結局風邪ひかせたなあ。
目の前でスウスウ寝ている千聖の額で熱を確かめると、布団を引き上げた。布団に隙間があるのが気になり、隙間がなくなるように布団をならす。
　温かくさせてたんだけどなあ。結構人多かったから疲れさせたかな。
年末年始の出来事を1つ1つ思い出しながら、満月はずっと反省をしていた。
　もちろん人手が欲しかったからバイトを頼んだのだが、千聖をと思ったのは、神社のことをよく知っているからだけではなく、年末年始一緒にいたいなという気持ちも少しはあったのだ。
　やっぱり無理させちゃいけないな。忙しくても、来年は今まで通り年始だけ頼むことにしよう。
と決心し眠っている姿に目をやった瞬間に
　いや寝てる姿、天使かよ。
今考えていたことは全部どこかへ行ってしまった。
　子どもの頃はもっと髪がふわふわだったので、天使感は更に強かった。自分に絵を描く才能があったら、美術館が作れるくらい千聖の絵を描いていたに違いない。成長するにしたがって大人っぽくはなってきたが、あまり男性的にはならなかった。さすがに女性と見間違えられはしないのだが、相変わらず華奢で可憐なままなので、男性…だよな？と一瞬考えるくらいの容姿ではある。
　好きな相手の寝顔までずっと見れてんのは役得だよなあ。
とぼんやりと思う。
それだけではなく、本人が見えない場所にあるホクロまでわかるくらいには体の隅々まで知っている。布団を剥ぎ服を脱ぐとどんな体なのか超高解像度で想像できるし、頭の中では何度となく脱がせてもいる。しかもあらゆる角度のいろんなことを想像したりもしているので、3D映像で360度再生できるほどだ。とか言っていると、その「いろんなこと」が頭を支配しだした。
　俺は看病しながら何考えてんだ！と自分で自分をビンタしていたせいか、目覚めた千聖が驚いた顔でこちらを見た。
「…え、満月、何やってるの…？」
　何をやっているかなど言えるわけもない。
「あっ！」と素っ頓狂な声をあげると、早口で続けた。
「何か食えるか？アイスか桃缶持ってこようか？…そうだ、汗かいてるよな。体拭く物も持って来た方がいいか」
「ん。桃缶が良い」
千聖がいつものようにニコニコと答えるので、何とか誤魔化せたと思った満月は逃げるように部屋を出た。

　甲斐甲斐しい看病をしてくれるのはありがたいし、目が覚めた時満月がいつもいてくれるのはとても嬉しい。
　だが出ているのは高熱ではなく微熱だ。それに、もともと体温が高い千聖は、疲れた時にはこれくらいの熱は普通に出る。一晩ゆっくり寝たら下がるので、「風邪をひいている」という以外は通常営業と言っても過言ではない。
　風邪ひいたかもって言っちゃったのがいけなかったなあ。
満月の部屋の天井を見ながら千聖は思う。
　年始の営業が終わった後くしゃみをしているのを満月が見咎めて、寒いのかと聞いてくれた。喉に違和感があって風邪をひいたかなと思っていた時だったので、つい口をついて出てしまったのだ。例のエスキモーコートでどちらかと言うと暑かったのも悪かった。
　それを聞いた瞬間に満月が千聖の家に電話をかけだしたので、うわやってしまったと思ったのだが、怒涛の速さで満月の部屋に布団が敷かれ、流されるままに絶対安静になった。
　満月は心配性が過ぎるところがある。けれど千聖の体調に関して幼い頃から付き合わせて来た責任を感じるところもあり、言う通りにすることにしていた。
　今日のようなこともしょっ中ある。
　看病となると部屋に泊まることになるので、満月の部屋には千聖用の衣服一式が買い揃えられていた。泊まる時にそれが満月の衣装ダンスから出されるのは何となく嬉しい。一緒の部屋で寝られるのもすごく嬉しい。
　でもなあ、と千聖は思う。
　満月は、自分が横に寝ていても何も思わないのだろうか。千聖だって男だ。正直なところ、満月の寝込みを襲いたい気持ちに何度もなった。この大好きな気持ちは恋愛感情だと言うことにも中学校の頃には気づいていた。
　できるだけ一緒にいようとしてみたり、高校は敢えて離れてみたり、好きな相手を仄めかせてみたり（と言ってもその相手は満月だが）、千聖なりに色々と努力しているつもりはある。今だってそうだ。微熱なのだから、さして汗などかいていない。でも満月にそうは言わなかったのは、ちょっとだけ思っているからだ。
　素肌を見ると、少しくらいドキドキしてくれるかなと。

　ある意味千聖の思いとは違い、満月は死ぬほどドキドキしながら寝巻きに手を差し入れて千聖の体を拭いたわけなのだが。
　そんなことはつゆ知らない千聖は、
　満月は僕を好きでいてくれてる気がするんだけどなあ。盛大な勘違いなのかな？こんなに好きなのは自分だけなのかな、もしかして。
と、体を拭かれながら、千々に思い乱れるのであった。

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→ スピンオフ2〜満月✖️千聖