見出し画像

【無料掛合台本】朝焼けの記憶 (男1女1)

約5000文字
友情のような恋のようなお話。しっとり系。

▼利用規約必読
https://note.mu/momoka_ueno/n/n938a7e38eee6

倉橋 ユウマ
高3。バスケ部
部活命で真剣に取り組んできたが、骨折で最後の大会に出られない可能性が高くなってしまった。

堺 アキ(暁)
高3
ずっと入院している女の子。
とある理由でユウマの病室を訪れることに。


場面 明け方。病院の一室。大きな窓の横のベットに寝ているユウマ。

ユウマ「……ん、朝? ここは?(周りを見渡す)病院、か。そうか、夢じゃないんだ。俺はバスケの試合中、相手の選手に派手にぶつかって、足を骨折した。それで二週間の入院、か。……こんなんじゃ、夏の大会には出られない、かな。あーあ、これからどうしよ……」

アキ「あ、あの、ごめんなさい。」

ユウマ「!? だ、え、今、聞いて?」

アキ「(頷く)ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんだけど、声かけないのもと思って。」

ユウマ「え、あ、ああ。……こっちこそごめん、気づかなくて。……えっと?」

アキ「あ、ごめんなさい、いきなり。私は、堺アキ。この階の突き当りの病室に入院しているの。」

ユウマ「へ、へえ、そうなんだ。」

アキ「……あなたの名前は?」

ユウマ「あ、俺は倉橋ユウマ。高3。」

アキ「高3? 同じだ! ユウマ君、よろしくね。」

ユウマ「あ、まじか。よろしく、堺さん。」

アキ「あ、できれば、名前で呼んで欲しいかも。」

ユウマ「えーっと、アキ、ちゃん?」

アキ「うん。ありがと。私、自分の名前が好きなんだ。」

ユウマ「そうなんだ。」

アキ「うん。」

ユウマ「……でも、なんでここに?」

アキ「ああ、そうだよね。あのね……あ、ほら! 窓の外見て!」

ユウマ「え? ……朝日だ。」

アキ「うん、朝日。私、これを見に来たの。」

ユウマ「朝日を?」

アキ「うん。私の病室、反対側だから見れないんだ。それで、ここが一番見やすいから。」

ユウマ「なるほど……。確かにきれいだ。」

アキ「ここから見える景色も好きなんだ。高い山々が連なってて、その間から朝日が昇ってくるの。素敵だよね。」

ユウマ「……(景色に見とれる)」

アキ「でも、今日もだめか……。」

ユウマ「え?」

アキ「あ、ううん。なんでもない。そうだ、ユウマ君は、昨日から?」

ユウマ「あ、うん。そうなんだ。」

アキ「そっか。どれくらい?」

ユウマ「短くても2週間はって言われた。」

アキ「そっか。そしたら、また会うかもね! あ、それじゃ、私戻るね。」

ユウマM
そう言って、アキは病室から出て行った。
俺はその日ずっと、窓の外の高々とそびえる山を眺めていた。

その夜、俺は夢を見た。
部活の夢だ。
骨折した選手はもういらないと、なぜか卒業した先輩たちから言われた。
先生に相談しても続けるのは難しいだろうと取り合ってもらえなかった。
後輩たちからももう、憧れの視線を感じることはなくなった。

……それなら、俺はもう、バスケなんかやめてやる。
無駄だったんだ、高校三年間、何もかも!

アキ「ユウマ君、大丈夫? うなされてたみたいだけど……」

ユウマ「……え? ……アキちゃん?」

アキ「うん、私だよ。わかる?」

ユウマ「ああ。……朝、か。」

アキ「うん。でも今日は残念、もう日が昇っちゃった。」

ユウマ「あ、そっか……」

アキ「……ねえ、バスケ部、なの?」

ユウマ「え?」

アキ「ごめん、わざとじゃないんだけど、うなされてる時に言ってて。……聞こえちゃって。」

ユウマ「あ、ああ。……別にいいよ。うん、俺バスケ部なんだよね。試合中に相手選手とぶつかって骨折しちゃってさ。それでここに来たんだけど。」

アキ「そうだったんだ。……足、固定されてるから骨折かなとは思ったけど。」

ユウマ「うん。……この時期にやっちまったよなぁ。」

アキ「何かあるの?」

ユウマ「大会だよ。これじゃ、夏の大会には出られない……。」

アキ「……そっか。」

ユウマ「ほんと、一番目標にしてきた大会だったのに……。こんなんなら続けてる意味、ないかな……」

アキ「……ユウマ君は凄いな。」

ユウマ「え?」

アキ「ユウマ君は凄いよ。」

ユウマ「何言ってるんだよ。」

アキ「高校生活をかけて、部活に一生懸命取り組んできたんだよね。凄いよ。」

ユウマ「いや、そんなことない。もう続ける意味がなくなったんだ……」

アキ「やめるの?」

ユウマ「……! いや、正直わからないんだ。どうすればいいか、まだ。」

アキ「きっとユウマ君は続ける、そんな気がする。」

ユウマ「……?」

アキ「だって、悩んでるってことはそれだけ真剣ってことでしょ。もう無理だと思ったらもう辞めてる。……違うかな?」

ユウマ「そうなのかな。」

アキ「やっぱり凄いな。一つのことにそこまで真剣になれるの。同い年なのに、凄いよ……それにくらべて私は」

ユウマ「え?」

アキ「あ、ううん、なんでもない。」

ユウマ「……」

アキ「……あ、メロン。」(ユウマのベットの横の机にあるメロンを発見)

ユウマ「メロン? ……ああ。担任の先生が見舞いに持ってきたやつだ。……メロン、好きなの?」

アキ「あ、うんちょっと。……いや、大好物。はは、ごめん、つい視界に入ったから。」

ユウマ「いいよ。ていうか、それなら、このメロンあげるよ。」

アキ「え? そんな、悪いよ。」

ユウマ「うーん、どちらかというと、貰って欲しいっていうか。俺、あんまりメロン好きじゃないから。」

アキ「あ、そうなんだ。……でも、せっかく先生が持ってきてくれたものだから。」

ユウマ「あ、じゃあ今度来るときに食べなよ。看護師さんに頼んどくから。」

アキ「……うん、ありがと。」

ユウマM
その後も、アキは毎朝ここに来た。
俺が起きていたときは、お互いの話しをしたり、アキはメロンを食べたりしていた。
そんなことが続いたある日、俺はアキに聞いてみた。

アキ「なんで毎日来るのか?……そうだなあ。前に私が朝日を見るのが好きって話したでしょ。」

ユウマ「ああ、言ってたな。」

アキ「うん。で、もちろん普通の朝日も好きなんだけど、本当に見たいのは朝焼け。」

ユウマ「朝焼け? 夕焼けじゃなくて?」

アキ「そう、朝焼け。夕焼けは夕日で空がオレンジになるでしょ。それが朝起こるのが朝焼け。」

ユウマ「へえ」

アキ「実は私も見たことないんだ。だから見たいの。」

ユウマ「珍しい現象なんだ、その朝焼けって。」

アキ「うん、私も詳しくは知らないんだけど、いろいろ条件があるみたいなんだ。でも、予測とかはできないみたいで。」

ユウマ「それで毎日。」

アキ「うん。でも今日もダメだったな~。残念。」

ユウマ「きっとそのうち見れるよ。」

アキ「そう、だよね。あきらめないぞ!」

ユウマM
毎朝毎朝、アキはその「朝焼け」を見に俺の病室に来た。
その一生懸命な姿をみて、部活を辞めようとしていた自分が、なんだか恥ずかしくなった。
退院したら、また部活に復帰しよう。レギュラーメンバーになれなくても、自分ができることは何かあるはずだ。そう思うことができるようになっていた。

アキ「なんか、ユウマ少し明るくなった?」

ユウマ「え、そうかな?」

アキ「うん。……まあ、何となくだけど。いいことでもあった?」

ユウマ「そんなのないけど。……あ、そうだ、決めたことならあるんだ。」

アキ「決めたこと?」

ユウマ「うん。俺、やっぱり部活続けようと思う。」

アキ「(驚いて)……そっか。」

ユウマ「俺が入院してすぐ、お前と部活の話しただろ。だから、一応言っておこうと思って。」

アキ「うん、ありがとう、言ってくれて。」

ユウマ「うん。」

アキ「そっか、そっか。……やっぱりユウマは凄いね。」

ユウマ「え?」

アキ「ユウマ、私も朝焼け見れるまで頑張るから!」

ユウマ「朝焼けが、見れるまで?」

アキ「うん。……あ、それじゃ、また明日ね!」

ユウマ「ああ、また明日。……アキ、お前は朝焼けが見れたらどうするんだ?」

ユウマM
実際に過ごしてみると入院生活はあっという間で、俺が入院してもうすぐ2週間が経とうとしていた。
そんなある日、俺はいつもより少し早く目を覚ました。前日に夜更かしをしたせいで二度寝をしたい気分だが、もうすぐアキが来るはずだ。

アキ「あれ、ユウマおはよう。起きてたんだ。」

ユウマ「あ、アキおはよう。うん、なんか目が覚めちゃって。」

アキ「そっか。……今日は見れるかな。」

ユウマ「どうだろうな。」

アキ「……」(窓の外を眺める)

ユウマ「なぁ。」

アキ「なに?」

ユウマ「……朝焼けが見れたら、アキはどうするんだ?」

アキ「……」

ユウマ「見れたら目標達成だろ? そしたらどうするんだ?」

アキ「見れたら……」

ユウマ「ん? あれ……」

アキ「あ……。これ!」

ユウマ「……。」

アキ「朝焼けだ。……きれい。」

ユウマ「本当に空が一面オレンジになるんだな……」

アキ「うん。きれい……。こんなにきれいなんだ。」

ユウマ「よかったな、念願の、朝焼け。」

アキ「うん、……きれい。(朝焼けに見とれている)」

ユウマ「……ふわぁ。(あくび)なんか安心したら眠くなってきたな……」

アキ「ユウマ、私、朝焼けが見れたら……。って、寝ちゃったの? あのね、ユウマ……」

ユウマM
頭の中でアキの声がする。俺に何かを言っている。でも、睡魔が泥のように襲ってきて、俺はそのまま眠りに落ちた。
次に目が覚めたのは、廊下から騒がしい音が聞こえた時。
看護師たちがバタバタとせわしなく働いているようだ。

ユウマ「……俺、いつの間に眠ってたんだ。(まだ頭がぼんやりする)……そうだ、アキが俺に何か言っていたような気がする。……いつも来てもらってばかりだし、今日は俺がアキのところに行く、か。」

ユウマ、松葉づえを使って立ち上がりゆっくり歩きだす。

ユウマ「たしか、この階の突き当りの病室って言ってたな。堺アキ、堺アキ……。……あ、あった。堺 暁。……ん? なんでドアが開けっ放し? ……え?」

ユウマM
アキの病室のドアは開け放たれていた。中を覗くと、看護師が一人、部屋の片づけをしていた。
看護師は俺に気づくと、静かに教えてくれた。
今朝、アキが命を引き取ったことを。

ユウマ「そんな、アキが? ……だって、今朝一緒に朝焼けを見て」

アキ『ユウマ、私、朝焼けが見れたら……』

ユウマ「!? アキ?」(どこからともなく声が聞こえ、驚く)

アキ『って、寝ちゃったの? あのね、ユウマ』

ユウマ「これは……昨日の、俺の記憶……?」

アキ『あのね、ユウマ。ユウマが部活のこと話てくれたとき、私、同い年なのにすごいなーって思ったの。一つのことに真剣に取り組んでるんだなって。とても悩んでたみたいだけど、退院後も部活続けるって言ってくれた時、やっぱりユウマは強いなって思った。』

ユウマ「違う、それはアキが……」

アキ『私ね、本当はもう諦めてたの。最初にユウマに会ったとき、あの時に朝焼けが見れなかったらもう止めようって。でもね、ユウマがいて。次の日、部活の話を聞いて、私ももう少し頑張ってみようって思ったんだ。』

ユウマ「……。」

アキ『……朝焼け。朝焼けって、私の名前なの。アキは暁(あかつき)って書くんだ。自分の名前になってる朝焼けがどれくらい綺麗なものなのか、死ぬ前に見ておきたかったの。だから、毎日ここに来てたんだ。』

ユウマ「アキ……。」

アキ『私、ユウマがここの病室に入ってくれてよかったって思う。ユウマと一緒に朝焼けを見ることができて、本当によかった。……て、寝てるから聞こえてないか。本当にありがとう。……それじゃ。』

ユウマ「あ……! 待って!」

アキ『さよなら、ユウマ。ありがとう。』

ユウマ「そんな……こんなことって……。」

ユウマM
そのあと聞いた話だと、アキの病状はかなり重く、いつ命を引き取ってもおかしくない状態だったらしい。
ということは、朝方病室を抜け出すことなどできないはずだ。
俺が話していたアキが何者だったのかは結局わからないが、朝焼けを見ることに対して、そこまでの強い思いがあったのだろう。

俺は、あの幻のような2週間を、忘れはしない。アキの存在。一緒に見た朝焼け。
記憶の中の、きれいなオレンジ色。
一生懸命な横顔を。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?