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⑥クガイ

年齢:不明
性別:男性
種族:不明
身長:182cm
所属:ヴァサラ軍十二番隊 隊員

能力:“酒の極み”と自称。本当の極みは“亞人の極み”(妖の極みと近い)だが、連発して使い続けてしまうと“異形”の姿になるため極力使わないようにしている。
武器:刀

容姿:毛髪の多い白銀髪で、頭のてっぺんから紫色のグラデーションの様になっている。爪は黒い。面は悪くない。異形の姿から戻らなくなってしまった片目を髪で隠している。

戦闘スタイル:基本は刀と体術。刀は斬るだけでなく飛び道具としても使う。体術が得意で基本は殴る蹴るだが、一番得意なのは強烈な締め技。勝ち方にこだわりはない。夜目も利くタイプ。

 酒の極みの使い手だと自称しているが、常に酔っているため適当に言ってるだけ。基本は省エネモードで、楽して勝てればそれで良し。意外にも子どもが好き。
 元十二番隊隊長だが、短い任期で隊長を辞している。時折、感情が欠落しているような表情をする。
 元の性格は用心深く、敵味方関係なく相手に対してかなり探りを入れるタイプ。
 入隊時期はかなり前。今は隊員として在籍しているが、きちんと任務に行っている姿はそこまで見かけない。女は容赦なく殺すが子どもは殺さない。
(@カヲル‼️さま)


 週明け、ジャンニは派遣業務で戦地に来ていた。結局は内臓の機能不全が問題であるところの体なので、先週二日間、ただ休んでいるという日があったことは幸いだった。充分に休息をとり診察が終わったばかりの今日は、現役時代とほぼ同じ程度には戦えている。

 さあ、これからどうしようかな。

 現在、敵軍の一部をこちらに引っ張って来ている状態だ。
 指示ありの全体催眠をかけた上で幻覚技を重ねがけしているので、相手は不気味な1小隊と向かい合っていると思っていることだろう。
 それに適した能力を持っている者がそれぞれの方法で、同じように敵軍を引っ張っているはずだ。味方より多い敵軍を分散させるのが目的だから、このまま催眠幻覚をかけ続けて足を止め、味方軍が来るのを待っていても事は足りる。

 だがせっかく今日は可能そうなのだ。自分で引きつけた分くらいは叩いておきたい。

 一対多で素手とカサーベルとなると、今のこの開けた土地は不利だ。目の先にあるちょっとした崖に誘い込み、武器が邪魔な状態にしようと思う。
 そろそろ幻覚も切れる時間のようで、集団から外れた数人が攻撃に走り来ている。
 ロザリオを持つとその内の1人に狙いを定め、
「夢の極み『perditus somnium』」
指を鳴らし、耳元で囁いた。
「崖を要塞と見よ」
 そのまま崖の半ばまで登って待機していると、集団の進行方向がこちらに変わった。
思った通り、あの兵士は集団催眠の起点となれる人間だったらしい。

「OK.Fight」
 真っ先に崖に取りついた先頭兵士を見ながら、牧師から兵士にスイッチングするためのセリフを口にした。

 崖肌を蹴り、登ってくる兵士の頭上高く飛んだ。眼下に敵の姿を小さく見ると気持ちが昂まる。兵士としてのジャンニは戦うことが嫌いじゃない。
 最初の1人を着地場所にして蹴り落とし、その反動で跳躍すると旋回しながら2人目に膝蹴りを入れる。落ち行く2人目の肩を軽く足場にし、岩の側面を蹴った。向かい壁面上部の凹凸に手をかけ足元の岩壁を蹴ると、背面宙返りで斜向かいの少し広い足場に降りる。
 1人目と2人目が落ちてゆくのに巻き込まれ、続く数人が崖下に滑り落ちて行った。ちょっと見ていたが起き上がって来そうにないので、次の集団の対応に移る。
 なるべく高い位置を取りながら移動していると、さっきいた広場を越えた向こうの林で、木々が派手に折り倒されているのが見下ろせた。今も徐々に切り開かれて行っているところを見ると、あそこには体術と剣術を使う隊員がいるのだろう。
 あの勢いだと木がなくなるぞ。
 思っていると、ついに林が端まで切り開かれ、兵士集団とそれを追い詰めている隊員が広場に現れる。
 その紫と白の髪色を見て、思わずジャンニはつぶやいた。
「…生きてたのか」

 あの男はどうなったかとよく思い出していた。当時かなり話をしたのにお互い名前も聞いておらず、隊員のはずなのに、この3年くらいの間任務で見かけることもなかった。その酒量と、時折感情が欠落しているような表情を見せるのが暗示的で、何となく思っていた。
 あの後どこかの戦場で亡くなったのかもしれない。
 名前を知らなかったので調べることができず、会わない間にだんだんその確信も高まった。なので出勤した時にも探すことをしなかった。
 そして、向こうこそジャンニのことを、もう死んでいると思っているはずなのだ。

 良く話していた時期というのが、余命宣告を受けた後から恋人と別れるまでの間だった。夜に1人で家にいても碌なことを考えないので良く飲みに出ていた時だ。夜の時間潰しのために飲んでいるだけだったので、目につく飲み屋に手当たり次第入っていたのだが、何の縁か、この男とやたら会う。その内姿を探すようになり、いれば一緒に飲むようになった。
 大体泥酔しているにも関わらず、人の話を良く聞いてくれる男だなという印象がある。話を聞くことが仕事であるジャンニにとって新鮮な経験だった。
 その聞き方は重い話でも軽い話でも淡々としたもので、返答には一定の誠実さと常識を感じられた。どんな内容でも話を逸らすことなく変に感情的にもならない所に、何となく、優しい人間なんだろうなと思っていた。

 死に方をいく通りも考えていたその頃は、あの世とこの世が近かった。1人で飲んでいる時は特に、まるでその辺にちょっと散歩に行くような感じで、死のうかなという気になってしまうのだ。
 そんな時に死なずにすむ理由は本当につまらなくて、たとえば次の日に仕事があるからとか、単に死ぬための道具が何もないからとか、明日返さなければならない本があるからとか、そんなことで一日寿命が伸びてゆく。

 飲み屋が休みで次の日何の予定もない夜に、今飲んでいる瓶で置いてあった酒がなくなるからちょうどいいかなと、ふっと思った。この家の中で死んでは迷惑だろうと外へ出ることを考えると、いつも出かけること自体が面倒で実行に移せてはいなかったのだが、その日は何故か外に出るのも億劫ではなかった。
 どこか良い所を。死んだのではなく消えたのだと思ってもらえるような良い場所を。
そんな気持ちでぶらりと家を出た。
 だがいざそうなると、なかなか良い場所というのはない。家の近くはダメだろう、軍の近くもダメだろう。とにかく遺体が見つからない場所でなくてはならない。
 そして意外と遠い散歩になってしまった時、夜闇に良く映える、紫から白のグラデーションの髪を見つけた。

 男は何かの店の一階の、大きな窓の窓枠に座っていた。横の植え込みの花壇が酒瓶を置くのにちょうど良い机ぐらいの高さで、店の向かいは個人宅で屋根が低かった。その屋根の上に、目が痛いほど明るい満月が、それはよく見えるのだ。

 よくぞこんな良い所をと感心するようなそこは、ちょっと探せば見つかるような簡単な場所ではなかった。
 飲み屋が休みの日はいつもこうして1人飲んでいるのかと思うと、この男は飲まずにはやってられないんだと心底わかる気がして、
「隣いいかな?」
と、飲み屋で会った時のように声をかけてしまった。
 男はこちらに目をやると、さして驚いたようでもなく少し花壇側に寄ったので、ジャンニはその隙間に腰掛けた。
 飲み屋より近い距離で、分けてもらった酒を飲みながら月を見ていると妙にまっさらな気持ちになり、なんの含みもなく言ってしまった。
「死んでも人に見つからない場所、ここら辺にあるかな」
特にこちらは見ずに、男は答えた。
「さあ…知らねえなぁ」
「じゃあしょうがないか。やっぱり1年は生きるしかないかもな」
 生死の話とは思えないほど日常的な言い方で、男は言った。
「生きれるんなら、生きとけばいいんじゃねえの?」
 できるならやっておけばいいんじゃないかというくらいの軽い言い方は逆に、この男が、いつも目の前に生と向かい合っていることを感じさせた。

 そうなのかもなあと、月を見上げながらジャンニは思った。
 どうせ1年の命なら、わざわざ自分で努力して死ななくても良いのかもな。

 そんなことがあってすぐ後に恋人と別れることになり、直後に人生最悪の体調の時期が来たので、飲みに行くどころではなくなってしまったのだ。


 2つ目の集団を崖上から追い落とし、足場にしながら下に降りてゆく。途中で兵士を足蹴にするついでにカサーベルを奪い、それを壁面に刺した。
 上る道を塞がれた先頭の兵士が急に立ち止まったために、続く兵士達がバランスを崩しながら落ちて行く。
 残った先頭の兵士も蹴り落とすと、カサーベルを足場に一気に崖下まで飛んだ。一回転して男の横に降りると、光のない瞳に珍しく感情が横切る。

「生きてたのか」と男が呟いた時、兵士集団の残党に取り囲まれた。

「切るぞ」
 男は丁寧にもそう報告した。
なら斬撃に催眠幻覚を乗せてみようと、男が動いた瞬間に極み名そのものを唱えた。
「illusio somniorum」

 指を弾くと同時に発生したのは、蛇のような形の怪火だった。
 男の前の敵を一閃した斬撃の軌跡に乗り、大蛇がジャンニの前の敵までも食ってゆく。

 催眠幻覚を乗せる時はジャンニの指示が効くわけではない。どんな幻覚がどう乗るか、それが果たして意味があるのかないのかは、やってみなければわからない。
 そして同調であっても、技の相性と効果が高ければ同調技名は降りてくるはすだ。
だが、なぜだろう。恐怖で足を止めさせ、幻覚の斬撃で命を落とさせていると見える、この十分に効果が高そうな同調に技名が降りてこない。

「千頭蛇灼(せんずだしゃく)…?」
どこからともなく声が聞こえ、ジャンニは納得した。
「…そうか、君の極み技か」 
炎の糸が横一閃、一筋に貫いてゆくのはまるで芸術作品のようで、その炎を目で追いながらジャンニは呟いた。
「美しいな」

 全てが終わった後に、一緒に飲んでいた時も言ったことがある言葉をまた伝えてみた。
「やっぱり君は常識もあるし、優しいと思うんだけどね」
久しぶりに会った旧友は、その時と同じように答えた。
「そんなんじゃあねえよ」
 そして、3年目にして初めて、ジャンニは尋ねた。
「私はジョバンニというんだ。君の名前は?」
「クガイ」

 あの男は死んだんだろうと思う時、心のどこかの小さな棘がいつも傷んだ。
 どう仕上がるという先が見えないまま、それでも「一日生きた」という数珠玉を繋げて行くような、そんな果てしない生を続けていることそのものがクガイの誠実さで、けれどその辛さを一つも拾えないまま永久に会えなくなってしまったのだと思っていた。

 それがまた会えたのだ。こんな奇跡はあるだろうか。
今度こそ絶対に、この友人を見失うつもりはない。
今何を思い生きているのか少しでも知りたくて、ジャンニは聞いてみた。

「あれから3年の間で、君や君の周りで変化はあったかい?」


⑦ イバン

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