですか?

でちでち:
twitterにも書きましたが、技術を持っている人は、自分の持てる技術を使って情報をどんどん発信していくべきだと思っていたからです。単に自分もそれに従って行動しただけですね。

――訪れた方々の反応はどうでしたか?

でちでち:
被災状況にびっくりされる方が多いです。やはり土砂崩れのスケール感は中々分からないですよね。山肌が見えてしまっている部分は実は全て土砂崩れが起こっているのですが、初めて見た人は元々そういう山なんだと思ってしまうみたいです。当たり前のことですが、TVで放映されていないところを初めて見ることが出来たという反応をいただいて、TVで伝えきれなかった情報を3次元モデルで伝えられたと、このワールドの価値を再確認できました。

――被災地を扱う上で、利用される方の年齢や国籍もバラバラなVRChatに公開することに不安はありませんでしたか?

でちでち:
やはり多くの方に知ってもらう、VR(Virtual Reality)を通して現実を深く知ってもらうという目的がありますので、発表する価値の方が大きいと考え、公開に踏み切りました。このワールドは共同制作したもので、3次元モデルを私が、twitterを見て協力を申し出てくれた番匠カンナさんが、デザインとアップロードを担当しています。当初から公開すれば、荒らしのように遊ばれてしまう可能性は免れないだろうという話は番匠さんとしていました。
番匠カンナ:
そうそう。分かりやすく荒らさないにしても、例えば美少女アバターでこのワールドにいること自体が不謹慎だと一部の方には捉えられる可能性もあるよね。でも、公開する価値の方が大きいというのは二人の共有認識として持ってた。

――VRChatではなく、例えばVR災害シミュレーターのようなプラットフォームに、またはアプリ単体として発表するなど、理想的な別の公開方法は考えていましたか?

番匠カンナ:
ソーシャルVRでこれだけ人が集まっているところはVRChat以外に無いから、多くの人に見てもらうにはここがベストだと思います! 単体のアプリでやるにしても、わざわざそれをダウンロードするという手間があるし、ソーシャルじゃないと一回見て終わってしまうだろうな〜と。
でちでち:
専門的な災害に対するVRソフトウェアはあるに越したことはないですが、それを誰が維持していくのか、更新していくのかの問題があります。それらを考えると、これから先もVRChatで公開し続けるだろうと思います。

――資料の一種として公開されたという事でしたが、実際に公開してみて新たな気付きはありましたか?

でちでち:
ソーシャルVRであるVRChatに公開したおかげで、実際に都市計画や土木関係者の方の目に触れることもあって、 圧倒的に多くの人と繋がれたことが嬉しいです。それぞれで新たな知見があったと興味を持ってもらいました。その時印象的だったのが、道路を専門としている方でしたら道を、治水の専門の方はダムを重点的に見ていました。それぞれの専門領域を自由に自在に一つの資料で見ることが出来る。紙の資料にはない3次元モデルの強味を改めて感じました。
番匠カンナ:
私としてはもっと多くの方にこのワールドを知ってもらって、より専門的な知識や立場がある方にも体験してもらいたいな〜と思います。VRChatのワールドって盛衰が目まぐるしく変わるから、すぐに忘れ去られてしまいがち。このワールドが埋もれてしまわないように、どうやって広めていくかが今後の課題だと思う。

――番匠カンナさんはデザインを担当されたということですが、どのような意図が込められているのでしょうか。

番匠カンナ:
無意識にこうなったという感じ。VRならいくらでも劇的なものとしても見せられる中で、やってみたら素朴かつ学術的な空気感になりました。事前に何の構想もしないで、考えるより前にUnityでオブジェクトを置いてました。
個人的に振り返ると、周りの黒い壁の高さが効いているのかな〜と思います。例えば壁が低くて青空がより見えるパターンだと、青空と被災地のデータが同じように見えてしまう。でもそこにはデータとしての明確な差が存在するので、見る側に無意識のうちに違うものだよって認識してもらわなきゃいけない。この青空はゲームエンジンで設定した空だから、被災地の空とは全く関係がないからね。で、逆にもしこの壁があと2〜3倍高ければ、不必要に荘厳な、追悼の空間になってしまった気がする。今回は追悼の空間にはしたくなかった。若干のお遊び要素としては方位磁針の電柱のようなものをデザインしたけど、それ以外はほぼ何もしてません。何もしていない、をしている感じですね〜。

でちでち:
ワールドとして初めて見た時は腑に落ちた感じで、正に自分の思い通りに仕上げてもらったという印象でした。自分の担当としては、3次元モデルデータをリトポロジー(メッシュポリゴンを再構成する)の時に出来る限り形状を忠実に、尚且つアップロードに適したサイズにデータを調整するように心がけました。実際には、90%以上のデータを間引く必要がありました。数ギガバイトある元データをそのまま使って、読み込みの段階で時間がかかってしまい、誰も入ってこれない状況だと仕方が無いですから。課題もありますが、ワールドとしての利便性と、資料としてのデータの価値の最適なバランスを目指しました。

――写真や文字で情報が無い分、没入感があるのが印象的でした。3次元モデルデータに集中し、自ら気付きを得ていくのは、発見の驚きと同時に怖さもありました。

でちでち:
実はそこは非常に難しい問題で……没入感はVRの良さでもある反面、今回の場合だと人によってはショックで傷ついてしまう可能性もあります。インパクトは強く持ってもらいたいですけど、ここを見てくれる人全員、少なくとも傷ついて帰ってもらいたくはないんです。そのために何が出来るかということを考えている段階です。例えば、棒人間の様な別のアバターに変えることが出来るようにする、復興の記録をスイッチを押すことでポップアップするようにする、など仮想世界であることを強調出来ればショックが和らぐのかなと。しかし仮想世界であることを強調しすぎて、3次元モデルデータがただのジオラマのように見えてしまっても困ります。この問題は明確な対処法や効果が分かっていないので、今後も反応を見ながら対応していかなければいけないと思っています。

――葛藤しながらも3次元モデルデータを扱い、VRに惹かれているのは何故でしょうか。

でちでち:
自分のふるさとである十勝を、VR空間にアップロードしたいという願望があるんです。実は、現実の十勝がVRによって駆逐されてしまうのではないかという恐れがあって、どうすれば良いかと考えた結果、VRを通して十勝の良さを知ってもらうしかないと思いました。十勝の空間とVRの空間は親和性が高いという考えもあって、都会の人が十勝に休暇で訪れるように、十勝の良さである広い空間や自然の雄大さや静けさといったものは、VR空間としても需要があると思っています。だからこそこのまま放っておけば、VRの魅力に十勝の魅力が食われてしまう可能性が非常に高いのではと危惧しているのです。今回は被災地の3次元モデルデータという慎重に扱わなければいけないテーマにはなりましたが、今後は広大な十勝で雪合戦が出来るワールドなども作りたいですね。私にとってVRとは、VRを通して現実をより深く知ってもらうためのものです。決してVRと現実を分けるということはなく、互いに影響させるようにこれからも活動できればと思っています。

――本日はありがとうございました。

~取材スタッフ~
企画・インタビュー・構成
MOKUSHI(@nekotokageee
協力
フレンドのみなさま


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MOKUSHI

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