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ヴァサラ幕間記1

ハヅキお姉さんとラショウ君①

 ハヅキは自分の研究室の窓からぼんやりと外を眺めていたが、視線の遠く先に、探していた人物をやっと見つけた。
つい最近、ヴァサラが連れて帰ってきたラショウである。
ハヅキは、最近ラショウが気になって仕方ない。いや、正確には、ラショウの長髪が気になってたまらないのだ。

 だって、いつもマスクしてる上にあの長髪でしょ。戦闘の時、絶対邪魔よ。

気になり出してからは、髪紐を忍ばせ声をかける機会を常に狙っているのだが、近づく隙が全くない。追いかけようにも、本気で逃げる半妖の身体能力にはハヅキごときが追いつけるはずもない。

 そもそもこんなに警戒されるようになったのはハヅキが悪い。それは自分でも十分に分かっている。
ヴァサラに斬られて運ばれて来た時は、事情も色々聞き、優しくしようと思っていた。
現に丁寧に治療もした。
しかし、目の前の半妖という貴重な素材に、つい理性が抑えられなくなってしまったのだ。
 ちょっとだけ
と、体組織を採取し、
 ちょっとだけ
と、こっそり採血し
 ちょっとだけ
と、牙を一本抜こうとした時に、脅威の回復力で目覚めたラショウに気づかれてしまった。

 後はもう、ハヅキにできることは採取したサンプルを死ぬ思いで守ることだけだった。
医療器具は投げつけられ、家具は壊され、整理されていたカルテはそこらじゅうに散乱し。挙げ句の果てには、押さえつけていた医療班員全てを投げ飛ばし、窓ガラスを割って逃亡してしまった。
おかげでハヅキも窓の外をぼんやりと眺めやすくなった訳である。

 それ以降、ラショウはハヅキの研究室どころか兵舎自体にも近づかなくなってしまった。ハヅキには比較的甘いヴァサラにもその時ばかりはこっぴどく叱られて、さすがにハヅキも反省している。その後軍に入隊したらしいので久しぶりの後輩でもあるし、仲直りしておきたい。
というかあの髪が気になりすぎるので、せめて一つに括りたい。ついでに牙も一本もらいたい。

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