Until I get to you

君のそばに行くまでに
プロローグ2

「もう十分世話になったし、向こうにも仕事があるしよ」
と、1と月ばかり一緒に暮らした相手が言うのを聞き、離れたくなくて思わず引き留めた。
「…もう少しいいだろ」
言いながら、引き留める理由がなさすぎて言葉に詰まった。
「お前の中でどういう関係だったんだ、これ」
その理由をもらおうとして聞いたことに、信じられない言葉が返ってきた。
「どうって…居候と家主だろ」
「は?」
カチンと来て胸ぐらを掴んで引き起こした。
「人の初体験奪って散々抱いといてそれかよ」
「じゃあどう言やいいんだよ。別に付き合っちゃねえだろ」
 こいつにとってはそうだったのか。
掴んでいた手を力無く外した。
 1と月だったとしても、一緒に住んで毎日やることはやってるのだ。普通は付き合ってると思う。だがそう思ってるのはこっちだけで、向こうにとっては家と食事を提供してくれるセフレだったらしい。
 何をしているかは知らなかったが、ここには仕事に来てるだけだとは知っていた。ここにいてもできるんだからかなりの自由業だなとも思っていたのだ。じゃあ、元の家を整理してここに住んでもいいじゃないかと思うのに、ここを出て、もう帰ってこないような口ぶりなのは何だ。
 今まで思ってもなかったし、一番聞きたくないことだとは思いながら、聞かざるを得なくて聞いた。
「お前さ、もしかしてあっちに奥さんか恋人いんの?」

 一ヶ月ほど前の早朝、走っていたジャンニは道端に人間を見つけた。
 この時間に死体を見つけたことも何度もあるのでまたそれかなと近づいてみると、どうも酔って眠りこけているらしい。
 生きてるなら大丈夫かなと、普通はここで一回起こして貴重品を盗られていないかチェックしてもらい、そのまま去るところだ。
 だがその時は、しばらく起こしもせずじっとその人間を見続けてしまった。
 この世界には人間もいるが、怪物や妖怪のような人外もいる。人間は普通は人間と引っ付く物なのだろうが、初恋が人外だったジャンニは異形の方が好みだ。だがそういう相手は人間と時間の流れが違いすぎていつも恋は実らなかった。
 そういう理由もあるのだろうか。何がと言えないくらい全て好みだった。容貌はもちろん、白髪と肌色や体全体のバランスとか、髪で隠れた異形の目や黒い爪、少し見える牙や、何ならこんなところで酔っ払って寝てるところも好ましいような気がした。 
 起こして、つい家に連れ帰った。元々こちらにその気があったこともあり、数日内には体の関係を持つようになった
 幸せだと思っていたのだ。帰ると好きな相手がいると思うと頑張れるし、嫌なことがあっても抱かれている間は全部忘れられる。今まで1人でも十分幸せだったのに、これを知ってしまうともう1人には戻れない。

 「別にいねぇよ」
 いると答えられるんだろうなと思っていたのに、意外な言葉が返ってきた。
「半分人間みたいなヤツとツガイになりたい物好きは種族にはいないんだよ。本来性別がないはずなのに、人間のオスの形だしな」
自分にとってはこんなに理想の相手がそんな扱いなのかと思うと心底驚く。
「何だよそれ。お前の種族見る目なさすぎだろ」
今までのやり取りを忘れ、心の声がつい溢れてしまったのを見ると向こうもちょっと笑ったようだった。
「人間相手だとできんだなとは思ったよ。種族間だとどっちが孕むかはヤッてる間に決まるから、俺の体だと最後までは無理だしな。…お前オスだろ。人間のメスとツガイになるんじゃねぇのか」
「…そうとも限んないだろ。それはお前が一番良く知ってんじゃないか」
聞くとはあっとため息をつき、何か考えるようだった。
「…親は人間のメスだったけどな」
呟くと、続けた。
「これから3日、子どもができるやり方でお前を抱く。お前はオスだし俺はハーフだし、できる確率はほぼないだろうが、できたら運命だ。ツガイになることを考えてみる」


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