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第二十六話

「あれ、ここ山羊なんていたっけ?」
星陽は生物学部の中庭で動物たちに埋もれながら言った。羊やオオカミなど、見たことがない動物がたくさんいる。
「カシミヤは獣医学部の子だよ。すごく賢くて、生物学部までいろんな物を届けてくれるんだ」
生物学部にいるのは保護動物や学生が飼っている動物なので、ハムスターやチンチラ、兎や猫、シマエナガや鶯等の小動物が多いが、獣医学部は学部自体で飼っている動物が多いので、山羊や羊、オオカミや狐など中型〜大型の動物も多い。研究している教授でもいるのだろうか。特に狐は、国内屈指じゃないかと思うくらいたくさんいる。

 夏休みが明けたら文化祭がある。
 その時に子どもたちや学生勧誘のための動物ふれあいコーナーを作るので、文化祭までは頻繁に診察や予防接種をする。また一緒にいることに慣れてもらうため、色々な動物を獣医学部から生物学部に連れて来る。
 動物たちが懐いてくれているからと、絵雅先生と共に千聖はいつも手伝っていたが、生物学部に来てくれた時に皆が寄って行くのを見て、今回は星陽にも手伝いを頼んでみたのだ。
 ペットがいる学生たちももちろん来ているのだが、やはりそういう学生は自分のペットを主に世話しなければならない。なのでそれ以外の保護動物などは、ほぼ絵雅先生と千聖だけでみることになる。その際、走れない千聖の代わりに絵雅先生がいつも逃亡動物を追いかけてくれるのを申し訳なく思っていたのだ。

「星陽すごいね。この子たち皆初めてなのに、すごく懐いてる」
 星陽がいてくれるからだろう。動物たちの機嫌も良いようだ。
 庭の片隅にテントが張ってあり、担当獣医の佐一先生が診察をしている。ボランティアで来てくれている佐一悠先生は常に寝不足のせいかあまり表情も愛想もないのだが、実はとても優しくて動物たちの扱いが上手い。
 千聖はテントの中からテンテンと身軽に出てきたクロを抱き上げた。逃げずに診察を終えられたからか、どことなくドヤ顔だ。
「さすがクロ。皆のリーダー役だね」
頬擦りをした後改めて顔を見る。やっぱりコクロとそっくりだ。
「病院でクロの兄弟に会ったよ。すっごく似てるから多分そうだと思うんだけど。クロも電車乗って行ければ会えるのになあ」
言いながら、クロが二本足で立って頑張ってICカードをピッとしてる姿が頭に過り、千聖は笑ってしまった。存分に猫吸いをして中庭に離すと、ちゃんと待っているのか震えすぎているからか、足元で動かない二匹の白猫中の一匹を抱き上げた。目の色がちょっと薄いので、こちらはシロだ。
 逃げかけた動物を、絵雅先生と共に捕まえてくれていた星陽を呼んだ。
「星陽、ごめんけどコシロ抱いてくれる?」
連れて行き診察台に乗せるだけで大丈夫な子もいるのだが、シロとコシロは臆病なタチで、ずっと抱いてあげていた方が良いようなのだ。今までは千聖だけだったので一匹ずつだったが、本当は姉妹2人でいる方が落ち着くんだろうなと思っていた。

 「お、美人だなお前」
抱き上げられると、やはりコシロの震えが少しおさまった。
「今日は注射とかじゃないんだぞ。そんなに震えなくていいだろ」
千聖がシロを抱いたまま近くに寄ると、伸び上がって鼻を突き合わせあったりしていて、シロもコシロも少し落ち着いたように見える。
 2人でテント入り口に移動しながら、千聖は言った。
「星陽。これ終わったらちょっと相談したいことがあるんだけど」
「いいけど。何?」
話そうとしたとき、茶トラとサバトラの猫が続けてテントから出て来た。なんとなく嬉しげで、まるで遊んでもらったかのようだ。見上げて鳴いて来たのはいいぞと言うことなのだろうと思い、屋根にハリスホークがとまっているテント内に入った。

「さあ、聞くぞ」
買ってくれたコーヒーをダンと置き、気合い満点に星陽は机の向かいに座った。こうなると逆に話しにくいタイプの話ではあるのだが、目の前の星陽は真顔で真剣そのものだ。
「えっとですね…」
缶コーヒーに目を落とした千聖は、まずはここからと切りだした。
「ちょっと前から、満月と付き合いだしました」
「知ってる。最近、距離近いもん。前はあれで遠慮してたんだなって初めて分かったよ」
「…えっ、そんなに?わあ、ちょっと気をつけなきゃ。それ…」
星陽に応答し、続けて話そうとしたが、ハッと気づき話を元に戻す。
「それで…あの…」
頬に一気に血が上る。
 だが星陽と2人きりなんて滅多にない機会だから、今話さなければいつ相談できるかわからない。覚悟を決めて口を開いた。
「…エッチなこととかも…したいんだけど…どうやって…」
だが声が先細りになり、最後はほぼ消えてしまう。
「え?やり方?ならBKDの…」
と言う星陽が普通の音量なのが恥ずかしくて、千聖は大声で否定した。
「違う違う、やり方じゃないって!」
言ってから、こんなことを大声で叫んでしまったことに真っ赤になり、小声で続けた。
「…誘い方を…」
星陽が目を丸くする。
「あんなにベタベタしてんのに、まだやってないの?」
 そうなのだ。毎日どちらかの家にとまって一緒に寝てるにも関わらず、満月と千聖はまだ未体験のままだった。

本編サイチュウさん、現パロでは獣医師の佐一悠(さいちゆう)先生、小柄

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第二十七話〜弥生✖️星陽(満月✖️千聖)

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