【無料掛合台本】愛されたいバレンタイン「喫茶幻想にて」(♂1×♀1)
ジャンル:現代、恋愛、シリアス、ちょっと不思議
[登場人物]
佐久間 良平(さくま りょうへい)
現在20歳大学2年 落ち着いた性格。自分から行動することはほとんどない。
自分にはないものをもっている、明るく前向きなそらが好き。
明宮 そら(あけみや そら)
良平の彼女。明るく前向き。
明宮 風花(あけみや ふうか)
2歳下のそらの妹。双子のようにそらにそっくり?
※そらと風花は同じ人が演じてください。
場面:現在。「喫茶幻想」の中。客は良平だけ。席についてコーヒーを注文して待っているところ。
良平は鞄の中の綺麗な包みの箱を見てため息をつく。
良平「……はぁ。何がバレンタインだよ。バレンタインなんか、嫌いだ。」
良平は鞄を隣の席において、店内を見渡す。
良平「ここ、全然変わってないな。あいつと初めて来た時と同じ。こんな店、あいつと一緒じゃなきゃ入ることもなかった。あのとき、俺たちは喫茶店を探していて、そしたらあいつが……」
●暗転
場面:3年前の2月14日。喫茶店入口。そらと良平が話している。
そら「りょうへー、良平、聞いてるの?」
良平「……え? なんだって?」
そら「だから、ここの喫茶店はどう?って」
良平「ここ? ここって……ずいぶん年季が入った店だな。喫茶店なら駅前にチェーンの店がいくつかあっただろ、そっちでも」
そら「いやいや、このレトロ感がいいんじゃん。見てよ、店名。」
良平「きっさ、げんそう?」
そら「そう、喫茶幻想だよ! 店名が漢字って、まさに喫茶店です!って感じしない? 絶対雰囲気もいいよ、入ろうよ!」
良平「え、まじか……。しょうがないな、わかったよ。」
そら「やった!」
そら、喫茶店に入る。
そら「こんにちはー!」
良平「こんにちはって」
そら「いいでしょ、マスターと仲良くなれるかも。」
良平「へいへい。(ここから店内を見渡して独り言)……でも、思ったより店内は綺麗なんだな。照明の形が独特だけど。」
良平が店内を見てる間にそらは店員に誘導され、席に座っていた。
入口に立ち尽くしたままの良平を呼ぶ。
そら「りょうへー! ここの席使っていいって!」
良平「え、ああ。」
良平も席に座る。
そら「やっぱり思った通り、店内も素敵~。ほらほら、置いてある角砂糖が黒糖だよ! それにマスターもいい人そうだし、おしゃれ過ぎないからリラックスできていいわ~。」
良平「……お前、喫茶店マニアか?」
そら「ふふふ、実はね。まー冗談抜きで、いい感じの落ち着ける喫茶店探してたの。」
良平「そうなんだ。」
そら「だって、チェーン店とかの堅い椅子だとゆっくり話できないでしょ?」
良平「え?」
そら「今日は良平と、ゆっくり話がしたいし。」
良平「……おう」
そら「で、ほんとにいいわけ?」
良平「ほんとにって?」
良平はそらの顔を見る。わかってるでしょ、というそらの訴えかける目。
良平「バレンタインの返事のことだろ。 まぁ、俺も、おまえとは気が合うと思ってたし。楽しくやっていけそうだから……」
そら「私と、付き合ってくれるっていうこと?」
良平「まぁ、そういうことになる、かな」
そら「そっか。……じゃあ、これから、よろしくお願いします。」
良平「……はい。」
そら「……」
良平「……」
そら「……ふふ、はははは。変なの。いつも普通に話してるのに、なんか緊張しちゃうね。」
良平「あ、ああ、そうだな。普通でいいんだよな。」
そら「そうそう、普通でいこ、普通で。」
良平「おう。」
そら「ね、ほんとは私、一か月は返事待たないとって覚悟してたんだよ。」
良平「一か月?」
そら「うん。バレンタインのお返しって普通ホワイトデーでしょ。だから返事もホワイトデーまで待たないとーって思ってたの。だから、チョコ渡してすぐに返事してくれて驚いたよ。」
良平「そうか。返事ってホワイトデーにするべきだったのか……?」
そら「いや、私はすぐ返事くれて嬉しかったよ。一か月もじらされたら気になりすぎてイライラそうだし。」
良平「そらならホワイトデーの前に、返事は?とか聞いてきそうだよな。」
そら「そうそう、絶対してた!」
良平「じゃあ、今日返事したのは正解だったわけだな。」
そら「大正解でしょ! そしたら、今日が私たちの記念日になるね。」
良平「……記念日。」
そら「そうだよ。2月14日、バレンタインデー。絶対忘れないよね。ふふふっ」
●暗転。
場面:現在。良平が喫茶店の中で座っている。
良平「今日は2月14日、バレンタインデー。3回目の記念日。そして、お前の命日だ。」
良平はいつもそらが座っていた席をぼんやりと眺める。
良平「なぁそら、お前はなんで俺に何も言わずに逝ってしまったんだ。俺はバレンタインの度にお前のことを思い出す。世間が色めき立って幸せな空気に包まれているのに、俺は一人だけお前のことを思い出して……バレンタインなんか、嫌いだ。」
辺りを見渡す。
良平「……それにしても、やけに静かだな。入ったときにコーヒーを注文してから、店員が出てこないし。」
良平、席を立ってカウンターの方へ向かう。
良平「すいませーん! ……反応なしか。……ん、カウンターの上に何かある。(近づく)これは、タロット? そういえばそらもこれで占ってた。……そうだ、あのとき。」
●暗転。
場面:2年と少し前(12月)喫茶店の中、ソファに座る良平とそら。
そら「りょうへー、テストどうだった?」
良平「まぁまぁかなー、歴史苦手だけど、最近勉強したとこだったから半分くらいはわかった。」
そら「うえーずるい。というか冬休み前に抜き打ちで小テストとかしないで欲しいよねー、こっちはもうお休み気分なのに。」
良平「……だからじゃないか?」
そら「え? ……だからか! はぁ~未来がわかればこんなことにはならないのにな~。」
良平「そんな非科学的な。」
そら「あ! ふふふふ、良平、たまには非科学的なことを信じてみない?」
良平「え、どういうこと? どこ行くんだ?」
そら、立ち上がって店の奥の「ご自由にお読みください」と書かれた本棚に向かう。
そら「この前来た時に見つけて、やってみたいと思ってたんだよね~。えっと、あ、これこれ!」
そらが何か手に持って戻ってくる。
良平「なんだ、それ?」
そら「タロットカードだよ。知らない?」
良平「知ってるけど、なんでそんなものが喫茶店に。というか勝手に使っていいのか?」
そら「大丈夫だよ、この前マスターに聞いたら本棚にあるものは自由に使っていいって言ってたし。」
良平「あ、そうなんだ。て、いつの間に聞いてたんだ。」
そら「実はね、一人でもよく来てるの。これも、その時に見つけたんだけど。」
良平「え、一人で来てたのか?」
そら「うん。ここ、のんびりできるから気に入ってるんだ。」
良平「ふーん、そうなんだ。」
そら「じゃ、占いはじめよっか。」
良平「ほんとにやるのか。」
そら「もちろん! 良平、占ってあげるよ。」
良平「いいけど、できるのか?」
そら「簡単なのならできる! この間ちょっと本読んだから。」
良平「ちょっとか。」
そら「じゃあ、良平の過去、現在、未来を占うよ。」
良平「わかった。」
そら「まずは、こうやってカードを広げてまぜて~。ある程度混ざったらまとめて山札にして、上から三枚めくる。出てきたカードが過去現在未来を表すよ。いくよ、過去、現在、未来!(言いながらカードを一枚ずつめくっている)」
良平「おお! ……ん?ちょっと待て、この左のカード、デスって書いてないか?」
そら「え? ああ、ほんと、死神のカードだね。 私から見て右だから、未来のカードか。」
良平「死神とか絶対悪い意味だろ。最悪だ、俺の未来に何が待っているんだ……」
そら「まぁまぁ、落ち込まないで。見て、死神のカードは私から見て正しい向きに出てるでしょ。これは悪い意味だけじゃないんだよ。」
良平「死神で悪い意味じゃないってどういうことだよ……」
そら「死神は死をもたらすから、何かの終わりを暗示しているけど、終わりがあるということは新しい始まりがあることも同時に表しているんだよ。だから、きっと良平には新しい人生が待っている! はず!」
良平「何かの始まり……。新しい人生か……。ん? それって、単に高校卒業して大学生活が始まるってことじゃ?」
そら「あ、そうかもね!」
良平「なんだ、余計な心配した。」
そら「そういうことなら、私の占い、案外あたるってことかも?」
良平「どうだか、たまたまだろ。」
●暗転。
場面:現在、良平が一人で喫茶店の中。カウンターの前で立ち尽くしている。
カウンターから席に戻り、ソファに座る。
良平「あのとき、俺の未来に死神のカードが出た。その時の俺は、単に高校を卒業して大学に入るからだと思っていた。でも、それから2カ月後の2月14日、そらが死んだ。」
店の奥からカチャカチャと食器の音。
良平「ん? やっと物音が聞こえたな。もうすぐ来る。……ここで飲む、最後のコーヒーだ。」
足音が近づいてくる。
店員(風花)「お待たせしました。ブレンドコーヒーです。こちらミルクです。お好みでお入れください。お砂糖はテーブルにある角砂糖をご利用ください。」
良平「あ、ありがとうございま……え?」
良平、店員を見て固まる。二人の目が合う。
店員(風花)「あ。……え、えっと?」
良平「そら……いや、え? そんなはず、でも、どういうことだ」
店員(風花)「……あ、あのお客様」
良平「あ、す、すみません。……あ、あの、少しお伺いしたいのですが」
店員(風花)「は、はい。」
良平「あ、明宮そらを、ご存知ですか?」
店員(風花)「明宮そら。……はい。……はい、そらは私の姉です。」
良平「え……姉?」
店員(風花)「……はい。私は明宮風花、そらの妹です。あの、あなたは?」
良平「……妹。あ、そうか、妹。そう言われれば、妹がいるとか言ってたような。(ここまでは独り言のように)あ、すみませんいきなり。俺は佐久間良平。高校がそらと一緒で。」
風花「良平、さん……ああ、そらの彼氏さんですよね。よく姉から聞いてました。」
良平「そ、そう。でもビックリしたな、そら本人かと思うくらい似ているから。」
風花「はは、よく言われます、双子のようにそっくりだねって。顔だけじゃなくて、体格も、声も、同じだから。」
良平「同じ……。」
風花「あ、少し待っていてください。」
風花は店の奥に走って行く。
そして1分もしないうちにすぐ戻ってきた。
風花「すみません、お待たせしました。あの、よければ少しお話しませんか? 今日はそらの命日ですし。」
良平「え、でも、仕事中じゃ」
風花「大丈夫です、マスターに聞いて来ましたから。それに、お客さんもいないし。」
良平「それなら、いいんだけど」
風花「前の席、失礼します。」
風花が良平の前の席に座る。
風花「あの、良平、さんは、よくここに来るんですか?」
良平「(目の前に座った風花はそらそのもののようで、思わず見つめてしまう)……え、あ、いや。実は2年ぶりに来たんだ。……もうすぐ大学の近くに引っ越そうと思ってて。そらのいた街から、離れるために。」
風花「そうなんですね。……そらの存在が、良平さんを縛っているのでしょうか。」
良平「縛っている、そうかもしれない。毎年バレンタインになると、そらがチョコを渡してきたときのことを思い出すんだ。そうすると、忘れていた記憶も一緒に蘇ってくる。俺は、もう忘れたいのに。」
風花「そらが死んでしまったから、忘れたいんですか? 死んでしまったから、怒っているのですか?」
良平「……違う。死んだことに対してじゃない。そらが大切なことを何も俺に何も言わなかったからだ。冬休みが終わってそらが入院していることを知って、俺は何回か見舞いに行った。でもその時そらは決まって元気だった。いつも通り笑って、いつも通りふざけてた。だから、俺はそらが死ぬなんて1ミリも思ってなかった。少しも頭をよぎらなかった。それなのに、いきなり……」
風花「……いきなり死んでしまったんですね。」
良平「……そうだ。俺は、もっとそらと一緒にいられると思っていた。こんなことなら、もっとそらのやりたいことをやらせてあげたかった。伝えたいこともあったし、話したいこともあった。だから……」
風花「突然いなくなったそらが許せない、と」
良平「……ああ。ごめんな、妹の風花ちゃんに言ってもどうしようもないのに。」
風花「そんな、私が聞いたことです。それに、そらの、姉のことですから。」
良平「風花ちゃんこそ、なんでここに? バイト?」
風花「あ、まあそんな感じです。そらのことがあって、マスターさんとは顔見知りだったので、人手が足りないときに手伝っていて。今日はたまたま。……なんだか、ここに来ないといけない気がして。」
良平「そうか。最初マスターもびっくりしただろ、風花ちゃん、本当にそらに似てる。というか、そらそのものって感じだし。」
風花「そ、そうですか?」
良平「まぁ、俺が最後に知っている、18歳のそらに似てるってことだけどね。そらが生きていれば今20歳だから、少しは大人っぽくなってるかな。」
風花「そ、そうかもしれませんね。……良平さんは、そらに似ている私と話していて、その、大丈夫ですか? この喫茶店で私と話すことは、良平さんにとっては一番したくないことではないでしょうか。」
良平「そう、だな。確かにあんなことを言ったけど、俺は結局、そらのことが好きなんだ。風花ちゃんと話していても、嫌な気持ちにはならない。でも、だからこそ何も言わずにいなくなってしまったそらが許せないけど。」
風花「良平、さん……。あの、そらは、悪気があって良平さんに何も言わなかったわけではない、んです。そらは、良平さんが明るくて前向きな自分のことが好きだって知っていたから、だから、病気に苦しむ自分を見て欲しくなかった。……そう思います。」
良平「そんなことで嫌いになったりしないのに……」
風花「入院中のそらはかなり卑屈になっていました。自分の意志で立ち上がって好きな場所にいけない。体調が悪い時は喋ることもままならない。自分の体に苛立っていた。いつも眉間にしわを寄せて、ため息ばかりついて……そんな姿、好きな人には見せたくないじゃないですか。」
良平「でも」
風花「……はい、良平さんの気持ちもわかります。そしてそらも、死ぬ間際、後悔していました。なんでもっと良平と一緒にいなかったんだろう。何も言わずに死んでしまう私を、良平は許してくれるかな。……そう、思っていました。」
良平「風花ちゃん?」
風花「あ、私、ずっとそらの隣にいたから。最後の最後まで、話相手になっていたんです。」
良平「……そうか」
風花「案の定、良平さんはそらを許さなかった。まあ、当然のことですよね。……私も、良平さんだったらそうなると思います。でも、そらの気持ちだけはわかって欲しいんです。」
良平「……うん」
風花「それで、あの、良平さんに渡したいものがあるんです。……これ」
風花がエプロンのポケットから綺麗な包みの箱を取り出す。
良平「え、この箱は……チョコ?」
風花「開けてみてください。」
良平、ゆっくり包みをひらく。
良平「……ん、中に入っているのは……これは、手紙?」
風花「はい、手紙です。そらが死ぬ前の日の夜、私に連絡がありました。バレンタインは二人の記念日だから、良平になにか渡したい、手伝ってほしいと。でもそらはもう台所でチョコを作ることはできない。だから、手紙を書こうって。妹の私が手を支えて、どうにか書きました。だから字が汚いのは、許してください。」
良平「……みて、いいか」
風花「はい」
良平、封筒をひらき、手紙を取り出して開く。
良平「……。」
風花「どうにか書けたのが、それだけでした。」
良平「“大好きだよ”か。」
風花「はい。」
良平「そうか。」
風花「良平、さん。これだけは忘れないで。そらはあなたのことが大好きだってこと。」
良平「うん、十分伝わった。ありがとな。」
風花「はい。……あ、すっかりコーヒーが冷めてしまいましたね、入れ直しましょうか。」
良平「いや、いいんだ。(コーヒーを飲み干す)うん、マスターの入れるコーヒーはやっぱり旨いな。あったかいのはまた飲みに来た時の楽しみにしておく。」
風花「良平さん!(また来てくれるんですねという驚き)」
良平「引っ越しはするから、来られるのは先になるかもしれないけど。でも、また絶対来るよ。」
風花「はい。また、来てください。」
良平、席を立ち出口へ向かう。
風花もそのあとを追う。
良平「風花ちゃん、今日は本当にありがとう。」
風花「私こそ、ありがとうございます。手紙、渡せてよかった。」
良平「うん。じゃ、また。」
良平、ドアを開いて出る。
風花「ありがとうございました!(ドアが閉まってから)……ありがとう、良平。」
●暗転
良平モノローグ:あれから半年後、喫茶幻想を訪ねてみたが、風花ちゃんはいなかった。マスターに聞いたら、風花ちゃんはそらが亡くなったあとすぐ街を出ていたらしい。
では俺が会った風花ちゃんは何者だったのか。今となっては真実はわからない。
でも、俺の手元にはそらの書いた手紙がある。
その手紙だけは、嘘偽りのない本物だと、なぜかはっきりとわかる。
そら、遅くなったけど、俺、やっと新しい人生が始められそうだ。
◇2020年4月1日まで限定◇
そら、風花の音声を収録したものを配布しています。
声劇相手が見つからない…そんなときに使ってみてください!
※音声を使う場合はTwitterで@momoka_uenoをつけてツイートをするかDMまでご連絡ください!
https://32.gigafile.nu/0401-cf387e954a2f7bb5ed33cf00c0302557a
あとがき
この台本は、Twitterでの#バレンタイン企画 (https://twitter.com/i/events/1212905738336718849)に合わせて書いたものです。
フリー台本として配信や舞台でご利用いただけます。
お気軽にご利用ください。
※著作権は上野桃香に帰属します。
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