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稽古場レポート第二弾

 名前や理由は、良くも悪くもいろんなものを棚に入れて整頓するものだと思っています。他に変わりがいるということにもなる。例えば、演出家という肩書きがあるなら、他に演出ができる誰でも良いことになる、とも捉えられる。かっこいいところが好きなら、かっこいい他の人でも良いことになる。
 逆に、その演出という肩書きをつけないと、その人を演出として認めていないようにも思う。かっこいいって、最強だとも言える。

 名前や理由があっても、考え続けること、そして歩み寄るために手を伸ばすことはとても大事だと思います。宗教や立場の違いがあっても、お互い守るべきものがあるということを、お互いが理解すること。人間の数だけ、人間の種類があるし、考え方が異なってもそれは当たり前のこと。自分と違う、自分にはわからないというだけで、切り離したり糾弾するのは違うのではないか。日々ニュースを見て胸を痛めながら、そんなことを考えています。

 世界でも、演劇でも、きっとそれは同じで、今回この作品をつくるにあたって、そういうことをとても意識しました。反省することもかなり多く、今も自分の甘さにいたたまれない気持ちにもなっていますが、なんとか本番まで残り2週間というところまできました。
 テクニカル面(照明や音響、衣装)でも、演出面でも、稽古の環境を作るという点でも、わたしたちはそれぞれ個性を持っていながら、同じ時代、場所に生きているというつながりを意識しました。もし公演を観にきてくださる方がいらっしゃいましたら、そんなテクニカル面、演出にも注目してみてください。

 「枠にとらわれない」「個性を大事に」をモットーに、美術や衣装以外にも、広報や制作にも力を入れました。役者紹介で出演者の顔を公開しなかったり、当日に配布するパンフレット記載のクレジットにこだわったり、劇場内で流す音楽をわたしと音響スタッフで相談してみたり、列挙したらキリがありません。





 今回のキャスト陣は、学年や、普段活動の拠点になっているところもそれぞれ異なっている方たちが集まっています。そのため、長い稽古期間をどのようにつくるかを多くの人と相談しました。それこそ、名前や学年という枠組みで棚に入れて整頓することなく、お互いが手を伸ばしあえる環境をつくりたいという思いは、この長い稽古期間でもずっと根底にあったものでした。

 そしてもちろんわたし自身も、手を伸ばしていたいと思っています。立場的に、わたしは本来、人の前に立つべきなのかもしれませんが、そうではなくて、後ろから支えるサポーターでありたいと。
 カンパニーの中には、チーフやデザイナーといった、いわゆる「リーダー」のような「役職」をもっている方もいますが、別にそのひとがえらいというわけではなくて、ただそのひとが「指示をだす仕事」を持っているだけである、と思っています。だからわたし自身も、できるだけ多くの人と関わる公演にしたい。全員と等しい関係であること、また、全員が横並びで歩むことで、枠組みにとらわれない環境で、自由な作品ができるのではないかな、と。

 今回の企画では、座組み全体の名称を、座組みと呼ばずに、「カンパニー」と呼んでいます。カンパニーの語源は、ラテン語の「com」と「panis」で、意味はそれぞれ「共に」と「パンを食べる」。それに仲間を表す「y」がついて、「company」になっているのです。

 日本語的には「同じ釜の飯を食う」に近いのですが、ここで言うパンは教会のミサで食べるパンのこと、つまり同じ教会に通い、同じ信仰をもち、いざというときには助け合う仲間のことを指します。そういう意味もふまえて、わたしたちは、この作品をつくる仲間のことを「カンパニー」と呼んでいます。

Moment企画公演「わが星」、ぜひわたしたちカンパニーがつくる舞台を観にきてください。カンパニー一同、劇場でお待ちしています。

加藤慧

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