さよなら、イチリンソウ

あの花の残り香はとうに褪せて、今部屋に立ち込めるのは悲しい煙の臭いだけであった。

私は右手には煙草を左手にはバイト帰りに購入してきた缶ビールを握りしめていた。部屋は散らかり教材とゴミが混ざりあって私の探し物は見つからないのも仕方ないと言えるものになっていた。この状況を作り上げたのは他でもない私であって責め立てるべき相手も私のみだった。彼は悪くない。

私はそそくさと立ち上がり部屋の明かりを閉じるために歩き始めた。ピッと音を鳴らすことに成功すると夜の帳が降りるよりも早く部屋は黒に包まれ、私はベッドへと体を抱き寄せた。

数日前はここで抱き合った彼はもういない、、けれど、そこには彼の匂いが色濃く残っていた。布団を顔に覆い被せて次第に消えかけていく感情を呼び起こしていた。部屋に敷き詰められた煙草の匂いには気を止めないほど私の体は彼の匂いで満たされた気がしたが当然のことながら心までは満たされなかった。

別れたことには後悔している。あたりまえだ。彼は夢のために前を向いて頑張っている。それを素直に応援できない私は一体何者なんだ。。

さよなら、イチリンソウ。

でも、私はまだこのベッドから動き出すことは出来ないよ。

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