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[無料朗読台本]喫茶店、アイスティーと小説

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カラン。
汗をかいたグラスの中で氷が傾いた。
飲みかけのアイスティーを、思い出したかのように一口飲む。
紅茶の香りが鼻の奥までひろがる。
何の種類かわからないけど、私はこのアイスティーの香りが好きだ。

夏休み前の授業は時短で終わることが多い。
今日もそう、授業はお昼まで。
こういうとき、普通の女子高生はどう過ごすのかな。
そういえばクラスメイトがカラオケに行く話をしていた。
バイトに行く子もいたみたい。
カラオケにバイト、みんな女子高生っぽいことしてるなぁ。
……私はというと、家の近所の喫茶店でアイスティーを飲んでいる。
図書室で借りた小説を持って。

女子高生っぽいこともいいけど、私はこうやって過ごすのが好きだ。
何も予定のないない昼下がり、時間を気にせずお気に入りの喫茶店で好きな香りのアイスティーを飲みながら小説を読む。
うん、最高な時間の過ごし方だと思う。

お昼は過ぎているのでお店にはお客さんも少ない。
私の他にはサラリーマンらしきスーツの男性が一人。
奥の席でパソコンを開いてなにやら作業をしている。
喫茶店のスタッフはテーブルや床を熱心に掃除している。
長居しても迷惑にはならなそうだ。

図書室で借りた本を鞄から取り出す。
表紙には、なんだか判別のつかない青色の丸い図形が描かれている。
今日借りた本は、図書室で偶然見かけた本。
本棚を眺めていたら、ふとこの表紙が目についた。
この青色に引き寄せられるように手に取って、気が付いたら借りていた。
帰宅中、どうしても早く読みたくなって、この喫茶店に入ってしまったというわけだ。
アイスティーを飲みたい、という気持ちもあったけれど。

私は本を読むのが好きだ。
小説を読めばなんだってできる。
大人にだってなれるし、男性にもなれる。
時には不思議な力を使うことだってできる。
私はこの喫茶店にしかいないのに、宇宙にだって行けるのだ。
小説を読むことは「経験」のような感覚に近い気がする。
普通に生きていたらできない経験を、小説を読むことでなら経験することができる。
……そんな気がする。

さて、今日はどんな世界に行けるだろうか。
アイスティーを一口飲みこみ、私は小説を開いた。

ズズッというストローの音で意識が戻る。
小説を、全て読み終えた。
2、3時間たっただろうか。
アイスティーもいつの間にかなくなっている。
奥の席のサラリーマンはいなくなっていた。
私は小説を閉じて、鞄にしまう。
そろそろ帰ろう。
お会計を済ませて、お店を出た。

私はこうやって過ごすのが好きだ。アイスティーの香りが好きだ。本を読むのが好きだ。
好きなことをしているこの瞬間が、とっても好きなんだ。



◇この台本を使った動画
https://youtu.be/NajQhlGiZu8
◇上野桃香Twitter
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◇上野桃香YouTube
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