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⑯ガリュウ

名前: ガリュウ

年齢:17

性別:男

所属:無所属→ヴァサラ軍八番隊 特別参謀

極み: 水の極み 「明鏡止水」

刀の色: 鉄の色(ときどに蒼く光る)

性格: 誰に対しても優しく丁寧に接する。 それはカムイ軍であっても例外ではない

一人称: おれ
二人称:名前呼び (年上には○○さん)

関係人物:オルキス...師匠 、七福... よく騙される 、ジャンニ... 先輩

 一人で旅をしていたところをエイザンに拾われ ヴァサラ軍に入隊した。ぶっちゃけ辛い過去とかがあるわけではないけど、「困っている人を 助けたい」という強い気持ちがある。

不殺徹底主義ゆえに極力相手を傷つけずに気絶させていく戦法を取る。
普段は剣を使わず、ファンファンから教わった柔掌拳を使って戦う。
(ファンファンやシャオロン曰く 「まだ未熟ネ」)

「強いな」と感じる相手には剣を使う (まだ鞘から抜かない)
剣を抜くときはガチのマジの本気。

(@宗サクジロー様 / デザインしてくださったものはこちら→武器遊撃隊マーク


 雲一つない晴天。

 この辺では一番高い木に登れるところまで登り、目が届く範囲の上空をチェックして森林内の気配を探る。

 敵はまだ近くにはいなさそうだ。

 木から跳び降りた。
硬い葉が表皮を撫でる感覚と共に、ザーッと葉擦れの音が心地良い。
半ばくらいの太い枝に掴まった。逆上がりで枝上に着地する。
地面に小さく見える2人に声をかけた。

「ガリュウ、OKだよ」
座禅のように座るガリュウと、介錯をするように立つ大刀を持つラディカがいる。
2人が見上げ、ガリュウがニッコリと笑って頷いた。

 ガリュウが姿勢を正してゆく。
その動きがピタリと止まり、鎧を照らす木漏れ日が風に揺れる。
コンマ数秒。

 樹上のジャンニに、空気の壁のようなものがぶつかった。
引っ張り落とされそうで枝を持つと、壁は体を一瞬包み超えていく。

 空気が数g重く感じるほどの濃く大きな波動。
波動や極みを扱わないものなら、具合が悪くなるかもしれない。

 フィールド全体を覆う波動に幻覚を載せた瞬間、同調名が降りてきた。
「杣立冥加覆之幻(そまたつみょうがおおいのまぼろし)〜Cortina illusionis tegit montem(コルティナ・イルジオニス・テジット・モンテム)」

 この波動に同調をすれば名称が降りて来るのは知っていた。
元々の使い道は、フィールド全体を波動で包みこみ戦況を把握し、ジョンとラディカに伝えるものらしい。
 幻覚を見せる極み技だと、範囲が広がれば広がるほど効果は薄くなる。
だがこの波動量なら、現実とほぼ変わらない悪夢か迷路を全体に見せられているだろう。あとは、それを振り切れる実力か能力を持つものを各個撃破していくだけだ。

 ジョンとガリュウとラディカは、1人ずついてくれるだけでもかなり楽ができたり大人数を相手にできるのだが、今日はラッキーなことに3人ともいる。
 なのでこちらの手勢は、この3人とジャンニ自身、数人の隊員だけだ。それで一小隊プラスアルファぐらいなら撃退可能だ。

 目覚めてからの初戦になる。体を動かしたい気持ちと高揚感が抑えきれない。気持ち良さに溺れてやりすぎないように気をつけなければならない。

 今日は背後まで見えるように感じられる絶好調だ。
「OK.Fight」
久しぶりに呟くと、足元の枝を思い切り蹴る。
 青空に体を投げ出した。


 ガリュウは八番隊の後輩に当たる。
 こんなに頼りにしているのだが、入隊したのはエイザン和尚が戦死する直前なので、会ってからまだ日は浅い。
 外国人であるジャンニ自身はヴァサラ軍とヴァサラ総督という名前しか知らず、八番隊に配属されてからエイザン和尚を知った。
 だがヴァサラ軍には、エイザン和尚に拾われ隊員になった者が多くいる。冒険者をしていた所を誘われたガリュウもその口だ。

 エイザン和尚がガリュウをカウンセリング室で紹介した時、これは若いなと思った。
 色白な肌によく映える黒髪とまつ毛が長い面差しはとても冒険者をしていたとは思えなかったし、中学生くらいに見えたのだ。
 後輩ではあるが自分の子どもにいてもおかしくない年齢の少年を目の前にし、この子を守らなければという責任感が自分を励ますのを感じた。

 ガリュウは両親が健在で、特段、超えなければならないもの、例えば辛い過去などがあるわけではない。優しくて好奇心旺盛な普通の少年だ。それを和尚が軍隊に拾って来たということを考えた。
 軍隊は戦うことに特化している集団だ。色々な職種があるであろう冒険者とは違う。それでもヴァサラ軍にいた方が良いと思った理由が、エイザン和尚にはあったはずだ。

 残念ながら、その後すぐに和尚は亡くなってしまった。だからジャンニは今も考え続けている。ただ1つだけわかるのは、それは絶対に、人殺しをさせるためではなかっただろうということだけだ。
 やがて極み持ちであることが判明し、この子も戦闘に繰り出されざるを得ないだろうと思った時、自分の中の優先順位を改めてはっきりと決めた。

 まずは人を生かすこと。やむを得ない場合に躊躇わず殺すこと。殺す時は自分が手を下すことを。


  敵を発見した。姿を確認し樹上を移動する。
枝の間を抜けるように飛び降り、蔦植物が絡まる中低木の脇に着地した。
拳を叩きつける。手応えはない。拳を戻しファイティングポーズを崩す。
声をかけた。
「あなただと思った」
一般兵士では避けられないであろう拳を避けたのは50絡みの兵士だ。

 この森林は国の緩衝地帯で、明確には国境がない。
ヴァサラ総督という圧倒的なカリスマが率いているとはいえ、政治体制も未熟な新興国を狙う国は多い。緩衝地帯は国の周囲にいくつかあり、そこでは攻めて来る国とちょくちょく小競り合いが起こっていた。
 ジャンニはこの森に何年にも渡り度々派遣されているが、中でも定期的に攻めてくる敵国軍に、この兵士はいつもいるのだ。
「今日の幻はすごいな。ここ辺じゃ俺ぐらいしか移動してないよ」
そして、いつも幻覚を越えてやって来る。
「あんたの幻はもう何十回も受けてるからね。よく見る夢と同じで、始まった途端、これは幻覚だってわかるようになったよ」
兵士は憎めない笑顔でニッと笑った。

 この男がそう言うなら、「umbra noctis/ウンブラ・ノクティス(闇夜の影)」という、相手の1番恐れているものをしばらく見せる極み技が波動で増幅しているという予測は正しいようだ。同調名が出て来るのは効果が高いかららしい。
「さあ、やろうぜ」
兵士はでサバイバルナイフを出し、手元でクルリと回す。
長刀を使わないところやジャンニのストレートを避けられるところから、ゲリラ戦に慣れた強靭な兵士なのだろうとは思う。
 だが未だかつて負けたことはない。
「あなたは私に勝てない。わかってるでしょう」
そしてこのやり取りも、お決まりのようなものだ。
「OK.Fight」
もう聞き慣れたであろうジャンニの自己暗示文句を兵士の方が言う。
腰を低くして構えたのに合わせ、苦笑いでファイティングポーズをとった。

 地面を蹴った兵士が突進してくる。
低木の葉で隠れた瞬間、左手に持ち替えたナイフを死角から突き出した。
ナイフの感覚を避けながら、ジャンニは左足を軸に半回転した。重心を後ろにずらす。
目の前の左腕を、蹴りあげた右ヒザと右ひじ鉄で挟み力をかけた。
骨が簡単に折れ、男の呻き声に重なってナイフが落ちる。
その後頭部に左拳を叩き込もうとしたら身を沈めて避けられた。
男は低い姿勢のままジャンニと距離をとる。

「あんた、自分で自分の幻覚に入ったことないだろ」
男がおもむろに話し出した。
左腕をダラリと下げ、痛みに脂汗をかいている。

ラミア戦(【劇場版ヴァサラ戦記】ヴァサラ戦記FILM:RIVERS 並行世界と旧隊長【劇場版第三弾】はなまる様)でマクベス(マクベス:カヲル様のキャラ)と戦った後、あまりにあっさりと負けたことが悔しくて、1小隊、1中隊と1人で戦うというバーチャル戦を何回もした。だがあの時の幻覚はハズキに協力してもらったし舞台装置もあった。極み技の幻覚に入ったとは言えない。


「俺が見る幻覚はいつも同じだよ。平和になった世界のベッドの上で目覚めて、自分の存在価値のなさに絶望する」
微かに視線を逸らし、続けた。
「今日はその続きまで見せられた。俺はベッド脇の拳銃で頭をぶち抜くところだったよ」
右足のブーツに仕込んであるナイフを抜き出しながら言った。
「戦争の中で生まれて育って仕事して来たんだ。平和になったってなにしろって言うんだよ。生き残ったって俺は自殺する」

 向かって来る前に一歩踏み込み、みぞおちに蹴りを入れた。
男は低木の枝を折りながら飛んでいき、太い木にぶつかると根元に落ちた。
動かなくなったので側まで行くと、ゆらりと見上げた男が言う。
「殺さないってのは残酷だな」
それから、つぶやいた。

「なあ、あの幻覚の拳銃で死ねるのかい?」

答える代わりに極み名を口にした。
「『夢の極み』requiesce pace/レクイエッセ・パーチェ(午睡の安逸)」

辺りにはもう敵はいない。
カクンと眠り出した男の頭上に、ダーツ矢を刺す。

メッセージは「ALL GREEN」
全てOK。

「もちろん死ねるよ」
ジャンニは眠っている男に言った。
幻覚と気づかずに拳銃自殺をすれば、死ぬことができる。



 結局ガリュウは17歳で思ったほど若くはなかったのだが、最初に年少に思えた大きな理由はその語彙だった。それは話し方にも反映し、年齢の割には口調が幼かったのだ。17と言えば新しい人生を何度でも始められる年齢なので、やはり読み書きはできた方が選択肢が増える。スラム街の子どもたちの勉強会に使うテキストなどを持ってきて、ジャンニは今、時間がある時に、ガリュウの読み書き能力の向上を図っている。

 兵士は時代の犠牲者だ。
ガリュウをこうさせるわけにはいかない。

 文字の勉強は功を奏し、ダーツ矢に書いてあることが読めるようになった。そして何と先日、ジャンニが書いた手紙に返事をくれた。


 自分はそんなに優しい人間ではないことは、自分で良く知っている。
けれど、優しいガリュウが優しいままでこの戦場で生き抜けるなら、偽りの姿であっても1つのロールモデルになれればいいと思う。

 時々この手紙を読み返し、一緒に冒険している所を想像する。
ガリュウは立派な青年になり、冒険者衣装で大きな袋を担ぎ、ジャンニを案内してくれるだろう。いい香りが漂う店を嬉しそうに指差し、中に入る。運ばれた料理を食べると、ガリュウは机の向こうで目を輝かせ、期待に満ちた表情で料理の感想を待っている。

 するとジャンニは何となく、自分はやがて体が治り元気になるんじゃないかと思えて来るのだ。

 この仕事が終わったらそろそろ聞いてみてもいいだろう。
「ガリュウ、エイザン和尚に拾われて良かったかい?」
そんなことを、字の練習の合間にゆっくり聞いてみたいと思う。


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⑰ ジョン

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