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華麗なる誘惑

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Koji様の素敵イラストから妄想したショートストーリーたち。ヘッダー画像、この小説に使用させていただいたイラストは、すべてKoji様に著作権があります。
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記事一覧

手と手で繋ぐやさしさのカタチ

冷え切った手に、息を吹きかけていると、稜の手が私の右手を掴み、自分のポケットに突っ込んだ。

ポケットの中が温かいわけじゃない。だけど稜の手はまるでカイロのように温かくて、私の手に少しずつ温もりを与えてくれる。

「本当に、瑠奈の手は冷たいな」

そういう稜の首元は、私より寒そうだ。
今年のクリスマスは、稜にマフラーをプレゼントしようって決めている。
制服にも似合うようなダークグレー。
見ているだ

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優しい風に想い舞うキス

校庭の片隅にある桜の花びらが、ひらひらと舞っている。
優しい空に、それはまるで美しい雪のようだった。

グラウンドを見下ろすと、ユニフォーム姿の男子が数人目に留まる。
そのうちの1人、健太はすぐに私の視線に気づいたのか、ニカッと真っ白な歯を見せて笑うと、大きく手を振ってきた。

健太は、付き合い始めて1ヶ月の私の彼氏だ。
同じクラスになってすぐの頃から憧れてはいたけれど、健太の存在は恋愛感情という

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暗闇の中で咲かせた恋

両親が仕事で不在で、時間をもて余していた一人の夜。
激しくなるばかりの雨音に、少し心細さを感じながらテレビを見ていると、インターフォンが鳴り響いた。

「理?」

立っていたのは、幼なじみの理。

「一緒にDVDでも観ない?」

その言葉に、一気にテンションが上がって、ドアを開けた。

「ほら、これ。前に藍が観たいって言ってただろ?」

理が差し出したのは、前に私が理のことを誘って断られた恋愛映画

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淡恋ジンジャー

グラスに氷を四ついれて、ジンジャーエールのボタンを押す。

私よりも全然大人のくせに、卓巳が選ぶのは、いつもジンジャーエール。
普段だったら、なんの躊躇いもなくコーヒーを選ぶ私も、コーヒーカップを戻して、グラスを手に取ると、こちらに背を向けて、窓の外を眺める卓巳に誘われるように、自分のグラスにもジンジャーエールを注いだ。

二つのグラスをコトンとテーブルの上に置くと、卓巳がゆっくりと私に視線を移す

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星降る夜に、かかる虹

丘の上にある、まぁるい公園からは、海が一望できた。
ゆっくりと沈む太陽が、海を朱に染めている。

「ほら、おいで」

手を伸ばすと、愛猫のとろろが、ピョコンと私の腕に飛び乗ってくる。
3キロ近くあるとろろは、私の腕の中にすっぽりとおさまった。

冷たい空気。吹く風が体温を奪っていくけれど、とろろを抱っこしている腕の中は温かい。
とろろを抱き抱えながら、私は少しずつ暗くなっていく海を見つめる。
普段

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雪の涙が降る前に

窓の外を見ていた。
部屋の中は、冬になれば暖かく、夏になれば涼しく過ごすことができるのに、冬になれば冷たい空気を肌で感じたかったし、夏になれば太陽の下で、汗をかきたいと思っていた。

「真紀、起きてたの?」

「あ、うん」

翔平は、部屋の中に入ってくると、私の隣に腰をおろした。

翔平と私は、5年前に駆け落ちをした。
それからずっと、この小さな部屋で、ふたりひっそりと身を潜めて生きている。

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まんまるの優しさを繋いで*あとがき

未読の方はまず本編からどうぞ。

このお話は、noハン会小冊子企画で書いた小説だ。
ちなみに、テーマはこのイラスト。

Kojiちゃんの描いたイラストだ。

私がこのイラストを見て受けた印象は、まぁるい地球。歌に例えたら、「小さな世界」だ。
手と手を握り合って、まぁるい世界を思いやりと優しさで包み込んでいる。

生きている限り私たちは、喜怒哀楽、どの感情も持ち合わせている。喜怒哀楽は、いろいろなカ

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恋のメロディーを奏でる前に*あとがき

未読の方はまずこちらから。

明るい色あいと、リズミカルな雰囲気のイラスト。
このイラストからは、何かが新しく始まる予感がした。
中学生のときは、吹奏楽部だった私。
スタートラインはみんなほぼ同じだった。練習前のジョギングや腹筋などの体力トレーニングが懐かしい。

この小説のような甘酸っぱい想い出は持っていないけれど、楽器ってできるようになると楽しい。もちろん、楽器に限らずだけれど、できなかったこ

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恋の答え合わせ*あとがき

未読の方はまずこちらから。

人には話せることと話せないことがある。
嘘をつくということではなく、言わない方が幸せなこともあるし、それは聞かない方が幸せなことなのだとも思う。

だけど、それでも人は、真実を知りたいと思ってしまうのだろう。
聞かない方が幸せなのだから、けっしていい話じゃないのはわかっているのだ。
だけど、知らないということを知ってしまったら、やはり知りたいと思う欲求を抑えることがで

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まんまるの優しさを繋いで

真夜中に目が覚めると、窓から見える月は、いつもまんまるだった。
隣に眠る圭のことを起こさないように、静かにベッドから降り、ベランダに出る。
冬がすぐ近くまで来ているせいか、空気はひんやりと冷たく感じられた。

圭と一緒に暮らすようになってから、7年が過ぎた。
何度か圭にプロポーズをされているけれど、私はその答えをずっと先延ばしにしている。

その理由はただひとつ。

どんなに愛していても、圭に依存

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ブラックラバーズ*あとがき

未読の方は、まずこちらから。

叶わないとわかっていても、本能で求めてしまう、そんなことってあると思う。
それは、恋や愛だけではない。
世の中は綺麗なものばかりではなくて、目を覆いたくなるようなことも、たくさんある。
見て見ぬ振りをすることも、知らない振りをすることも、時としては必要なこと。
さまざまな悩みや葛藤を抱えながら、私たちは生きている。

真っ黒な気持ちを抱えて、それを見せないように生き

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恋のメロディーを奏でる前に

気持ちいい秋晴れの空。
冷たい空気に負けないように、校舎の屋上に降り注ぐ太陽の光。

私は、軽く伸びをすると、持っていたトランペットをもう一度構えた。

中学時代、吹奏楽部がなかったこともあり、高校に入学して、やっと念願の吹奏楽部に入部することができたのはよかったけれど、私以外の部員は全員中学時代からの経験者。

しかもコンクールで優秀な成績を残して来た人も多く、初心者の私にとっては決して居心地の

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恋の答え合わせ

「ちょっと、淳弥くん、くすぐったい」

背中にすーっと線を引く淳弥くんから、逃げるように身体をそらす。
それを見ながら拓がくすくす笑った。

「告白大会でもするか?」

「告白大会?」

拓の言葉に、私と淳弥くんは顔を見合わせる。

「今思ってることを背中に書く。チャンスは一度。わからなかったら、それでおしまい」

「おーっ、いいね。拓の浮気心とかわかるかもしれないなー」

「ばーか、俺はずっと理

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ブラックラバーズ

叶わないとわかってる。

あなたの求める女が、私ではないことは、他の誰でもない、私が一番よくわかってるから。

"友達"という、都合のいい立場を選んだのは私だ。

その理由は、このもやもやと真っ黒な気持ちをいつまでも浄化させてくれない。

"恋人"なら別れることがあっても、"友達"ならずっと一緒にいられる。

臆病な私は、そんな狡い理由だけをいくつも並べて、あなたと隣にいる彼女の不幸しか願えない。

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