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くだもの

先日のこと。
久しぶりにひとりで自由が丘に行った。メインの用事は、身体のメンテナンス。

診てくれた先生は、外側は鍛えてあるから大丈夫!と言ってくれた。内臓は鍛えられないからねぇ、ははは。と続いていたけど。まぁ少しでもいい方向にいたいと思えば、身体のことを労るのがとても大切なことなのだろう。そろそろ東京マラソンの抽選結果も通知されることだし、走り始めようとも思った。

自由が丘といえば、オシャレな街である。僕が知っている情報はそれくらいで、たまに何かを買うとか、習うとかで訪れている街なのである。結婚して引っ越しをしたら、遠くなってしまって、なかなかふらっと立ち寄ることはできなくなった。

何度か来ていながら、見たことのない店は多いし、様変わりしている風景もある。流行り廃りこそ、オシャレの性質でもあると思うから、それは仕方のないことだ。

そんな場所で、駅から少し歩いたところに、フルーツの店がある。何かのときに知って気になっていた。そもそも、店の前で看板を見ただけで、どんな商品を売っているのか知らなかった。考えていたら、もう店の前だった。ひとりだし、イメージと違ったらにこやかに辞去すればいい。意を決してドアを押した。

そこは、パフェを出すお店だった。

旬の果物をパフェにしているとのことで、今は、メロン、モモ、ぶどう3種、シャインマスカット、というラインナップ。迷った末に、シャインマスカットのパフェを注文した。

僕は、ひとりでもパフェが食べられる。

ひとり焼き肉ならぬ、ひとりパフェである。初めの頃は、抵抗があったけれど、どうしても食べてみたい、という気持ちに比べれば、恥ずかしさなど、払うに値するコストであることを何度も経験するうちに、なんというか、普通になってしまった。

とくに旅先は格別だ。

北海道のソフトクリーム、青森のりんご、京都の抹茶、金沢の麩、鹿児島の白熊。各地の名産品を使って彩り豊かに作り上げられたパフェは作品とも呼べる。パフェの語源は、「パーフェクト」だと何かの本で読んだことがあるが、果たしてそのとおりだと思う。

ガラスの向こうのキッチンでは、黙々と材料がグラスに詰められている。うっかりして、写真すら確認せずに注文してしまったから、どんなパフェが来るのか分からなかった。多くはないテーブルは女性ばかりで、何故かパフェを食べている人がいなかった。

気がつけば男性がいない。キッチンにもいない。こういうことは、ままある。パフェに集中すれば、特に気にならないことはすでに説明したとおりだ。


黄緑色の飾りをつけた、独特の形のグラスが運ばれてきた。これが、シャインマスカットか。なるほどキラキラと輝いている。上から順番に食べていくと、あっという間に食べ終わってしまった。特に、ぶどうが美味しかった。バニラアイスもとても良い味がした。

実は、パフェを出す店だったのは、たまたまだ。僕は食べ物のお店に関しては、事前に調べることが好きではなくて、こういう偶然が結構ある。それ以上に、定休日とか臨時休業にも出遭う。だからこそ、美味しいものや、温かな店員さんとの出会いが、楽しいし嬉しいのだ。

パフェを食べていたら、店主らしいダンディな男性が店に入ってきた。僕を一瞥してキッチンに入ったが、食べ終える頃に出てきて、話しかけて下さった。

「いかがでしたか?」

「とても、美味しいです」

もっと気の利いたことを言いたかったが、どうも緊張していたのか、喉が詰まりそうになりつつ慌てて答えた。

男性の硬かった表情が崩れ、笑って下さった。

「それは良かった。また、いらしてください」

美味しいパフェに出会えたことも、わざわざ声をかけていただいたことも、店の良さとしてインプットされる。家族へのお土産を買いたかったが、店で食べるほうがはるかに美味しいだろうと思い、やめた。

帰り道、満たされていたのはお腹だけではなかった。これまでの経験から、女性客ばかりの店内では、ほとんど話しかけられない。店主らしき、と感じた男性は一体どんな方なのだろうか。もっと果物の話しをすれば良かった。ほかのパフェも見てみたかった。今度は家族や友人と行きたい。

ほら、また自由が丘に行きたくなる。

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