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【介護日記】お母さんのこと、キライ?


「お母さんのこと、好かんね?」

最近母が私にそう訊ねるようになった。

聞かれるたびに、
「わたし、お母さんのこと世界で一番大好きよ」
と答える。




最近の母

母、70歳。
認知症になって5年。

母はまだまどろみのなかで暮らしている。

彼女の目の前の世界がどう映っているのか、彼女の頭の中の世界がどう繰り広げられているのか、私には理解する由もない。

よく分からない言葉を発し、洋服の着脱も一人ではできなくなっている。

朝はリハパンにずっしり尿がたまり、排便をコントロールすることが出来ず漏らしたりすることもある。

早朝に起き出してはおやつ用のお菓子を貪り食べる毎日で、先日、少ない歯の一本を抜歯した。

ご飯を食べこぼしながら食べる母のそばで、
口元をふきつつ、こぼれる食べかすをひろう私。

日々、知らない母になっていっている。



母のぼんやりした不安

疲れきってあまり喋らない私の代わりに、母は宇宙語でおしゃべりをする。

そんな母にそれとない返事をし、親子でぼんやりとした世界で生きている。

でも、不意に母は人間語を話す。


「お母さんのこと、好かんやろ」


まどろみのなかでも、私の介護うつの状況を察しているのだろうか。
母親とはすごい。

そんな驚きと同時に反省をする。

お母さんごめんね。
お母さんのこと嫌いじゃないの。
お母さんとちゃんと向き合えない自分が嫌いなの。

そうした思いをのみこんで、
「なんばいよっとね。わたし、お母さんのこと世界でいっちばん大好きよ」
と、ぎゅーとハグをする。

そうすると、母は安心したようにぎゅーっとかえす。

言葉が通じなくて、母が何を言いたいのか、
何を求めているのかわからない時がある。

けど、こうしたときは言葉じゃなく
ハグだけで通じ合える。

介護者がイライラしたり、余裕のない態度をとると、介護される本人は理由がわからずとも不安を感じる。

私は今自分自身が鬱とけんめいに戦っているので、不安定な調子の時は母を不安にさせているのだろう。

そのさみしさから、自分のことを嫌いになったのでは、と感じてしまうのだろう。


お母さん、ごめんね。
でもね、私は生まれ変わっても、
またあなたの娘になりたいよ。

そんな気持ちをこめて、
今夜もぎゅーっとハグをする。

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