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老舗「半兵衛麩」と「ハイアットリージェンシー京都」のコラボお菓子

 その昔、昭和40年代初め頃のお話です。
 毎日、学校から帰ると10円玉を握りしめて、近所の駄菓子屋さんに行きました。そこへ行けば、友達がいて、駄菓子を食べた後、公園や空き地へ遊びに行くのが日課でした。
ある日、ちょっと裕福な家の友達の家の誕生会に招かれた時のことでした。
 台所に見慣れぬ機械が置いてあるのです。
 「これ何?」
と友達のお母さんに尋ねると、
 「オーブンレンジよ」
と教えてくれました。そして、そのレンジで焼いてくれたクッキーやらマドレーヌなる食べ物を、みんなに振る舞ってくれたのです。
 
 当時、我が家ではガスを引いてはいましたが、主にご飯は薪をくべる竈で焚いていました。なので、アメリカのテレビドラマの中に迷い込んでしまったような気分になりました。
 帰宅して、その友達の家の様子を母親に夢中になってしゃべりました。すると、
 「〇〇さんちはね、お父さんが商社に勤めていて、お母さんがハイカラだから特別なのよ」
 と言います。
 私は、マドレーヌの味が忘れられず、何度も「美味しかったよ~」と言いました。
するとたしなめられました。
「うちはうち、余所は余所」
うちの母親の口癖です。そして、こう続けました。
「いい、うちはけっして貧乏ではないの。でもね、あなたに子どもの頃から贅沢をさせてはいけないと思っているの。だから、つましくつましく生活してるのよ」
「つましく」という言葉の意味もわかりませんでしたが、不満でいっぱいだったことは間違いありません。でも、父親がメチャクチャ厳しかったので、わがままは許されませんでした。
 
 それから数日後のことです。
 学校から帰った私は、「おやつ」を母親にせがみました。
 今日の分の10円は、昨日前借して使ってしまっていたので、駄菓子屋さんへ行けないのです。
 「おやつ食べたい」
 あまりせがむので、「仕方ないわね」と、台所の下の扉から何やら袋を取り出しました。
 そして、お皿の上にポンッと置き、その上に蜂蜜を垂らしてくれたのです。
 それは、お吸い物や煮物に使う「お麩」でした。
 たしか、ゴルフボールよりも少し大きいくらいのものだったと思います。
 サクッとして、甘くて、口の中で溶けてしまう。
 とにかく美味しかったことを覚えています。
 
 さて、話は飛びます。
「京都祇園もも吉庵のあまから帖」シリーズの第8巻に登場する京都の老舗「半兵衛麩」さんのお菓子
 「玉‐TAMA‐」
をいただきました。
 ハイアットリージェンシー京都さんとのコラボ商品です。
 創業335年の職人さんの技が培った手焼きの「麩」をアーモンドパウダーと合わせた「ほろほろ」のクッキーです。
 いや、クッキーと呼ぶには柔らかすぎます。
 ううん、柔らかいというのとも違います。
 フワッとして、
 サクッとして、
 クスッとして、
 トロッとして・・・上品な甘さ。
 竜宮城とか桃源郷があるとしたら、きっとこんなお菓子を食べているんだろうなあ~と思うほどの、高貴なる味と触感なのです。
 
苺、柚子、ほうじ茶、抹茶、和三盆の5種類あり。
 
写真は、母親が遺してくれた塗りの菓子皿に、苺と抹茶と柚子の三つを載せたものです。
ああ、母親に食べさせたかったなあ。
私の中では、「あの日」の「蜂蜜麩」と並ぶ双璧の逸品です。

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