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【無料掛合台本】木漏れ日がさす橋の上で(男1女1)

約4500文字
大人なしっとり系のラブストーリー

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ナツキ 女 28歳
誰と付き合っても長く続かない。
そんなことが続いたある日、滝の見える橋にやってくる。

ショウタ 男 28歳
自然が好きでとある山の観光所で働いている。


場面 滝の見える橋の上。女性が一人でたたずんでいる。

ナツキ「……雨? はぁ。なんでここに来ちゃったんだろ。」

ショウタ「あの、大丈夫ですか?」(後ろから声をかける)

ナツキ「え?」

ショウタ「……!」(知り合いに似ており驚く)

ナツキ「あの?」

ショウタ「あ、すみません。雨が降ってきたのに傘をお持ちでないようだったので。これ、お貸ししますよ。」

ナツキ「え……?」

ショウタ「あ、僕、ここの観光所の者です。怪しいものじゃないですよ。」

ナツキ「観光所?」

ショウタ「はい。ここに来るとき通りませんでした? 古い建物の前。」

ナツキ「あ、ああ。展望台とかあったところ。」

ショウタ「そうです、そうです。雨が降り出したので見回りに来たら、女性が傘もささずにいるので思わずお声がけしてしまいました。驚かせてしまったのなら、すみません。」

ナツキ「ああ、なるほど。お気遣いいただいてありがとうございます。……傘、お借りしますね。」

ショウタ「はい、使ってください。」

ナツキ「ありがとうございます。」

ショウタ「……あの。」

ナツキ「はい?」

ショウタ「あ、いえすみません。」

ナツキ「あ、ふふ、そうですよね。変ですよね。」

ショウタ「え?」

ナツキ「雨の予報の日に傘も持たず一人で滝を見に来る女。変だなって思いましたよね。」

ショウタ「あ、いえ、そういうわけじゃ。」

ナツキ「いいんです。私も、なんでここに来てしまったのかわからないので。」

ショウタ「わからない?」

ナツキ「はい。今日、彼と別れて。気づいたらここに来てました。」

ショウタ「……」

ナツキ「あ、ごめんなさい。私、初対面の人に何言ってるんだろ。」

ショウタ「あの、僕でよければ、お話聞きます。」

ナツキ「え?」

ショウタ「あ、その……多いんですよ、ここに来るお客さん。何かしらの思いを抱えてこられる方が。」

ナツキ「……そうなんですね。」

ショウタ「はい。特に滝なんで。まぁ、いわゆる崖なんで、その、決心されて来る方とかもいらっしゃいますし。」

ナツキ「あー。あ、私はそういうのじゃないですよ!」

ショウタ「あ、はい、違うかなとは思ったんですが。」

ナツキ「そっか。だからですかね? なんか、お兄さん喋りやすいです。」

ショウタ「そ、そうですか? まあよく皆さんのお話を聞かせていただいています。」

ナツキ「じゃあ私も聞いてもらってもいいですか?」

ショウタ「はい、もちろん。」

ナツキ「ありがとうございます。……私、もう28になるんですけど。この年齢だと、そろそろ結婚とか考えるんですよね。」

ショウタ「はい。」

ナツキ「でも私、付き合っても付き合っても、誰とも長く続かないんです。」

ショウタ「はい。」

ナツキ「しかも、別れるたびに思い出すんです。」

ショウタ「思い出す?」

ナツキ「そう。一番最初に付き合った彼のことを、思い出すんです。ここも、彼との思い出の場所なんです。」

ショウタ「そうなんですね。」

ナツキ「なんでかなー。私から連絡とらなくなったくせに、10年経った今でも思い出す。」

ショウタ「忘れられないんですね。……まだ、好きとか?」

ナツキ「好きか……どうなんだろ。でも、あの時彼が私のことを思い続けてくれていたって記憶だけはずっと心の底にあるんです。」

ショウタ「思い続けてくれた、記憶。」

ナツキ「今思えば、彼だけなんですよ。あんなに私のことを考えてくれて、ずっと好きでいてくれた人は。なんでこんな私のことをって思うほど。」

ショウタ「……」

ナツキ「今なら、あそこまで人を好きになることがどれだけ難しいかわかるけど。当時の私は、私のことだけじゃなく、もっと周りや将来を見てほしかったんだよなぁ。」

ショウタ「……」

ナツキ「あ、ごめんなさい。うーん、やっぱり喋りすぎちゃったかな。」

ショウタ「そんなことないです。……ここには、今までもよくいらっしゃっていたんですか?」

ナツキ「ううん。今日、本当に10年ぶりに来たんです。なんか、気づいたら足が向かっていて。」

ショウタ「……」

ナツキ「でも、ここに来てよかったって思います。」

ショウタ「どうして、ですか?」

ナツキ「やっぱりここに来たら彼のことを思いだしてしまうけど、それならそれでいいやって。思い出すだけ思い出して、懐かしんだら、今度こそいい思い出に変わる気がする。」

ショウタ「思い出にしてしまって、いいんですか?」

ナツキ「え?」

ショウタ「あ、すみません。ぼ、僕も、昔付き合っていた人のことが忘れられなくて。」

ナツキ「あなたも?」

ショウタ「はい。……彼女の気持ちを考えられなくて、愛想つかされたんです。」

ナツキ「……」

ショウタ「後悔してます。彼女が僕に距離を置きたいって言った時、僕は理由がわからなかった。なぜこんなに好きなのに、何がダメなんだろうって。彼女は別のことを望んでいたんです。もっとコミュニケーションを取ればよかったんですけどね。」

ナツキ「……あなた」

ショウタ「あ、そろそろ戻らないと。」

ナツキ「あ……お仕事中でしたよね。」

ショウタ「いいんです。お話できてよかった。……あの、僕、そういうことがあったので、後悔しないように生きようって決めて。だから、あなたにも後悔だけはしないで欲しいなと。すみません、何様だって話ですけど。」

ナツキ「後悔しないように、か。」

ショウタ「だからその、またよかったらここに来てください。滝、晴の日の方が何倍も綺麗に見れますから。」

ナツキ「……はい。」

ショウタ「それでは、また。」


一週間後

ショウタ「こんにちは!」

ナツキ「あ……こんにちは!」

ショウタ「偶然ですね。また見回りのタイミングでした。」

ナツキ「ほんとですか、よかった、会えるかなーと思って来たので。」

ショウタ「……え?」

ナツキ「あの、これ、傘。ありがとうございました。」

ショウタ「あ……わざわざ、どうも。」

ナツキ「あの後、結構降り出してきたんで、貸してもらえてよかったです。本当にありがとうございました。」

ショウタ「あ、いえ。ここの職員として当然のことですから。」

ナツキ「それに、話も聞いてもらえて。」

ショウタ「……どうされるんですか?」

ナツキ「そうですね。……どうするか、決めるためにここに来ました。」

ショウタ「それなら……あの、今日は晴れてますし、よければ絶景スポットにお連れしますよ。」

ナツキ「はい。ぜひ、お願いします。」

ショウタ「……ここです。ほら、ここから見える滝、日差しが射すと光を反射して浮かび上がって見えるんです。神秘的ですよね。」

ナツキ「うん。……きれい、ですね。」

ショウタ「本当に神様でも住んでいそうな光景ですよね。」

ナツキ「……懐かしいなぁ。あの時、ここで告白された。」

ショウタ「覚えているんですね。」

ナツキ「あたりまえですよ。高校生がこんな場所で告白するって、少女漫画でもなかなか見ないですから。」

ショウタ「彼は趣味が変わっているんですね。」

ナツキ「そう、変わった人なんです。仲良くなったのも、それがきっかけだった。」

ショウタ「それも、覚えてるんですか?」

ナツキ「もちろん。ここには高校の地域学習でみんなで来て。ほかの生徒たちは興味がないようだったけど、私たちだけはずっとこの滝に見入っていた。そこで彼と初めて話した。」

ショウタ「それなら、あなたも大分変った趣味ですよ。」

ナツキ「そうなのかもしれない。」

ショウタ「彼はきっと、自分のことをわかってくれる人がやっと現れたって思ったでしょうね。」

ナツキ「……あの」

ショウタ「あの、なんで彼と別れてしまったか、聞かせてもらえませんか?」

ナツキ「え……。そうですね、私たちは、高校三年生でした。あのころって、将来への漠然とした不安とか、受験が迫る緊張感とか、とにかく、不安が付きまとう毎日だった。」

ショウタ「はい。」

ナツキ「私もずっと将来が不安でした。いい大学入って、いい仕事に就かないと。そんなことばかり考えていた。でも、彼は違った。」

ショウタ「彼は、何を考えていたんでしょう。」

ナツキ「彼は、とにかくその時を生きていた。好きなことだったり、私のことだったり、そういうことには一生懸命なんだけど、将来のことは何も考えていないように見えた。」

ショウタ「……」

ナツキ「私はそんな彼を見ているうちに、大学に入ったら? 就職したら? って、彼との未来を想像しては、何も考えていない彼に対して苛立ちを覚えるようになっていきました……」

ショウタ「それで、大学進学をきっかけに連絡を取らなくなったんですね。」

ナツキ「……はい。私、後悔してる。もっとこうして欲しいってちゃんと言うべきだった。」

ショウタ「彼も後悔してましたよ。もっとあなたと話しをして、お互いの気持ちを伝えあっていればって。」

ナツキ「え……」

ショウタ「……もし彼がまだあなたのことが好きだと言ったら、あなたはどうしますか?」

ナツキ「……そう、ね。私、年を重ねてわかったことがあるの。お金や地位、そういうのがあれば生活は困らないかもしれない。だけど、そこに愛がなければ、人生はつまらないものになる。」

ショウタ「うん。」

ナツキ「彼となら一生、お互いを思い合って付き添える気がする。……だから、その。」

ショウタ「……ねえ。」

ナツキ「?」

ショウタ「気づいているんでしょ?」

ナツキ「! ……うん。」

ショウタ「ナツキ。」

ナツキ「……ショウタ。」

ショウタ「よかった……最初は気づいてないのかと思ったよ。それか、他人の振りしてるのか。」

ナツキ「正直、最初は気づかなかった。だってショウタ、髪も短くなって、背も伸びて……まるで大人の男性って感じだし。」

ショウタ「そりゃ10年も経てばね。ナツキはさらに綺麗になったよ。」

ナツキ「ありがと。……でも本当にびっくりした。」

ショウタ「うん、僕もここにナツキが来たときは驚いたよ。」

ナツキ「ショウタは最初から気づいてたの?」

ショウタ「いや。声をかけたのは、本当に傘を渡すためだったんだ。でも、振り返った顔を見て驚いたよ。」

ナツキ「あの時から」

ショウタ「うん、でもナツキは気づいていないようだったから。僕だってばらしてもうここに来てくれなくなったらと思って。」

ナツキ「うん。」

ショウタ「でも、今日君がここに来てくれて。君も気づいたのかなって思った。」

ナツキ「そう、だね。あの雨の日から、何かが引っかかってて。今日は確かめに来たの。」

ショウタ「確かめられた?」

ナツキ「うん。」

ショウタ「そっか。……ねえナツキ。さっきの質問、もう一度してもいいかな?」

ナツキ「いいよ。」

ショウタ「ナツキ、僕は君のことがずっと好きでした。もう一度、僕とお付き合いしてもらえませんか。」

ナツキ「……はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」

ショウタ「うん。」

ナツキ「ふふ、ありがとう、ショウタ。私、今度は自分の思ってることをちゃんと伝えるね。」

ショウタ「うん、沢山喋ろう。次は、後悔しないように。」


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